第72話「サバイバルゲーム」

 ――飛鳥が先行し、それを残りの4名で追い掛ける。


 上海と同じ作戦で行動しようと、主戦場となっていたエジプトはカイロに降り立ったのだが、雅は自分の偏見と、カイロを詳しく調べなかった自分の未熟さに、怒りを覚えた。


 偏見とは、砂漠のイメージが強く、隠れる場所が無いと思い込んでいた事。

 確かに、すぐ傍には広大なサハラ砂漠が広がっているのだが、戦場となるカイロは大都市で、比較的高い建物も点在しており、また、他の都市に比べると建物が密集していることから、上空から見たカイロは、まるで迷路のようだった。


 しかし、そんな事よりも、問題だったのは……。



 ローレンスとの対戦を終え、インベイド社に戻った刀真は、まだ居ると思われた4階へと向かったのだが、そこに部員たちの姿は無く、何処に行ったのかと、案内役のマリアに電話を掛ける。


「マリア、今、何処に居るんだ?」


「最上階よ」


「最上階? 高校生に、随分と贅沢な場所を与えたんだな。じゃ、今から上がるよ」


「あ、でも、あの子たち、今、降りてったわよ」


「ということは、ミーティングをそこで?」


「えぇ、ジオラマも使わせてみたわ」


「そうか、解った」


 てっきり、ゲームが終わってから、一緒に帰ってくるだろうと思っていたのだが、電話から3分も経たずに会議室に現れ、マリアが驚く。


「あれ? 見てなくて良いの?」


「こっちの方が、戦況を把握し易いからね。あと、何を話してたか、君から客観的にも聞けるし」


 そう言うと、突然、マリアが笑い出した。


「もぅ! せ、折角、ク、ク、ククッ、落ち着いて来てたのにぃ!」


「へ?」


 刀真は、ジオラマを操作して上海戦を5倍速で観戦しながら、マリアから部員たちのミーティング内容を聞く。


「なるほどね、ということは……あのケーキを2つ押さえてる席が、東儀飛鳥だな」


「ク、ク、ククッ、も、もぅ! わ、笑わせないでよ!」


 バシバシとマリアに背中を叩かれながら、上海戦を観終わった刀真は、現在、部員たちがログインしているエリアのライブ中継に切り替えた。


りにって、カイロを選んだか……」


「カイロに、何か在るの?」


「カイロはね、シナンの要望を受けた実験地域テストエリアなんだ」


「え? シナン? シナン・ムスタファー? テストエリア?」


「あぁ、此処カイロは、シナンが帯牙たいが叔父さんと、サバイバルゲームを楽しむ為に作ったような戦場なんだよ」


「サバイバルゲーム?」


「このエリアではね、レーダーも筐体によるボイスチャットも使えないんだ」


 非公開時代には、通常のサバイバルゲームで楽しまれているような、フラッグ戦、大将戦、殲滅戦、キツネ狩りなどが行われていたが、公開となった今は、殲滅戦だけに限定している。

 また、このGTW内に限ってのことだが、シナンのようにサバイバルゲームを楽しむ者たちは、対戦チーム以外のログイン者のことをキツネと呼んでいた。


「しかし、なんでそんなことを?」


「不便であれば、違った楽しみ方が生まれるってモンなのさ」


 さて、俺の言った事を覚えてるヤツは、居るかな?



 カイロにログインしたと同時に、レーダーには地図と自分の現在位置しか映らず、そして、筐体のボイスチャットが使えないエリアだと警告が表示され、桃李ゲーム部員たちは悩んだ。

 そんな中、真っ先に動いたのは、飛鳥だった。

 飛鳥は、自分が派手に動くことで、合流場所を作ろうとしたのだ。


 矢張り、お前が最初にしびれを切らせて動いたか……、

 しかし、正解とまでは言えないが、間違いでもない。


 GTWは、地球を再現しているが、実は再現していない物も存在する。

 それは、教会などの宗教施設だ。

 ゲームとは言え、それを破壊することを許さない者も多い。

 そこでラルフは、全く違う建物を配置するようにしたのだが、後に観光フラグを設けた際、フラグの付いた者だけに、本来の姿で当たり判定の無い(破壊されない)物か、壊れる別物かを選択出来るようにしたのだった。



 ――自分の居場所を教える馬鹿が居る。


 仲間の報告を受け、シナンは笑った。


「どうやら、キツネの中に、イノシシが迷い込んで来たようだな」


 レーダーが使えないことから、相手の名前(ドライバーネーム)はおろか、機体も判らない。

 その暴れている赤い機体を目視するまで、シナンは誰を相手にすることになるのか、未だ知らずに居た。


 飛鳥は、次から次へと建物を剣で斬って行き、その破壊音で他の部員たちも、飛鳥の位置を知ることが出来のだが、無論、それは敵も同様である。


「飛鳥の位置は、判ったけど……どうする? ボイチャなしで、どう連絡を……」


 そう呟いた時、連絡という言葉がキーワードとなって、雅は顧問の言葉を思い出す。


 ――場合によっては、お前たちが持っているスマホなどをサブで利用するのも悪くない。


 急いで筐体に周波数を合わせたヘッドセットをスマートフォンに切り替え、グループチャットで部員たちを呼び出した。


「みんな、いい? 筐体に繋いでるヘッドセットをスマホに切り替えて! 取り合えず、この先にある考古学博物館へ」


 全員がエジプト考古学博物館に着いたところで、つむぎがボヤいた。


「なんでレーダーとか、ボイチャとか使えないんですかね? オペレーターも、そうなんですかね?」


「先に警告が出たから、きっと、そういう設定のエリアね。もしかすると、オペレーター無しの縛りプレイなのかも?」


 しかし、この紗奈の予想は半分外れていて、この限定エリアに、オペレーターは参加している。

 もちろん、ドライバー同様、レーダーやボイスチャットは、オペレーター用PCから使えない仕様だ。

 しかし、ボイスチャットは、雅たちと同様にサブでタブレットを用意しており、レーダーはというと、仲間同士で連絡を取り合いながら、地図上に敵や味方の位置をマーキングして、ドライバーに知らせていた。

 更には、音で位置を判断するソナーを抱えるチームや、偵察機を飛ばすチームも居た。

 したがって、通常のサバイバルゲームのような手信号ハンドシグナルを平均15mのGTMが送り合う事はない。

 此処カイロに限っては、オペレーターというよりも、むしろナビゲーターと呼ぶべき存在なのだ。


 この圧倒的不利な戦場の中で、雅たちにとって幸運だったのは、後に判るのだが、この戦場には3チーム居て、そのチーム同士による殲滅戦が行われていた事と、自分たちと同じように、そのチーム以外のログイン者が多かった事だった。


 今、行われているシナン提案の殲滅戦とは、3チームでドライバー数を合わせ、30分間の戦いで生き残りが多いチーム、または、全員が墜ちた場合でも、最終ログアウト者のチームが優勝というゲームで、多額のENが賭けられていた。

 何故、その3チーム限定のエリアにせず、チーム外のログイン者を受け入れるのか?

 それはチーム外のログイン者が、サバイバルゲームで言うところの敵を探すための『探り撃ち』をさせるような存在になる事と、不確定要素として、ゲーム楽しむ為の一要素にしていたからだった。

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