エキサイト・ガジェット


 その一方で、突如として姿を見せたのは、黒いフレスヴェルクだった。その動きは、まるで忍者と言うべきか。彼はランキング荒らしとして数週間前から姿を確認されている。しかし、ここまで何も反応がなかったのは偽者説もあったからだろう。


【仮にチートプレイヤーだったら、ブラックリスト入りだが――】


【一体、何を目的に動いているのか?】


【あの動きは単純にチートプレイヤーとして認定するには難しいぞ――】


 あるいは、このフレスヴェルクははじめから偽者として行動しており――それこそ悪目立ちや承認欲求を求めていた可能性も高い。しかし、本当に悪目立ちが目的ならばそこまでゲームスキルは不要だろう。なのに、あの動きで逆に目立ってどうするつもりなのか?


【奴は何者なのか?】


【フレスヴェルクって、ウルズに倒された――】


【一体、何を目的に動いているのか?】


【似たようなコメントがあるが、コピペか?】


【ジャパニーズニンジャ!?】


【しかし、フレスヴェルクの動きも似たような物だ。この動きがコピペとは別としても――】


 ネット上では、黒いフレスヴェルクの出現に関して疑問を持つコメントが多い。しかし、単純な名前を利用した便乗勢力かどうかは――まだ未確定だろう。その一方で黒いフレスヴェルクは別の有名プレイヤーとする説も拡散している。果たして、彼は何が目的なのか?



 西雲春南(にしぐも・はるな)のレースが行われている中、黒いフレスヴェルクの話題はトレンドを奪われるのでは――と懸念されていた。


 しかし、その予想は杞憂――まとめサイトの思惑には簡単にいかないという具合だろう。何故なら、今回の西雲は今までとはまったく異なる動きを見せていたからである。


【何だ、あの動きは――】


【リアルであの特撮を見ているかのようだ】


【これが――ARパルクールの可能性なのか?】


 既にレースは5キロを過ぎており、リードしていたのは無名のプレイヤーである。しかし、それを追いかける西雲の動きは、周囲を沸かせるには十分のアクションだった。


【危険なアクロバットなしでも、ここまで出来るのか?】


【ARパルクール、侮りがたし】


 20段の跳び箱に匹敵するような高さの障害物でさえ、西雲にはあっさりと飛び越えられる――それ程のスキルを見せた。ARガジェットの影響もあるのかもしれないが、今の彼女は――別人以前に強くてニューゲームを連想するような状態と言える。


【使用するガジェットは――まさか?】


【バックパック以外では、特にそれっぽいガジェットはないぞ】


 西雲の装備は、バックパックとブースターユニットのみと言う装備だった。ヒューマノイドモードへの変形は可能な形状はしているが、重装備と言う訳ではない。


『これが、自分の新たな可能性――』


 残り3キロを切った所で、南雲は一度立ち止まって――ARガジェットに表示されたボタンにタッチする。


《エキサイト・ガジェット》


 次の瞬間、アーマーが光輝いたと同時にブースターユニットが分離し――西雲に装着された。ヒューマノイドモードにも似たような形状だが、モードとしては違うようにも思えるだろう。


『これが、ヒューマノイドモードを超えた――アンリミテッドモードよ!』


 ランダムフィールド・パルクールではバージョンアップを繰り返している部分があった。その中でも目玉として密かに進められていたバージョンアップ、それがアンリミテッドモードである。


 しかし、それを扱えるプレイヤーは運営から認められた上位ランカーや一部プレイヤーに限られていた。つまり、西雲は運営から認められたプレイヤーと言う事になるだろう。


『これは予想外の展開です! 西雲選手のARガジェットにも――アンリミテッドが実装されていました!』


 バーチャル動画投稿者でもある実況が、ここぞとばかりに叫ぶ。これには周囲のギャラリーも驚くしかない。それを見たプレイヤーは、誰もが衝撃を受けているだろう。チートや不正アプリとは違ったレベルで脅威となるARガジェットに――。


『ARゲームは――無心で楽しまないと。ルールとマナーを守って、正々堂々と――』


 西雲の発言には、今までの炎上案件やミカサの件でプレッシャーになっていたような時とは嘘みたいな――変化が見られた。しかし、その表情はARバイザーの影響で確認出来る手段はないのだが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る