たまには悪意でもいかがです?

20 ダンサー・インザ・ダーク


時は、1週間前にさかのぼる。


「かなちゃんのことは伝えてあるわ。お金は渡すから電車で向かってくれる?」


「えっと…何を渡せばいいんでしょう?」


「それは行ってみればわかるわ。お願いね。」


「じゃあ…とりあえず行ってきます。」



かなちゃんが遠藤さんのもとへ向かってから30分後。

研究室に男女2人の依頼者が入ってきた。


制服を着てる。

2人とも高校生か。


「いらっしゃい。私は化乃麻衣。こっちのダメ人間そうなのが失慰イノ。」


「ダメ人間そうなのは余計です。よろしく。」


「よろしくお願いします。」


「よろしく…です。」


「2人ともアップルジュースでいいかしら?」


麻衣さんがそう尋ねると、2人ともコクリとうなづいた。

2人をソファーに座らせ、さっそく話を聞く事にする。


「じゃあまずは名前から聞かせてくれるかな?」


「私は…高梨(たかなし)りかです。」


「工藤信也(くどうしんや)です。」


高梨さんは、どこにでもいる可愛らしいおしゃれな女子高生といった感じだ。

問題は、工藤くんの方。

短く刈り込んだ髪でいい体格をしてる。

言葉づかいもハキハキしていて、いかにも体育会系の好青年だ。


しかし…工藤くんの身体は…

うっすらと光を放っていた。

ダストの能力発動光…ロストマンはこっちか。


「工藤くん。依頼内容を聞かせてくれる?」


「…え?あ、すいません。自分は付き添いなんです。ほら、りか。」


「うん…」


…?

高梨さんの方が依頼…?


「えっと…私、最近おかしいんです。」


「…おかしい?」


「信じてもらえないかもしれないんですけど…」


「…?」


「私にだけ…友達が…見えないんです。」





高梨りかと工藤信也。

2人とも16歳の高校生だ。

高梨さんは、とある日をきっかけに友人の一人が見えなくなってしまったと言う。


「神埼成子(かんざきなるこ)っていうクラスメートがいて…その子が…ある日突然…」


「消えてしまった?」


「はい。」


「周りの皆は見えていて、仲良さそうに話をしているんです。」


「…えっと信也くんだっけ。」


「はい。」


「君はその子の事がみえてるんだよね?」


「見えてます。昨日も話をしました。」


高梨さんにだけ、見えなくなった友達…

クラスメートは全員見えている。


「えっと…高梨さんとその神埼さんって子は仲がいいのかな?」


「…仲良しグループってわけじゃないですけど…決して悪くはありません」


「…見えなくなる前に、何か変なことはなかった?」


「変なこと…」


「なんでもいいんだ。いつもと変わったことはなかった?」


「…かわった…こと…」


「ゆっくりでいいよ。覚えているかぎりでこの紙に神埼さんが見えなくなる直前にあった出来事とか、書きだしてくれるかな?」


俺は紙とペンを高梨さんの前に差し出した。

情報がまったくない。

まずはこっちからか。


「えっと工藤くん、君と高梨さんはクラスメートなんだよね?」


「そうです。神崎とも。」


「そっか。君と神崎さんは仲いいの?」


「たまに話すくらいです。クラスで話す女子は…りかくらいで…」


「仲がいいんだね」


「はい…僕達、付き合っているんです。」


!!!!????


恋人かこの二人!?

高梨さんは下を向いていたが、ほんのり顔が赤くなっている。


俺は麻衣さんをチラッとみる。

麻衣さんはジトっとした目で2人を睨みつけていた。

その目からは「ねたましい」という言葉がハッキリと見える。


「そ…そうなんだ。心配だね。」


「はい。」


工藤くんの身体の光…

うっすら強くなったり、うっすら消えたりしている。

常時発動型のロストマンか、誰かに能力をかけられたか。

とにかく今回の件に彼が深く関係しているのは間違いない。


「工藤くんも、高梨さんと同じように書きだしてくれるかな?」


「俺もですか?…わかりました。」


学くんはゴクゴクとアップルジュースを飲んで、ペンを手に取った。

高梨さんも工藤くんにつられてか、ストローでジュースを一口ふくんだ。

仲良いなぁ。


見えなくなってしまったという少女…神埼さん。

その子にも話を聞かなきゃいけないな。


「その神埼さんって子に会えたりするのかな?」


「今日か明日だったら部活で学校にいます。たしかアイツ弓道部だったよな?」


「うん。」


土日も部活とは大変だな。

この時期寒いだろうに。


「今日か…」


俺は時計を見る。

まだ11時過ぎだ。


「今から会えたりするのかな?」


「たぶん…聞いてみます。」


信也くんは携帯で何かを打ち込んでいる。

神崎さんにアポを取ってくれているんだろう。


ふと信也くんの手元を見る。

紙はまだ白紙だった。


…あれ?

さっき何か書いてたと思ったけど…


「イノさん。部活の昼休みなら、会ってくれるそうです。」


「昼休みか。じゃあもう出たほうがいいね。残りの話は車の中で聞かせて。」


「わかりました。」


俺の言葉に2人とも荷物を手に取り立ちあがる。

高梨さんは紙を書き終わったようだ。

俺はそれを受け取り、リュックを持った。


「じゃあ麻衣さん。行ってきますね。」


「えぇ。」


麻衣さんは珍しく不安な顔をしている。


『…カンだけどね。嫌な予感がするのよ』


麻衣さんのカンはかなりするどい。

何も起こらなきゃいいが…


俺はそんな事を思いつつ、2人を連れて研究室を出た。



ガチャリ


パタン











「あれ?工藤くん…アップルジュース飲まなかったのね…」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る