第5話 ココナツオイル
「やあ、僕は
三人目の入部希望者も女子だった。
それも、自分のこと僕って呼んでるボクっ娘だ。
「受付は、ここでいいんだよね」
僕と
「うん、そうだけど」
僕は柏原さんを見上げて
柏原つみきさんは、僕や綾駒さんと同じ二年生。
180を超える身長で、スマートなアスリート体型の人だ。
少し日に焼けた肌に、ショートカットの黒髪。
四月の上旬でまだ肌寒いのに、柏原さんは制服のブレザーを脱いで、ブラウスを腕まくりしている。
「本当に、この部に入るの?」
僕は思わず訊いてしまった。
柏原さんは、恵まれた体格の上にスポーツ万能なのに、どこの部活にも入ってなくて、各部活の助っ人として呼ばれて、大活躍している人なのだ。
今までどこの部活に入ってなかったのも、才能がありすぎて一つのスポーツに
そんな人が、僕が作った「卒業までに彼女作る部」に入りたいって、ここに来たのだ。
「ホントに、ここでいいの?」
ちょっと
「もちろん、僕はそのつもりで来たんだ」
柏原さんは爽やかに笑って、真っ白い歯を見せる。
有り難いけど、どうしても場違いだって気がした。
「柏原さん、ほっぺに、なんか付いてるよ」
綾駒さんが、柏原さんの顔を覗き込む。
確かに、柏原さんのほっぺに、なにか
「ああ、これ、オイルかな」
柏原さんは手でほっぺたを
「さっきまで、ちょっとバイク
ほっぺたに付いたそれを、手で
オイルが付いた手は、スカートの裾で拭いた。
柏原さん、かなりワイルドな人らしい。
「もう! だめだよ。女子のお肌は大切にしなくちゃ」
綾駒さんが慌てて自分のバッグからクレンジングシートを出して、柏原さんのほっぺたを拭いてあげた。
そして、同じように手のオイルも拭く。
バイク弄ってたって言ったけど、柏原さんは学校から許可を得てバイク通学してる人だった。
登下校時、時々、黄色いホンダのクロスカブ110に追い越されることがあって、それに乗っているのが柏原さんだ。
「この部に入りたいってことだけど、柏原さんも『彼女』作りたいの?」
僕は訊いた。
「いや、僕は『彼女』っていうより、その中身に興味があったんだ。その機械のほうにさ」
柏原さんは、スカートのポケットに入っていたスパナを見せる(なぜ、スカートの中にスパナが入ってるのかは謎だ)。
「アンドロイドを作る部活って聞いて、機械好きの僕としては放っておけなかったんだよ。父親の影響で、僕は昔から機械いじりが好きで、バイク直したり、組み立てたりしてるんだけど、歩いたり走ったり、ダンスしたりするOPP AIで作られたアンドロイドに興味があってさ。それって、機械として究極じゃないか。組み立ててみたいじゃないか。チャンスがあれば作ってみたいってずっと思ってたんだけど、僕は機械は得意でもプログラミングとか
柏原さんみたいな人にそんなふうに言ってもらえると嬉しい。
控え目に言って、すごく嬉しい。
でも、なんか、くすぐったい感じもした。
「それじゃあ。お願いします。一緒に『彼女』作りましょう」
僕は、握手の右手を差し出す。
機械に明るい柏原さんに入ってもらえば、すごく心強い。
僕、機械音痴だし。
「うん、よろしくな!」
柏原さんに力強く手を握られた。
こうして近付くと、やっぱり柏原さんからもいい匂いがして、それはココナツオイルみたいな香りだった。
「西脇、ところで君は、さっきからなんで
僕の膝に乗っている千木良を見て、柏原さんが不思議そうな顔をする。
千木良は、僕と柏原さんが話してるあいだ、ずっと黙って大人しくしていた。
「なによ幼女って! 私は、立派なレディなんですからね!」
千木良がそう言ってほっぺたを膨らませる。
それを見た綾駒さんが「カワイイー!」って、キュン死しそうになっていた。
「ああ、ゴメンゴメン確かに、君はレディだな」
柏原さんが千木良をなでなでする。
「もう! レディの頭をなでなでするもんじゃありません!」
千木良が僕の膝の上で暴れた。
「そっか、ゴメンね。それじゃあ、ちゃんとレディとして扱おう」
柏原さんは膝を折って、千木良の手を取ってその甲にキスをした。
「なな、なにするのよ!」
柏原さんに突然キスされて、千木良が顔を真っ赤にする。
「ふにゃー」ってとろけてしまいそうだ。
「このシチュエーションの薄い本ください……」
それを見ていた綾駒さんがこぼした。
女子部員達三人が、さっそく打ち解けてくれたみたいで嬉しい。
とにかくこれで、部員は僕を入れて四人になった。
あと一人入ってくれれば、人数では部活としての条件を満たすことが出来る。
顧問の先生を探す必要はあるけど、大きな進歩だ。
でも、「彼女作る部」に男子が一人も入部してこないって、どういうことだろう。
みんな、彼女欲しくないのか。
これが、
だとしたらそれは、すごく深刻だ。
「ねえ、せっかくこうして知り合いになれたんだから、これからみんなでケーキでも食べにいかない? いいケーキ屋さん知ってるの、行こうよ」
綾駒さんが提案した。
「そうだな。ちょうど小腹も空いてるし、僕は付き合うぞ」
柏原さんが賛同する。
「私も、行ってあげてもいいわ。人間関係の
膝の上の千木良も言った。
「西脇君も行くよね?」
綾駒さんが、小首を傾けて訊く。
ケーキ屋さんとか、ハードル高い。
大体、彼女がいない僕が、ケーキ屋さんなんて場所に足を踏み入れてもいいんだろうか?
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