第115話 トロフィー
「ミスター
ここで司会者が、思わせぶりな
講堂のスピーカーからは、ドラムロールが流れている。
「準グランプリは、西脇馨君です!」
司会者が言って、観客からワンテンポ遅れで「おおおおっ」て、どよめきが起きた。
それは、僕、西脇馨が準グランプリなのか、っていう戸惑いと、グランプリはやっぱり遠藤先輩だよなっていう安心とが混じったようなどよめきだ。
僕だって、僕なんかがグランプリにならなくて良かったっていう気持ちと、僕なんかが二位になれたっていう気持ちでクラクラしている。
「西脇君、おめでとう!」
客席の誰かがそう言って拍手した。
それに釣られて、客席に拍手が広がる。
まもなく、会場全体を拍手が包んだ。
最初に声がした方を見ると、そこに僕がよく知っている女子がいた。
烏丸さんのまわりに、一緒に合宿した新体操部の部員の姿も見える。
部員の周りには、棘学院女子のグレーのセーラー服を着た女子が大勢いた。
みんなが、「おめでとう!」とか、「西脇君カッコいい!」とか声をかけて、大きな拍手をしてくれている。
なるほど、僕がこうやって準グランプリになれたのは、烏丸さん達、棘学院女子の生徒が僕に投票してくれたせいなのか。
きっと、烏丸さんが周囲に呼びかけて、人を集めてくれたんだろう。
休日にわざわざ来て、投票までしてくれたらしい。
僕は、ありがとうございます、の意味を込めて、烏丸さん達がいる方に手を振った。
すると、
「きゃー!」
って、棘学院女子のみんなが歓声をあげる。
一緒にステージに立ってるコンテスト参加者が、なんでこいつ棘学院の女子に人気なんだ? みたいな目で僕を見た。
事情を知らない人から見ると、確かに奇妙に見えるだろう。
イケメンでもなんでもない僕が、お嬢様女子校の生徒に大人気なんだから。
客席の千木良を見ると、千木良が、よくやったわね、みたいな目で僕を見ていた。
案外、僕が文化祭のミスターコンテストに出ることを烏丸さんに連絡したのは、千木良や、うちの部の部員だったのかもしれない。
残念ながら、僕はグランプリにはなれなかった。
後夜祭で香のダンスの相手は出来なくなった。
でも、このメンバーの中で準グランプリって、棘学院女子の組織票を差し引いて考えても、よくやったんじゃないかって思う。
現時点で僕が出来る精一杯のことをした。
「それでは、ミスター是清学園、準グランプリの西脇君に、御所河原栄華会長より、記念のトロフィーが送られます」
司会者が言って、会長が長い髪をなびかせながらステージに上がった。
会長の血のように赤い眼鏡のフレームが、キラリと光る。
「おめでとう」
そう言って、小さなクリスタルのトロフィーを僕に渡す御所河原会長。
渡しながら、会長は僕の耳元に口を寄せた。
「私の完敗だわ。悔しいけど、約束通りなんでもしてあげる。あなたがこの私を彼女にしたいというなら、それにも従うわ、なんでも言いつけてちょうだい」
会長が、僕にだけ聞こえるように言う。
会長からは
「いえ、僕は、会長みたいに素晴らしい女性を彼女に出来るような、そんな
僕がそう言ったら、会長の
そして、急にとろんとした視線で僕を見る。
さっきまで、上から見下ろされてるような迫力を感じてたのが、逆に、下から上目遣いで見られてるような気がした。
あれ? 僕、なんか変なこと言っただろうか?
「西脇君が準グランプリいうことで、もちろん、グランプリは遠藤君です!」
司会者が言って、盛大な拍手が沸き起こった。
遠藤先輩がステージの真ん中に立って、客席からの祝福を受ける。
遠藤先輩には、御所河原会長から僕よりも大きなトロフィーが渡されて、
余裕の遠藤先輩が僕に握手を求めてきて、二人で肩を組んで握手する。
そこを、新聞部のカメラ班に何枚も写真を撮られた。
カメラのフラッシュを浴びながら、こんな華やかな場所、僕には似合わないって、つくづく思う。
写真には、ほとんど目を
始まるまで色々とあったミスター是清学園コンテストは、こんなふうに終わる。
自画自賛するわけじゃないけど、なかなか良いコンテストだったと思う。
舞台を降りた僕は、まず、烏丸さん達、棘学院女子のみんなにお礼を言いに行った。
「ありがとうございました」
烏丸さんをはじめ、新体操部のみんなに頭を下げる。
「準グランプリになれたのも、烏丸さん達のおかげです」
そう言って、もう一度深く頭を下げた。
「ううん、確かに、私達は西脇君に投票したけど、私達、棘学院女子だけだと高々100票ちょっとだよ。それじゃあ、準グランプリなんかになれないと思う。だからこの結果のほとんどは、西脇君の実力なんじゃないかな? だって、西脇君のスピーチとアピールタイム、最高だったもの。私も、西脇君が作ったケーキと、西脇君が入れてくれたコーヒー飲んでみたかったもの」
烏丸さんが言って、まわりのみんなが頷く。
「来週はうちの学校の文化祭だから来てね。それから、今度、本当にケーキご馳走してよね」
そう言ってウインクする烏丸さん。
「それじゃあ、カワイイ女の子が待ってるみたいだから、私達行くね」
烏丸さん達は、そう言い残して行ってしまった。
烏丸さんがカワイイ女の子って言ったのは、妹の野々とその友達だ。
「お兄ちゃん、おめでとう!」
そう言って、人目もはばからずに野々が飛びついた。
僕は野々を受け止める。
人前だから、抱きしめてほっぺたスリスリするのは止めておいた。
「お兄さん、おめでとうございます」
野々の友達も祝福してくれる。
「立派なお兄ちゃんを持って野々も鼻高々だよ」
自分のことみたいに誇らしげな野々。
みんなで記念撮影しようってなって、友達も一緒に写真を撮る。
「さあ、ほら、いつまでも野々達の相手をしてないで、お兄ちゃんを支えてくれる人達のところに報告しに行きなさい」
野々が生意気なことを言った。
「うん、それじゃあ」
僕を支えてくれる人がいる場所、僕は急いで部室に帰る。
「おめでとう!」
部員のみんなとうらら子先生、そして、香が笑顔で迎えてくれた。
「ご苦労様。ケーキ、よく出来てたよ」
朝比奈さんが
「よくやったよ。まあ、グランプリを逃したのは惜しかったけどな」
柏原さんが僕の肩を叩く。
「集計した生徒会の子から聞いたんだけど、女子票の一番は西脇君だったみたいよ」
綾駒さんが肘で僕の腕を突いた(なんか、他のモノが当たってるし)。
「ま、まあ、よくやったじゃない。ご褒美に、私を抱っこしてもいいわ」
千木良が僕の腕に飛び乗る。
「馨君とダンス出来ないのは残念だけど、私も明日、頑張るね」
香が言った。
「よし! 西脇君の準グランプリと、明日の香ちゃんのグランプリの前祝いで、今日の夕飯は、焼き肉パーティーにしよう」
うらら子先生が言った。
結局、こうなるらしい。
その晩は、僕がもらった準グランプリのトロフィーを真ん中に、焼き肉パーティーをした。
そして、いよいよ明日は、我が「卒業までに彼女作る部」の今までの活動の集大成、香の出番だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます