たまには愛でもいかがです?
59 フォレスト・ガンプ
バルバロザン・コルレオーネの一件から次の日。
俺は保坂さんに呼び出され、埼玉県警に来ていた。
「…」
カチャ…
待合室で待っていると、すぐに保坂さんが入ってきた。
「どうも…」
「…やぁ」
保坂さんに続いて二人の外国人が入ってくる。
ラブとピースだ。
「…やっぱり、二人と保坂さんは繋がってたんだな」
俺は3人を見た瞬間、関係性を何となく把握した。
俺の言葉にラブが反応する。
「やっぱりって、お前気づいていたのか…?」
「あぁ、『プラグイン・ベイビー』の白石かずま事件のとき…保坂さんはこう言ってた」
『ロストマン・ハンターの知り合いがいますが、手のつけようのない能力者もいるのでしょう?』
「日本警察に顔の効くロストマン・ハンターなんて、ラブとピースくらいしかいないだろ…」
「…隠していたわけではありません」
「それに、バルバロザンの名前をラブに教えたのも保坂さんでしょ?」
「…はい」
「まぁ、あんな大きな事件にいくつも関わってる俺を、いつも数週間拘束しただけで解放してくれるなんて…何かあるとは思ってましたし、驚きはしませんよ」
保坂さんは相変わらずイケメンだ。
別に責めているわけではないのに、申し訳なさそうに下を向く。
俺が連絡すると、いつも保坂さんは迅速に対応してくれた。
ロストマンが関係した事件の担当をしていたのは知っていたが、普通の警察よりも知識があって話も早い。
俺も保坂さんに助けられていたんだ。
ラブが話のつづきを始めた。
「…ホワイト・ワーカーから、イエス教のことは聞いたらしいな?」
「あぁ…」
「ハッキリ言う。俺とピースは今、イエス教から依頼を受けて行動している…」
「…そのこと、麻衣さんや島崎さんは知ってるのか?」
「麻衣には言っていない…あいつは心配性だからな…」
「…でも麻衣さんはカンがするどいから…きっとラブとピースが俺を連れていくために日本に来たことは気づいているよ」
「…あぁ…そうだろうな」
ラブは一呼吸おいて、話を続けた。
この反応…おそらく麻衣さんにも話をしているんだな。
「黒の使途は…反イエス教を掲げる連中の中でも特に大きな組織だ…ホワイト・ワーカーでさえ、いち幹部に過ぎない」
「…」
「これから俺たちはイエス教と一緒に、黒の使途のロストマン達と戦うことになる…俺たちと一緒に、バチカンに来てくれないか?」
「…」
やっぱりきた。
黒の使途の勧誘を断ったと思ったら、今度はイエス教か…
「…具体的に、俺に何をさせる気だよ…」
「相手はロストマンの組織だ…お前の役割はお前が一番よくわかっているだろう…」
「…」
「やっぱり、嫌か?」
俺は3年前、暴力や能力を使わないで、ロストマン問題に立ち向かうと決めて日本にきた。
けれど結局…俺は逃げたんだ…恐ろしくなって…
ロストマンが持つ悪意や、邪気のようなものが、恐ろしくてたまらなくなったんだ。
「…どれくらいの期間だ?」
「具体的にはわからんが…俺たちとイエス教の契約では、1年になっている」
「…1年」
「黒の使途の動向によっては、それ以上かかる可能性もある…」
「…」
「麻衣の研究室もある…よく考えて、答えをだしてくれ…」
「…あぁ」
…
俺は警察から帰ってすぐに研究室に向かった。
何か考えていたわけではないが、研究室までの道のりはあっという間だった。
研究室には、チビ太と麻衣さんがいた。
「おかえり、イノ」
「…ただいま…かなちゃんは?」
「まだ授業中よ…今日平日だもん」
「…そっか」
麻衣さんは静かにデスクに座る。
ラブとピースと会ってきたことを、何となくわかってるのかな。
「イノ…あんたって理屈っぽいじゃない?」
「突然、なんですか」
「そのくせダメ人間っぽい見た目で、部屋汚いし、彼女いたことないし、○○だし、…○○だけれど…」
「言いすぎだろ」
麻衣さんのこういうイジリには慣れてた。
けど、なんだか今日は上手く返せなかった。
「けどね…」
「…?」
「私、けっこうアンタのこと好きよ、イノ」
「…どうしたんですか…急に」
「いつも、一番正しいことを見極めようとしてる…正しい人間であろうとしている」
「…」
「…ちゃんと、決着をつけてきなさい」
「…」
まったく…この人はいつもそうだ。
俺の考えてることを全部見透かしてくる。
俺はラブとピースに良く似てる。
あいつらとずっと一緒にいたからかもな…理論的に考える、そんな人間だ。
けど、麻衣さんやかなちゃんは、相手のことをいつも考えてる。
たまに甘っちょろいなんて思うけど…
俺が、一番憧れている人間でもあるんだ。
「…麻衣さん」
「…ん?」
「ありがとう…」
「…うん」
…
俺は、すぐに研究室を出た。
そしてバルバロザンの言葉を思い出していた。
『何が正義で…何が悪か…』
ロストマンでありながら、ロストマンを迫害してきたローマ法王と、イエス教。
それに反発し、目的を達成するためには人殺しもこなす組織、黒の使途。
法で動く警察…
金で動くロストマン・ハンター…
好奇心で動く研究者…
何が正義で、何が悪か…
もうすでに、俺にも正解がわからなくなっていた。
けれどこの数カ月間で、わかったこともあるんだ
「…」
俺は、かなちゃんにメッセージを送る。
【今週の日曜、二人で会えないかな?】
そろそろ…
色んなものに決着をつけなくちゃいけない。
きっと、そういうことなんだ。
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