第161話 乳白色
「あっ、水着なんですね」
僕は、目の前に並んだ女子達を見て言った。
リゾートホテルの露天風呂で、湯船に浸かった僕の前には、水着を着た部員の女子達と、うらら子先生が立っている。
「なによその、ちょっと不満げな感じは?」
綾駒さんが言った。
綾駒さんは、水玉のライトブルーのワンピースを着ている(胸の辺りが今にもはち切れそうな)。
「なんだ西脇、僕達の水着姿が不満なのか?」
柏原さんが訊いて、僕は首をブンブン振った。
柏原さんは
「頑張ってビキニに挑戦したのに、ショックだな」
朝比奈さんが悪戯っぽく言った。
朝比奈さんのビキニは、すべてを浄化するような白、真っ白。
「あんた、この部活を作るまでは、こんなふうに水着の女子に囲まれることなんてなかったでしょ? それを、水着姿が不満だなんて、ちょっと、インフレしてるんじゃないの?」
両手を腰にやった千木良が偉そうに言った。
千木良は青のギンガムチェックのビキニだ。
「ここには、水着姿のJK三人と、幼女、成人女性が揃ってて、全方位的な需要に応えてるっていうのに、なにか不満なの?」
うらら子先生も僕を
先生の水着は、ホルターネックの黒い水着で、大きく開いた胸元のセクシーさがハンパない。
「ごめんなさい。本当に、そんな意味じゃないんです! 温泉っていうから、てっきり……」
僕は湯船の中から土下座する勢いで謝った。
「西脇君、私達が裸になって一緒に温泉に入るって思ってたんだ」
綾駒さんがジト目で僕を見る。
「そうじゃないけど……」
だって、先生が意味ありげな顔で「西脇君、一緒に入る?」なんて訊いてきたから、そんなふうに勘違いしたってしょうがないじゃないか。
「ここは海外からのお客さんも多いんだし、スパで水着着用は当然でしょ?」
千木良が言った。
言われてみれば、まったくその通りだ。
「うふふ、西脇君を
朝比奈さんが言って、柏原さんが「そうだな」って頷く。
朝比奈さんは僕を
やっぱり朝比奈さんはどこまでも優しい。
風呂桶のお湯で体を流してから、女子達も湯船に入ってきた。
僕の両脇には、朝比奈さんと綾駒さんが並んだ。
僕の両側に、スイカが二つずつ浮かんでるみたいで、目のやり場に困る。
僕の前には柏原さんとうらら子先生、そして千木良が並んでいた(さすがに、この状態では、千木良も抱っこをせがんでこなかった)。
女子達は髪を濡らさないようにアップにしていて、みんなうなじが出てるから、普段よりセクシーさ200パーセントアップだ。
湯船の温泉は乳白色でしっとりしている。
岩を組んだ露天風呂で、所々に置いた
暗いから、夜空の星が綺麗に見えた。
ここは山の中にあることもあって空に近い。
たくさんの星が、手に取れるくらいの距離にあった。
「ああ、気持ちいい」
僕の対面に座るうらら子先生が、頭を岩にもたれて体を伸ばした。
お湯の中で先生の足が僕のすねの辺りに触れる。
先生は、こちょこちょって、僕のすねの上で足の指を動かした。
僕は、くすぐったくて
お湯の中で見えないと思って、先生、なにしてるんだ!
僕は先生に抗議の視線を送ったけど、先生は知らん顔をしている。
そして、お湯の中で僕の足を突っつくのをやめなかった。
っていうか、僕の足を
「だけど、なんか不思議だね」
お湯をかきながら朝比奈さんが言った。
「なにが?」
綾駒さんが訊く。
二人が動くと、谷間でお湯がぴちゃぴちゃ跳ねた。
「うん、もうすぐ一年が経つでしょ? 私達がこうして西脇君の元に集まって、一年でこんなふうに距離が縮まったんだなって思って」
朝比奈さんが遠い目で言う。
確かに、僕は一年前に彼女がいない現状をなんとかしようって一念
そこになぜか女子ばっかり集まって来て、その素敵な女子達と仲良くなった。
でも、まさか、一年後、こんなふうに親しく一緒に温泉に入ってるなんて思わなかった。
それまでの僕なんて、女子とは必要最低限の会話しかしたことがなかったのだ。
そう思うと、
もし、一年前の僕に会ったら、頑張れば良いことあるよって、言ってあげたい。
そして、自信を持って部を立ち上げろって、応援してやりたい。
僕もそんなことを考えながら、ゆっくりとお湯に浸かった。
多分、女子達も同じような気持ちで温泉を楽しんでいる。
温泉で顔と体が
「さて、そろそろ出ようか。一年、無事に部活をやり遂げたお祝いをしよう。西脇君の部屋に集まって、今から宴会だよ」
先生が立ち上がって、女子達も「賛成ー!」って次々に立ち上がった。
みんな湯船から出て脱衣所のほうに向かう。
「西脇、出ないのか?」
湯船に入ったままの僕に、柏原さんが訊いた。
「うん、僕はもう少し入ってから出るよ」
「のぼせないうちに出てこいよ」
柏原さんはそう言うと、小走りでみんなのほうに行く。
みんなが出ていって、露天風呂には僕だけが残された。
よかった。
これで僕もお風呂から出られる。
まさかここが水着着用のスパとか知らなくて、僕は下になにも
水着の女子達の前で全裸を見せるわけにもいかず、タオルで前を隠して、ずっと湯船に浸かっていた。
いつみんなにバレるか、冷や冷やだった。
みんなに気付かれなくて良かった。
お湯が乳白色だったのが不幸中の幸いだった。
僕だけ裸で入ってるのを知られたら、変態扱いされてただろう。
僕みたいに、変態からはもっとも遠い人物が、そんな汚名を着せられたら、立ち直れないところだった。
みんながいなくなったのを確認して、僕は湯船から出た。
柏原さんが言うとおり、もう少しでのぼせるところだった。
湯船の縁を歩いて、男子用の更衣室に戻ろうとしてたら、目の前の引き戸がいきなり開いた。
「ゴメンゴメン、髪留め忘れちゃって……」
水着姿の朝比奈さんが戻って来る。
そして、朝比奈さんは生まれたままの姿の僕を見た。
「きゃあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
朝比奈さんの悲鳴が、山々に響く。
これは事故だ。
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