ダークバハムートの敗北
ゴール地点に近づく――それは、レースの終わりが近づいている証拠でもある。1クレジットでのプレイで無制限にプレイ出来ては、さすがに赤字なのだろう。
実際、ランダムフィールド・パルクールはプレイ時間として1プレイ約10分と言った所だ。それを1クレジット200円でプレイ出来るのは、かなりの価格破壊と言える。1クレジット100円だと、それで運営できるのか疑うレベルと言えば分かるだろう。
『おのれ――!』
ダークバハムートの前方に西雲春南(にしぐも・はるな)の姿は見えない。500メートル位の差があるとマップでは表示されているのだが、レーダーに反応はあっても――追いつく気配がなかった。
走るだけでは追いつけないと判断したダークバハムートが使用するのは、脚部のジェットローラーユニットである。
ダークバハムートはARアーマーこそ装備はしているが、使用するオプションは必要最低限になっていた。
ジェットローラーモードに変形する脚部パーツ、ローラースケート的な形状に変形するのではなく、ブーツの裏にローラーユニットが仕込まれている。
通常の3倍の速度が出せるのだが、制限時間は5分――。ただし、こちらは任意で解除できるので2分使用して3分は別のタイミングで使用する事も可能だ。
ヒューマノイドモードのような爆発的な能力上昇はないのだが、向こうが冷却時間の長さや一度起動したら解除不能と言う事もあって――。
『残り2キロ――何としても、トップに返り咲いて見せる!』
ダークバハムートはパルクールでのプレイでは見せないような焦りが、動きにも目立ち始めている。これを見た周囲のギャラリーもSNS上のツッコミ待ちと言う状態になっていた。
ローラーユニットを起動させても、その使い方がマスターしきれていないと言うか――動きが微妙なのは明白だろう。アスリートがARガジェットに頼らないで自分の体力等でゴリ押しするという傾向は、特にARパルクール等に代表されるスポーツ系が顕著だった。
このプレイが仇となり、ダークバハムートは致命的なミスを知る事になる。
残り500メートル、ダークバハムートの前にもゴールが見えていた。しかし、西雲の姿はない。別のコースを使ったとしたら、レーダーでも変化があるので――明らかにおかしいと思い始める。
【トップのプレイヤーがゴールをしました】
状況説明のシステムメッセージをONにしていた関係もあり、ARバイザーに表示されたメッセージを見て――足を止めようともしていた。
しかし、ここで止めれば――順位が落ちるのは明らかなのに加えて、マッチポンプも疑われるだろう。
【これがジャイアントキリングか?】
【この展開は想定外だ。西雲は確か――】
【間違いなく、その筈だ】
【レベル差か――?】
【負けた原因は、そこではないだろう】
【アスリートならではの落とし穴――】
様々なコメントが飛び交うのだが、それらはSNSモードをONにしていないと見る事が出来ない。現段階のダークバハムートはゴールをしていないので、これらのコメントはチェックできないだろう。
『2位――なのか?』
ARバイザーに表示された順位表、そこにはダークバハムートが2位でゴールした事を告げている。既に3位、4位のプレイヤーもゴールしているのが順位表を見ると分かるのだが――1位の人物名は、彼が信じられないような人物名だった。
結果として、ダークバハムートは2位と言う結果に終わる。西雲は彼がゴールをする30秒前にはゴールをしていた。何処でミスを犯したのか、ダークバハムートには自覚がない。ARガジェットも使っていたのに、負ける事があるのか?
他のプレイヤーも続々とゴールをする中で、ダークバハムートは言葉を失っていたのは言うまでもない。
『これはまさかの展開です。ダークバハムートが、2位に終わりました――』
実況の声もむなしく響く――これは明らかに西雲を甘く見た結果が、この順位だったと言える。しかし、その後の実況でも他のプレイヤーを罵倒したり煽ったり、あるいは炎上発言――と言った物はない。
あくまでもゲーム終了後はノーサイドというARゲームのガイドラインに従っている可能性もあるだろう。
「何故、負けたのか――」
ARアーマーを解除し、ARバイザーも脱いだダークバハムートは気持ちを落ち着かせようと近くのベンチに座り込んだ。
他のプレイヤーはダークバハムートの方を見る事無く、そのまま別の場所へと向かう。
「何故負けたのか? ARパルクールにパルクールの戦術がそのまま転用できると思ったのか――」
座り込むダークバハムートの目の前には、ビスマルクの姿があった。
インナースーツは装着しておらず、何時ものコートに袖を通さないスタイルも相変わらずである。
「ARゲームは――VRゲームと同じではないのか? そして、その延長線上の――」
「ARゲームとVRゲームは別物だし、ARパルクールとパルクールには決定的な違いがある」
「違い!? ARガジェットの有無だけではないのか」
「――それが直接の敗因ね。ARゲームはARガジェットをフル使用する事が求められている。だからこその――」
「ARガジェット? あれを使わないとプレイできないのか? てっきり補助アイテムと思っていた」
「ここまで認識の違いがあるとは――」
ダークバハムートが敗因をビスマルクに聞いたのだが――彼女はやり取りをしていく内に分かってしまった。今の彼では、ARゲームで上位にいたのが奇跡と言う位にありえない認識をしている。
ARゲームはARガジェットがあってこそのゲームであり、それなしでプレイしようなんて縛りプレイ以外の何物でもないだろう。
(西雲が1位を取れた理由も、何となく分かる気がしてきた。今の彼女は――)
ビスマルクは、今の西雲であれば――あの時の様なプレイはないだろうと確信する。そして、マッチングリストをチェックしながらその時を待つ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます