第31話「オーバーキル」

 ログインするとすぐに、戎橋のど真ん中で、仁王立ちするスカルドラゴンのGTMが見えた。

 雅は、まずは距離を取り、橋の南角に在るビルの屋上に降り立つ。


「ちょっと、デカイわね」


 GTR3200は、重量感のあるGTMで、戎橋の横幅いっぱいの大きさがあった。


 ――彼のワイヤーには、十分注意してください。


「注意するも何も、武器が一つだけなんだから……って、考えちゃダメなのよね、きっと何か在るんだわ。たぶん、勝負においては、中立を守って一言だけ……いや、一言添えてくれただけでも、アタシよりね……」


 すると、フィールド全体が赤く点滅し、宮崎のアナウンスが入る。


「それでは、対戦モードを開始します。この勝負における、ランキングポイントの移動は有りません。それでは、開始10秒前、9、8、7、6、5、4、3……」


「さぁ~て、お手並み拝見と行こかーッ!」


 スカルドラゴンは、宮崎のカウントが終わる前に、右手に持ったワイヤーをGTX1800へ放った。

 真っ直ぐ伸びて来たワイヤーは、そこそこの速さが有るものの実弾よりは遅く、この距離なら迎撃出来ると判断した雅は、レーザーガンでワイヤーの先端にある鉤爪かぎづめを狙う。

 まるで、そうすると分っていたかのように、スカルドラゴンはワイヤーをしならせて、レーザーガンの照準から外した。

 だが、それによってワイヤーの角度が変わり、GTX1800には当たらず、通り越した。

 雅は、改めてレーザーガンの照準をGTR3200本体に定めた、その時、スカルドラゴンは右手に持ったワイヤーを強く引く。


「雅! ワイヤーが戻ってくる!」


「分かってる」


 GTX1800は、背後に迫るワイヤーを避ける為、ビルのふちを蹴って隣のビルへ、だが、雅は逃げるだけではなく、飛びながらGTR3200へ向け、レーザーを4発放つ。

 しかし、スカルドラゴンは、左手に持っていたワイヤーをクルクルと回し、その全てを弾いた。


「あのワイヤー、防御も兼ねてるの! 紗奈、あのワイヤーの耐久値は?」


「実弾、レーザー、共に2発まで。ソードなら、1回で斬れる」


「ちょっと待って、今、4発当たったよ!」


「ゴメン! 正確には、同じ場所に2発」


「同じ場所!?」


 だが、更に4発放っても、ワイヤーは切れない!


「同じ場所へ当たらないように、伸ばしてるか、縮めてる? どちらにせよ、銃での破壊は期待できないか……」


 レイザーガンが、連続で撃てる弾数は8発。

 弾をチャージするには、1発につき3秒間、銃をホルスターに仕舞しまわなければならない。

 雅が装備しているもう一つの武器、レーザーソードに使用制限は無いものの、接近戦が得意なGTR相手では分が悪い。


「いつまでも、逃げられると思うなよーッ!」


 大きく振られたワイヤーは、むちのようにしなりり、大きく開いた爪が、GTX1800を掴もうとする。

 それは鞭と言うよりも、まるで生きた蛇が噛みついて来るような印象を雅に与えた。

 雅は、弾切れを起こしたレーザーガンを仕舞い、レーザーソードを抜くと、掴みに来たワイヤーを斬りに行く。

 なんとか先端部分を斬り落として、掴まれる難を逃れた。

 切られたワイヤーをスカルドラゴンは、強く引いて回収し、新たなワイヤー取り出し、再び投げた。


「交換した? あと、7本か……」


 この時、雅は致命的な誤認を2つもしてしまう。

 一つは、切れたら使えなくなり、交換しないといけない武器だと、勘違いしてしまったこと。

 スカルドラゴンは、防御に使っていたワイヤーも攻撃に使い、2本同時に攻撃を仕掛けてくる。


「今だ!」


 雅は、2本の伸びきったワイヤーをくぐると、戦闘機に変形して、GTR3200まで、一気に間合いを詰め、直前で再び、人型へ。


「もらったぁぁぁーッ!」


 ソードを振りかざして、勝利宣言する雅を、オペレーターの紗奈が打ち消す。


「雅ーッ! 下ーッ!」


 雅が犯してしまった、もう一つの誤認。

 それは、同時に扱えるワイヤーが2本だけだと思ってしまったこと。

 道頓堀川の水面みなもから、隠していたワイヤーが飛び出し、GTX1800の足を掴むと、まるでハンマー投げのように、GTX1800を振り回し、ビル目掛けて振り抜いた。


もろいGTXを選んだ、自分を悔やむんやなーッ! 終わりやーーーッ!」


 この時、スカルドラゴンは勿論のこと、見守っているインベイドのスタッフ、オペレーターの紗奈までもが、勝負はついたと思った。

 紗奈は、観ていられないと目をつぶったが、雅はソードを逆手に持ち替えると、掴まれたGTX1800左足をももから斬り落とし、ビルへの衝突から逃れる。


「なんやと! オモロイ、オモロイやないか!」


 スカルドラゴンは、更に4本目のワイヤーを放つ。


「雅、ここは一旦、離れましょう!」


「否、チャンスは、今しかない! ここは攻める!」


 この時の雅の考えは、こうだ。

 仕切り直せば、全てのワイヤーと改めて対峙しなければならない。

 だが、今なら、目の前のワイヤーを避けれれば、残りは3本。

 しかも、その残りは、川から出て来たワイヤーのように、手元では無く、伸ばして隠している可能性の方が高い。


「有っても、あと1本の筈!」

 

 更に、手元に隠し持っていた5本目をギリギリの所でかわし、詰め寄る。


「今度こそ、もらう!」


 雅の予想は、間違ってはいなかった。

 ただしそれは、切ったワイヤーも、数に入れていればの話。

 切られたワイヤーを横へ振り、GTX1800の右足を薙ぎ払う。

 それによって、GTX1800は回転させられバランスを崩すと、スカルドラゴンは、その頭部へ渾身の右拳を放った。

 ネジ切れるように、GTX1800の頭部が飛び、それが川へと堕ちる。

 更に、戻って来た全てのワイヤーがGTX1800を噛みつくように掴むと、喰い千切るかのようにバラバラに引き裂いた。


 スカルドラゴンは、外部スピーカーに切替え「機体変えて、出直して来い!」と言って、GTX1800のコックピットを踏み潰した。


 雅は、こんな負け方をしたのは初めてで、放心状態のままシリアル機から出れなくなっていた。

 紗奈は、そんな雅を気遣って、無言のまま肩を貸し、シリアル機から降ろし、そのまま立ち去ろうとする。


「おい! 帰るんは、払うもん払ってからにしてもらおうか?」


 そう言って、出て来たスカルドラゴンをスタッフの宮崎が制する。


「ENの移動は、私が社へ申請しておきます。それから、MIYABIさま、必ず、必ず、今週中に場所を見つけておきますので、ご安心ください」


 そう言って、深々と頭を下げた。


 MIYABIさまに、この男は早かったか……。



「兄やん、ちょっとやり過ぎやったんとちゃいます?」


「あぁ? お前、さては惚れたんちゃうやろな?」


「確かに、可愛かったですね」


「せやな。メガネが、よう似合っとったわ」


「え! そっち?」


「はぁ? お前……まさか、キツそうな顔のドライバーの方か? やめとけやめとけ、絶対、アイツ、性格悪いって!」


「そんな、顔で性格決めるって……」


「これだから、童貞は……」


「ど、ど、ど! に、兄やんかて、童貞やないかーッ!」


「和也くん。君の目の前にるんは、もう、君の知っている兄やんではないんやで」


「なんじゃそれ……あーーーッ! この前、一人で出掛けたの! さては、風俗行ったな!」


「なんの事かね? やだなぁー、和也くん、人前で風俗なんて、言うもんやないよ」


「兄やん! それ卒業って言わへん! 素人童貞って言うんやー!」


「和也くん、知ってる者と知らざる者。その差は、天と地ほど離れてるんやで」


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」


「解った、解ったから、黙れ、今日、五反田に連れてったるから」


「にぃ~や~ん。俺、一生ついて行きますわ!」


「ワレ、ストーカーかよ!」

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