60 フォレスト・ガンプ②
日曜日。
陽が落ちかける時間帯。
俺とかなちゃんは少し遅めに大学に集合した。
「…ごめんね、呼び出したりして」
「いえ…珍しいこともあるもんですね」
「え?」
「いや、イノさんが誘ってくれるなんて」
「…あぁ、たしかに…」
「…」
いつもの会話とはちがう、
少し不自然な間が空いた。
「一緒に来てほしい場所があるんだ」
「…?」
俺とかなちゃんは、桜乃森大学のダサいロゴがついた軽自動車に乗り込む。
「どこにいくんですか?」
「…かなちゃんに見せたいものがあるんだ…」
「…どれくらいかかるんです?」
「1時間ちょっとかな…」
ブロロロ…
「…」
「…」
「音楽かけていいですか?」
「うん、この車CDしか聞けないけど…」
かなちゃんは俺が車に積んであるCDケースを眺める。
「洋楽ばっかですねぇ…れっとほっとちりぺぱーず…すとろーくず?」
「momoさんのCDとかもあるよ」
「…イノさんのオススメはどれですか?」
「そうだな…ジェイソン・ムラーズとかオススメだよ…落書きみたいなジャケットのやつ…」
「かわいいですね…このジャケット」
「…うん」
かなちゃんはCDを取り出して、カーステレオに入れる。
再生ボタンを押して、ボリュームを少しだけ下げた。
「…」
「…」
車内に優しいアコースティック・ギターの音が響く。
悲しい戦慄と、艶のある楽器の音。
「…イノさん、黒の使途の件…おつかれさまでした」
「あぁ、かなちゃんも…危険な目にいっぱいあわせちゃったね…」
「いいんです…自分から首を突っ込んだ部分もあるし…」
なんだろう…
いつもならもっと自然に話せるのに…
今日はなんだか緊張してる…俺。
車を運転しながら、かなちゃんをチラッと見る。
かなちゃんはいつも通りだ。
ケースからチラリとリバティーンズのCDが見えた。
『グレート・デイズ』の鹿野灯矢からもらったCDだ…
あれからもう10カ月か…
日本に来てから4年近くが経とうとしてるのか。
「…」
「…」
たくさんのロストマンと出会って…かなちゃんと出会って…
俺も少しは変われたのかな…
少しづつでも、大人になれてるのかな…
「かなちゃん…」
「はい?」
「…」
「イノさん?」
かなちゃんは…
俺が日本に来る前のことを、一度も聞いてこない。
『ダンサー・インザ・ダーク』の西野事件のときも、かなちゃんは俺に何も聞かなかった。
話さなきゃいけないのに…
話したくなかった。
俺は、かなちゃんの優しさに甘えてた。
話さなくちゃいけないんだ。
俺という人間を…
「かなちゃん…俺は昔、人を殺したことがある」
「…」
「たくさん人が死ぬ瞬間を見てきた…ロストマン・ハンターだったころの話だ」
「…そう…ですか」
俺に気をつかって驚いてないフリをしてくれてるのか…
かなちゃんは表情を変えず、俺をずっと見つめていた。
「俺の人生は…13歳の時に両親を殺されてから、ずっとロストマンと共にあったんだ」
胸が苦しい…
トラウマになってる…思い出したくも無い過去の話。
「イノさん…嫌なら、話さなくてもいいんですよ?」
「…いや、かなちゃんには知っておいて欲しいんだ」
「…」
「…俺は、ロストマンが、たぶん嫌いだ。」
たぶんと濁したのは、正直俺にも、今の感情がわからなかったからだ。
「…」
「キッカケは…海外で出会った4人のロストマンだ。」
「4人の…?」
俺の人生を変えた4人のロストマン。
「…どんな…人だったんです?」
俺は、ゆっくり言葉をつなぎ合わせながら4人のロストマンについて語った。
俺の両親を殺した男『エルト・ダーティ』…
魔女と呼ばれた女『ヘルター・スケルタ―』…
悪意によって生まれた男『オデッセイ27』…
歪んだ自己愛に溺れた男『リトル・プレグナンシー』…
そのどれもが、物語として語るには平坦で、
ただただ胸糞悪く…人間というもっとも汚れた動物の話。
思い出すだけで吐き気を催す程の、狂気の物語。
そして、俺がロストマンを嫌いになったという…ただただそれだけの
…つまらない話だ。
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