パルクール・シティ


 3月3日、コンビニやスーパー等ではひな祭りをメインにしているが、ARゲームでは特に大きなイベントがない。

ソーシャルゲーム等の様なログインボーナスもなければ、廃課金と言う概念もないのだが――ARゲームはクレジットを投入してプレイするゲームである。

それで仮に廃課金と言う概念があるとすれば、大量の資金をゲームに投入するとかもしれない。それこそゲーム病とか言われかねないが。

 そこで西雲春南(にしぐも・はるな)の考えた強化方法――それは、ARゲームのパワーアップとしては不正ではない。

しかし、ゲームジャンルによっては批判的に言及されるであろうアレである。

『その手段を使うのは――お勧めしない』

 西雲の背後から聞こえた声は――男性の声である。しかし、後ろを振り向いた西雲の目の前にいたのは――ARメットにインナースーツと言う人物だ。

アンテナショップではインナースーツの使用は問題ないのだが――ARゲームも設置されていないようなエリアでメットを被るのは、相当な人物しかいないだろう。

下手をすれば、ガーディアンに警戒されて捕縛される可能性が高いからである。そう言う状況にしたのは、間違いなくミカサかもしれないが。

「じゃあ、どうすれば!?」

 西雲はミカサに尋ねるのだが、それに応えてくれるはずはない。ヒントも与えてくれそうなようもないだろう。

『課金をしてARパルクールで容易にアドバンテージが取れると考えているのであれば、それはチートプレイヤーの考えと同じだ』

「ガジェットへの課金はARゲームでも認められているパワーアップ方法でしょ? それを否定するなんて――」

『正しい方法であれば、ガジェットへ投資する事は悪い事ではないだろう。しかし、単純に勝てないからという理由で課金するのはお勧めしない』

「勝てないから? チートや不正ガジェットを使うプレイヤーと考えが同じって言ったけど――」

『廃課金をして勝てるならば話は別だが、ARゲームはソシャゲ程に単純と言う訳ではない』

 2人の議論は2分以上は続いただろうか? しばらくして、西雲の方が折れたようにも見える。

『これだけは言っておこう。手持ちのガジェットや技術の向上だけでも状況は変化できる。ビスマルクのように――』

 言いたい事だけを言うだけ言って去ったような気配だが、ストレス発散と言う理由で強い口調になった訳ではないのは分かっていた。

そして、西雲は改めてフレスヴェルクから託されたデータの事を思い出して――。

(あれが全てではないとしたら、これには――)

 このガジェットを手にしてから何かが変わったのは事実だろう。

しかし、試作型ガジェットを使った際に勝利した時とは感覚がガラリと変わっており、未だに慣れていないのが正解かもしれない。



 3月4日、ある人物が再びランダムフィールドへ復帰したニュースが話題となる。

その人物とは――ニュースサイト経由で知った西雲も驚くべき人物だった。ナガトを初めとした人物も、これには――。

「フレスヴェルク――?」

 名前を見て二度見するほど――確認する必要性があった。あの時にデータを託した人物が、まさかの復帰をするとは――。

ARゲームなので、大けがをするような事もないような安全を保障されているゲームであるのは明言されているが、この光景はさすがに二度見をしたくなる。

『フレスヴェルク――倒されたはずでは?』

 ARバイザーのSNSモードでニュースを目撃したナガトも――これには計算外と言う様な表情を浮かべた。

倒されたと言及したのは、フレスヴェルクに危害を加えた勢力を特定していた事に他ならない。

該当する勢力は既に壊滅しており、今は残党が行動している程度の小規模勢力になっているのだが。

「ややこしい事になったな」

 別のモニターでフレスヴェルクのニュースを知ったのは、ウルズだった。

ウルズに関しては一連の事件にも関係はしているが、どちらかと言うと彼を弱らせたのがウルズ、止めを刺したのは別勢力と言うべきだろう。



 午後1時、無名プレイヤーと西雲のマッチングが始まろうとしていたのは――新たにフィールドとして追加されたオケアノスのメイン施設近辺である。

大型ショッピングモールの内部は別のARゲームが使用している関係上、駐車場とは違った外部フィールドでのプレイになるが。

それでも広さはかなりの物で、10キロコースを設定する事も可能な面積を持っていると言っていい。

さすがに全部は使用できない関係上、外部フィールドと一部の一般道、ビル街を使用してのフィールドとなる。

「シティフィールドと言った所か――」

 スタート地点に姿を見せたのは西雲である。他にはインナースーツ姿の人物がいるのだが、彼女の身がメイド服と浮いた存在になっていた。

今回も使用するのは、ベルトタイプのARガジェットにスティック形状のメモリをセットするタイプのようだが――。

「使い方が分かった以上――」

 西雲の右手に握られていたのは、フレスヴェルクから託された物とは別の形状のスティックメモリに見える。

他のプレイヤーは、それが特撮番組のソレではないか――そう感じていた。

「二次創作や権利侵害の疑いのあるガジェットは使えない。最低でも――」

「まさか、チートガジェットではなく著作権侵害のガジェットを使う気か?」

「二次創作のオリジナルガジェットって――どう考えても、チートよりも危険すぎるだろう」

「ARゲームで二次オリとか――何を考えている」

「使えるガジェットは原則一次創作ではないのか?」

 周囲のギャラリーやプレイヤーも西雲が所持しているガジェットに、チートとは別の疑いをかけていた。

彼らの言う二次オリとは、二次創作オリジナルの意味合いを持ち、ARゲームが本来は一次創作のガジェットを推奨している。

コスプレイヤーの中には版権作品のコスプレイヤーもいるが、これらはARゲームとは離れたコスプレだからこそ認められていると言っていい。

しかし、ARゲームの場合、一部ジャンルでは中継も行われていたり、中にはいち早くイースポーツ化した作品では賞金も出る。

そうした作品で二次創作ガジェットを使うのは、権利関係的にも複雑化してしまう。

ARゲームの一部では二次オリ無双を防ぐ為に、こうしたデザインのガジェットを使用禁止にしているのだが――。

「これは二次創作や二次オリではないわ――」

 西雲がARガジェットを起動させ、変化した姿は二次オリや二次創作とは全く違う物だったのである。

その姿は――周囲が驚くような物であり、人によっては言葉を失う物でもあった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます