第180話 応援団

「わあ、綺麗!」

 女子達の歓声が響いた。


 見下ろす埼玉スタジアムの青々とした芝生が美しい。

 朝早いにも関わらず、客席には多くの観客の姿が見られた。

 よく晴れて、東京アンドロイドオリンピックの予選会をやるのにはぴったりの天気だ。


「記念写真撮ろうよ」

 綾駒さんが言って、僕達はバルコニーに並んだ。

 部長の僕が真ん中にされて、みんなで写真を撮る。



 僕達は、スタンドのビューボックスという個室にいた。

 教室の半分くらいの部屋にはテラスもついていて、スタジアムを見下ろすことができる特等席だ。

 部屋の中央にあるテーブルには、豪華なオードブルとか飲み物が並んでいた。

 ここは千木良のお母さんの会社が視察用に押さえていたのだけれど、お母さんに予定が入ってこられなくなったから、僕達に譲ってくれたのだ。


「千木良さん様々ね」

 さっそくローストビーフをまみながらうらら子先生が言った。

「これでお酒が飲めたら最高なんだけど」

 いえ先生、僕達は遊びに来たわけじゃないので。



 先生のことは放っておいて、僕達はさっそく香の最後の調整に入った。

 ジャージを脱いでもらってランニングと短パンになった香を、柏原さんが入念にチェックする。

 千木良も、ノートパソコンに送られて来る各センサーからの数値を確かめた。

 綾駒さんは香のメイクを直して、髪にくしを入れる。


「なんか、力がみなぎってる気がするよ」

 香が笑顔で言った。


 漲るって感じが、香にも分かるんだろうか?



 僕達が最後の準備をしてたら、

「香ちゃん、久しぶり!」

 個室に、「しーちゃん」こと「シホ」ちゃんが入ってきた。

 千木良のお母さんの会社のアンドロイド。

 もちろん、彼女もこの予選会に参加する一人だ。


「久しぶり!」

 二人は両手を握り合って再会を喜んだ。


 グレーのパーカーに黒いスパッツという服装のしーちゃん。

 香とじゃれ合う表情とか、ますます自然になった感じで、見た目から彼女がアンドロイドだって分かる人はいないと思う。

 さすが、千木良のお母さんの会社「ヘカトンケイレス・システムズ」のアンドロイドだ。

 この前のゴルフ場での合宿から、向こうもさらにブラッシュアップしたに違いない。


「あなたがしーちゃん先輩ですか! 私、この部の新入アンドロイドの滝頭凜といいます。姐さん、以後、お見知りおきを」

 滝頭さんが言って、しーちゃんに握手の手を差し出した。


「よろしくね」

 しーちゃんが滝頭さんの手を握った途端、

「ぎゃーーーーーーーーー!」

 っていう滝頭さんの悲鳴が響く。


 いや滝頭さん、しーちゃんはガチのアンドロイドだから…………



「ねえ、香ちゃん、グラウンドを見に行こう」

 しーちゃんが香を誘った。

 香がうらら子先生の顔を見る。

「うん、行ってきなさい。気をつけてね」

 先生が許可すると、二人は手を繋いで部屋を出て行く。


 予選会は、この埼玉スタジアムがある公園の全体で行われて、まず、第二グランドで100メートル走。

 第三グラウンドで砲丸投げ。

 第四グラウンドでは走り高跳び。

 公園のジョギングコースで持久走。

 そして、メインスタジアムでは、参加するアンドロイドを全部集めてのダンス審査が行われる。

 陸上種目にはそれぞれに標準記録が設定されていて、それを一種目でも下回ると予選落ちになる。

 参加するアンドロイド約500体の中から、基準に達していないアンドロイドをふるい落とす審査だ。



「さてと、それじゃあ、私達も支度をしようか」

 うらら子先生が言った。


「はい!」

 女子達が小気味よい返事をする。


 え? 準備って僕達がすることあったっけ?


 首を傾げる僕に、

「西脇君、ちょっと部屋から出ててくれるかな?」

 先生が言った。


「えっ?」


「いいから、西脇は外で待ってろ」

 柏原さんが言う。


 なんだろう?


「いいからいいから」

 綾駒さんが僕の肩を押して部屋から出した。


 千木良が、あっかんべーをしてドアを閉める。


 僕一人だけ、ビューボックスから追い出された。



 仕方なく一人で廊下にいると、僕の前をランニング姿の数人(?)が横切っていった。

 みんな、僕達人間と変わらない姿をしてるけど、ランニングを着て胸にゼッケンを付けてるところを見ると、その誰もがアンドロイドなんだろう。

 みんな、香やしーちゃん同様レベルが高い。

 動画配信サイトとかで見たことがある顔もあって、サインをもらおうか迷ったりした。

 そうかと思うと、某映画のチ○ッピーとか、某ゲームのパスファイ○ダーみたいな、機械丸出しって感じのアンドロイドもいて、それが人間以上に人間臭い動きをしてるから可笑しい。



「西脇君、入ってきていいよ」

 十分くらいして、部屋の中から朝比奈さんの声がした。


 一体、なんの準備だったんだろう、そう思いながらドアを開く。


 するとそこには、チアリーダーの衣装に身を包んだ女子達がいた。


 赤を基調に、白と青のラインが胸に入ったチアリーダーのユニフォーム。

 うらら子先生から千木良まで、そのユニフォームを着て、金色のポンポンを両手に持っている。


 しかも、ユニフォームはおへそが見えているデザインだ。

 しかも、ユニフォームはおへそが見えているデザインだ。


 うらら子先生の大人のおへそから、柏原さんの引き締まったおへそ、朝比奈さんの完璧なおへそに、綾駒さんの肉感的なおへそ、滝頭さんの委員長っぽいおへそに、千木良の幼女のおへそ。


 ミニスカートから覗く太股とか、ぱっつんぱっつんの胸とか、見るべきところが多すぎる……


「香ちゃんを応援するのにちょっと派手に行こうと思ってさ。この衣装を引っ張り出してきたの」

 うらら子先生が言う。


 そうか、うらら子先生はコスプレイヤーだった。


 みんなにチアの衣装着せてくれて、先生、GJ。



「西脇、あんまり見るな。恥ずかしいんだぞ」

 柏原さんが言った。

 柏原さんは普段ミニスカートとか穿かないから、自分がそれを穿いてるのが恥ずかしいらしい。

 柏原さん、おへそを押さえたり、太股を隠そうとしたりしていた。


 だから僕は凝視ぎょうししてやった。


「もう、西脇、意地が悪いぞ!」

 照れてる柏原さんがカワイイ。


 でも、あんまり見続けるとあとの反撃が怖いから、ほどほどにしておく。



「この衣装なら、スカートをめくられてもパンツじゃないから恥ずかしくないぞ」

 千木良が言った。


 そんな、僕がいつも千木良のスカートをめくってるみたいな言い方はしないでほしい。


「私、夏に向けてもっと腹筋鍛えておけばよかったな」

 綾駒さんがおなかをでながら言った。


 僕は、その適度に脂肪がついたお腹がいいんです、っていう電波を綾駒さんに送っておく。


「ふれーふれー西脇」

 朝比奈さんがそんなふうに言いながら、ポンポンを振った。


 その可愛さで、僕は倒れそうになる。



 この応援団がいる限り、我が軍は圧倒的だと思った。

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