スープを一杯召し上がれ
「ギンギツネー!何処にいるのー?」
キタキツネは雪山を降り、森の中を歩いていた。
今朝のこと。自分が目覚めると一緒に寝ていたハズの彼女が消えていたのだ。
どこに行ったのだろうかと、道中フレンズに尋ねつつ探し回っていたのだ。
日も沈み夜になった。
彼女の不安も、増していった。
(ギンギツネ...
どこに行ったんだろう...)
暗い中どうしようかと迷っていると、
いい匂いが鼻についた。
(...?)
その匂いが気になり、元を辿った。
行き着いた先は、図書館のはずれにある
炊事場だった。
「...かばんさん?」
かばんが大きな鍋で何かを作っていた。
キタキツネは近付いた。
「あれ?キタキツネさんじゃないですか。どうしてこんなところに?」
「ああ...えっと...、実はね...」
かばんにギンギツネが失踪した事について、尋ねた。
「僕は見てませんね...。これが終わったら一緒に探しますよ!」
笑顔で対応してくれた。
「ところで、何を...、作ってるの?」
グツグツと音を立てる鍋の蓋を指さした。
「これですか?スープですよ」
「スープ?」
首を傾げた。
「ええ、良かったら食べてください。昔のヒトは、腹が減っては戦ができぬって言った様に、お腹が空いたら元気が出ませんから...」
「うん...、じゃあ、食べようかな」
「あそこのテーブルで待っててくださいね」
キタキツネは頷いて、テーブルに座った。
暫くすると、かばんは白い陶器の皿に真っ赤なスープをよそって持ってきた。
「トマトスープです。熱いので気を付けてください」
「...いただきます」
スプーンを手に取り、スープをすくった。真っ赤なスープ。息を吹きかけ、口に運んだ。
凄くトマトの味が口の中に広がる。
そして香料の独特の香りも。
総合的に言えば、味付けが濃い。
ただ、それを詳細に語る事は出来なかった。
「美味しいですか?」
「う、うん」
かばんは安堵の顔を浮かべた。
「良かったです!僕、この島でレストランを開きたいなって思ってたんですよ!
あっ、お食事する所のことですよ?」
笑いながら、そう語った。
もう一度、スープをすくって飲んだ。
言われてみれば、不味くはない。
誰にでも受け入れられそうだ。
スープには肉が入っていた。
口にする。
随分と肉が厚い気がするが...
煮込まれているせいか柔らかい。
味もしっかり付いている。
ふと、気になった。
「あの...、これ、なんの肉...?」
そう尋ねるとかばんはきょとんとした顔で見つめた。
ふっ、と思い出したかのように。
「ああ、そのお肉は今朝入手したんですよ」
「今朝?」
「ええ。肉が欲しいって言ったら、
ラッキーさんが」
「...そうなんだ」
一瞬、ギンギツネのことが脳裏に過ぎった。だが、そんな訳ないと、食べ進めた。
クセになる味だ。スープをすくう手が止まらない。
「なんか、他にあるの?」
何気なくそう尋ねた。
「まだ、決めてませんけど...ゆくゆくは...、シャンロウを使った料理とか」
難しい言葉で言い返されたので何が何を
指しているのかわからなかった。
いつの間にか、スープを飲み干していた。
「美味しかったよ...」
「ふふっ、ありがとうございます!」
キタキツネは本題を思い出した。
「明日、ギンギツネを探すの手伝ってくれるんだよね」
確認のために尋ねた。
だが、返事がない。
「...?かばんさん?」
「ええ!勿論です。今日は図書館に泊まってってください。あ、今博士さん達は山の方へ行ってるので...」
「うん...」
図書館の方へ行くと、ある不思議な建物を見つけた。
(あれ...?こんなものあったっけ?)
キタキツネは疑問に思った。
コンテナの様な形をした建物に興味本位で近づく。
青い横開きのドア。鍵は掛かっていない。ドアに手を掛ける。
少し重みがあったが、開けられた。
扉の間からは冷気が漂う。
(なにここ...?)
興味本位で足を踏み入れた。
中は真っ暗で何も見えない。
目が慣れ、何となくだがそこに何かあることが分かった。
(何かないかな…)
壁を探る。そして、スイッチの感触を確かめる。
パチン
周りが明るくなった。ゆっくり後ろを振り返った。
「...え」
背筋が凍った。
「ギ...ン...」
全裸で手を縛られ、縄で天井から吊り下げられている。腹部が真四角に切り取られ、内蔵の一部が露出、欠落している。
そして、あのスープの味、肉、かばんの表情が浮かぶ。
目をそらそうと横に目を向けると、茶色い羽を有した首の無い...
「ウォエッ...」
耐えきれず、赤みがかった残留物が口から出た。
この口から出た物は全て...
「汚いです。やめてください」
後ろからの声でゾッとした。
「ハァッ...、なんで...、アウッ」
首を羽交い締めにされる。
力が強く、呼吸の道を圧迫する。
「か...ば...」
「僕のお客さんがまた減っちゃった」
光が徐々に遠のいていった。
「かばん、今日は招いてくれてありがとう。けど、どうして私だけ?」
「タイリクオオカミさんはきょうしゅうを代表する漫画家ですから!僕のレストランの最初の1人目に相応しいかなって思って!」
笑顔で応対した。
「お待たせ!」
サーバルがウェイターの格好をし、料理を運んだ。
「僕の自信作、昨夜手に入れた肉を使った、創作コンポタージュです」
「頂くよ」
スプーンを手に取り、口に運んだ。
「甘くて美味しいね」
「ありがとうございます!」
「かばんの料理はやっぱり、最高だよ
きっとこのレストランは、人気になるだろうね」
「ええ!お客さん沢山来てくれると、
嬉しいです!」
サーバルは飲み物を運んだ。
ワイングラスにそれは入っている。
「どうぞ。ドリンクのグレープジュースです。農園で採れたものですよ」
「気前がいいね」
彼女は笑って、ジュースを飲んだ。
数十秒が経った。
「...ぐっ!?はあっ...!がっ...」
大きな胸を必死に抑えながら、もがき苦しむ。
「なん...これ...が...」
椅子から転げ落ちた。
口元から赤紫色の液体を垂らしている。
「ねえ、こんなこと...」
「新メニュー、どうしようかな」
サーバルの方を見ながら、そう呟いた。
「た、食べないでよおっ!」
青ざめた顔で言った。
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