32 ミッドナイト・クラクション・ベイビー、そしてキューブ②
公園にいた人達がざわめく…
貨物トラックは勢いを落とさず俺に向かってくる。
「とまれッ!とまれッ!」
「逃げて!」
異変に気づいたサラリーマンや若い男性が声を張り上げる。
「お子さんを連れて公園の外にッ!」
三輪車の男の子を抱えて逃げ出す母親…
俺にぶつかって倒れたお婆さんも、なんとか立ちあがって走り出す。
俺も走り出そうとしたが・・
ブオオオオオオオオオオオオンッ!!!
トラックのスピードは落ちず…
バァンッ!
ブシュゥゥゥゥ…
「はぁッ!はぁッ!」
トラックはベンチを破壊して、さらにその先の生垣を抜けて公衆トイレに突っ込んだ。
俺は間一髪なんとか身をかわししたが、飛んできたベンチの破片で腕を軽く怪我した。
トラックの運転席が半分につぶれている…
運転手は…!?
ギギギ…バンッ!
トラックのドアは壊れて開かない。
俺はベンチの破片を使って窓ガラスを破壊する。
バキッ!バキッ!
パリンッ!
中は外よりももっと悲惨な状況だった。
ほとんど形をとどめておらず、何かの破片がフロントガラスを突き破って中に入っている。
一度開いたエアバックも傷が付いたのか空気が抜けて、運転手は中でぐったりしていた…
けど…
「大丈夫ですか!?」
「はぁ…はぁ…」
息をしている…
よかった…
しかし
バァンッ!!!
キュルルルルルルッ!!!!
「うッ!」
トラックに大きな衝撃が走る。
あまりにも大きな衝撃に俺はトラックから転げ落ちた。
「いっつッ!」
見ると、今度は赤いスポーツカーがトラックの貨物部分に横から突っ込んでいた。
しかし俺が視界にはいると、今度はトラックから落ちた俺に向かって走りだす!
ガガガガガガッッ!!!!!!!!!!
無理矢理ハンドルを切ったのか、タイヤがパンクでもしたのか、凄い音を立てる。
俺はとっさに身を起こし、スポーツカーを横によけて生垣に突っ込んだ。
「はぁ…ッ!一体…なんだってんだ…」
スポーツカーのエンジン音が鳴り響く。
俺は生垣を抜けて公園から出る。
ふと駅の方を見ると、黒い乗用車とさらにその先から原付バイクが俺に向かって走ってきていた。
どちらも交通ルールとか関係なく、歩道やガードレールもまるで無いかのように、真っ直ぐに俺に向かってくる。
バンッ!バンッ!
バキバキ!
「きゃああッ!」
「うわぁ!」
ガンガンッ!
黒い乗用車は電柱にミラー部分をぶつけながらこちらにむかってくる。
原付バイクの方はガードレールに突っ込んで、運転手が道路に転がった。
どうやら俺を視界にとらえた途端、ガードレールとかの遮蔽物は目に入らなくなるようだ。
どの運転手も真っ直ぐ俺を見ているが、他の物が何にも見えていない。
突然のことに、行き交う人が混乱してる。
俺だってそうだ。
何をするべきかとっさに答えがです…
俺が一瞬立ちつくしていると…
ブゥゥゥンッ!
「!?」
振り向くとトラックに突っ込んだスポーツカーがエンジンを全開に吹かす音が聞こえた。
まだ突っ込んでくるつもりだ…
「何だってんだよ!」
俺はとりあえず走り出す。
間違いなく俺に向かって車が突っ込んできている。
俺はもちろん、こんな人ごみの多いところなんかにいたら、けが人を増やしかねない!
俺は駅のロータリーを抜けようとするが…
ギュウウウウン
ロータリーを抜けようと身をのり出した途端。
停車していたバスや、バイク、駐車場に止めてある大型車が俺のことを視界にとらえ、一斉に走り出してきた。
バスは乗り降りの最中だったらしく、走り出したバスから人が振り落とされている…
なんなんだこれ…
この世の終わりか?
「くそッ!」
俺はロータリーを一気に駆け抜ける。
もうなりふりかまっていられない。
あちこちで破裂音や悲鳴が聞こえる。
真正面から向かってくる数代の車は、まるで俺を轢き殺すことが当然であるかのように、一切ブレーキを踏む素振りを見せない。
その時、駅の反対口にのびる地下通路の入り口が俺の視界に入る。
俺はロータリーを抜けることをあきらめ、本能に従って、転がり落ちるように地下通路に逃げ込んだ…
タタタタ…
「はぁッ!…はぁッ!」
階段を下り終え一息つこうとおもったが…
ガンガンガンガンガンッ!
後ろから音が聞こえる。
振り向くと、2台の自転車が俺を追ってきていた。
乗っているのは2人とも高校生で、三輪車の男の子のときと同様、目の動向が開き、血走っている。
それに気づき、俺は一本道の地下通路を走りだす。
ガンッ!ダダダダッ!
一人がバランスを保てず自転車ごと転んだ。
もう一人はなんとか自転車に乗ったまま階段を降りて、俺を追ってくる。
ブオオオオオンッ!!!
「!?」
後ろに気を取られていると、今度は前から音が聞こえた。
長い通路の先から、大型バイクがこっちに向かってくる。
それと同時に、地下通路の中間地点あたりに非常口の扉が見えた。
「はぁッ!」
あそこしかない!
俺はスピードを緩めず、バイクの方へ走る。
バイクが非常口を通過する前にあそこまでたどりつけば…
距離は7、8mくらいだろう。
まるで50m先にあるかのように遠い感じる。
けど…
こんなわけのわからない状況で、死ねるはずないだろ!
バンッ!
その時、後ろから来ていた自転車が俺に追いついて、俺の身体を突き飛ばした…。
「くッ!!」
やばい…
終わった…
バンッ!
俺は非常口の前で派手に転倒する…
しかし、それは自転車の学生も同じで、ぶつかった自転車が俺を通り越してバイクの前に転がった。
ガンッ!
ギュルルルルルッ!
バイクは自転車を踏みぬき、そのまま俺をかすめて転倒した。
自転車の運転手もバイクの運転手もその場に倒れこんでいる。
ガチャッ!
バタンッ!
俺はその隙に非常口へ逃げ込んだ。
中はひんやりとした空気で、パイプ製の階段がある。
「はぁッはぁッはぁッ」
耳をすます。
車やバイクのエンジン音は聞こえない。
どうやら助かったみたいだ…
カンカンカン…
俺は階段を降りながら状況を整理する。
…これは間違いなくロストマンの能力だ。
そしてこの能力を使っているロストマンは、公園で声をかけてきたチャラチャラした男。
『ミッドナイト・クラクション・ベイビー…素敵な一日を』
あの言葉がトリガ―になっていたんだろう。
ターゲットをあの言葉で指定すると、ターゲットを視界にとらえた車やバイクが無意識に突っ込んでくる…そんな感じか。
なんて無差別な能力だ。
完全にターゲットを殺すことが目的の能力だ。
これが…黒の使途のやり方か。
階段を降りた先には、同じような扉があった。
俺はそっと扉をあける。
ガチャ…
扉を少し開けて先を覗く。
どうやら段ボールやケースが積んである倉庫のような場所みたいた。
俺は身を乗り出して、再度周囲を確認する…
「はぁッ!はぁッ!」
とにかく人と車の少ないところに行かないといけない…
俺は商店街の先に小さな住宅街…その裏手に小さい山があることを思い出した。
ここからなら1時間もあれば辿りつける。
…
山と言っても、普通に人が往来できるような本当に小さい山だ。
面積は割と広いが高さはむしろ丘。
道路も通っていて、街の中にあるちょっとした自然…という域をでない。
結局山道まで2時間半もかかった。
車の通りが少ない場所を選び、なおかつ視界に入らないように細心の注意を払った。
道路はあるけど、この時間は車の通りも少ない。
森の中を進めば安全だろう。
「はぁッ…はぁッ…」
でもどうする…
誰かに連絡をするか…?でも誰に…?
かなちゃんや麻衣さんを危険な目に合わせることになる…
ラブとピースの今の連絡先は知らないし…
ガッ!
「いてっ!」
何かにつまづいて、俺はバランスを崩し倒れてしまった…
何につまづいた?
…まるで足をかけられたような…
「…!?」
振り向くと、そこには男が立っていた。
しかし、さっき出会ったチャラついた男では無い。
背が低い黒髪長髪の外国人で、若いのに髭を蓄えている。
右手で左腕のあたりをずっとさすっていて、視線があちこち泳いでる。
「誰だ…あんた…。…ッ!?」
しかし俺は、すぐに自分の身体の異変に気づく。
いくら力を込めても、立ちあがれないのだ。
ふと自分の足をみると…
「…!?なんだ…これ…?」
俺の膝から下が、両足とも真逆を向いていた。
前かがみに倒れているのに、つま先が上を向いている。
よく見ると膝から下の足に線のような模様が入っていることに気づく。
規則正しく上下に線がはいっていて、まるでチェック…いや市松模様みたいだ。
「お前も黒の使途か!?俺の足に何をした!?」
黒髪の外国人は俺の大声にビクッと身体を震わせた。
俺の目を一切見ないで、おびえているようにも見える。
すると返事は、違う場所から返ってきた。
「面白いッスよねぇ。そいつの能力。」
森の木の陰からぬるっと現れたのは、さっき公園で会ったチャラついた男だった。
ポケットに手をいれて、ガムを噛んでる。
ずっと俺を追跡してたのか…
こいつら、最初から2人1組のツーマンセルか。
「足、感覚ないっしょ?」
「…」
たしかに、ひっくり返った足には、まったくと言っていいほど痛みがない。
「こうすると面白いんスよぉ~」
「!?」
チャラついた男が、しゃがんで俺の足をつかむ。
すると…
カチャッ…
カチャッ…
俺の足が無機質な音を立てながら、ぐるっと一回転した。
チャラついた男は線が入った場所をカチャカチャと音を立てながら動かしていく。
まるで…
「ルービック・キューブみたいでしょ?」
「…なんなんだ、この能力!?」
「『キューブ』っていうスけど、人体を立体多面パズル化できるんスよぉ。正しい形に戻せれば治るんで、挑戦してみてください。イノさんパズルは得意っスか?」
カチャッ…
カチャッ…
そう言いながらチャラついた男は俺の足をランダムに稼働させていく…
痛みが無いのが逆に怖い。
「スヴェンソンさん、この調子で腕もパズルにしちゃってくださいよ」
「…や、やるけど…そ、その前に…やや…や…めろよ…そ、そ、その…その男の前で…僕の名前や…能力名を言うの…」
「大丈夫っスよ。イノさんはフルネームがわからないと、能力を奪えないって、ホワイト・ワーカーさんが言ってたじゃないっスか。」
「け、け、けど…ッ!注意力が足らないよ…日本人のくせに…」
「スヴェンソンさんこそ、外人のクセにコミュ症すぎるんスよ。たまには俺の目を見て話してもらえないっスか?」
よく分からないが…
どうやら仲はあんまり良くないらしい…
スヴェンソンと呼ばれた長髪の外国人が、俺の右肩に触れる。
すると右肩から右腕にかけてふわっと光り、足と同じように上下に線が入る…感覚も無くなった。
俺の右腕もパズルになったようだ。
「左腕は手錠はめるから、パズル化しちゃうとめんどくさいっスよね…首もやっときます?」
「く、首をパズル化したら…し、死んじゃうよ…」
「そうなんスか?ざーんねん。」
チャラチャラした男はカチャカチャと俺の右腕をシャッフルする。
そして立ちあがってガムを茂みに吐き捨てると、俺の前まで来てしゃがんだ。
「さて、イノさん。大事な大事な交渉のお時間っス。」
「…」
「今、イノさんの右腕と両足…痛みはないスけど、バラバラになっちまったスね。これってどういうことかわかります?」
「…どういう…こと?」
「神経とか、骨とか…血管もバラバラってことなんスよぉ…知ってます?血液が流れないと、人間の身体って腐っちまうんス」
「…ッ」
「腐った腕ぶらさげて…腐った足を引きずって…今まで通りの生活はできないっスねぇ…おれだったらやだなぁ。アイドルのライブでサイリウムも振れない…道玄坂48のライブ行ったことあります?浮きますよー、一人だけサイリウム振ってないと…」
こいつ…ッ
「イノさん…黒の使途…入ってくれますよね?」
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