混迷を極めるフィールド


 午後5時位までは大きな動きは目撃されず、報道される事もなかった。報道規制ではなく、本当になかったのである。下手に他のメディアを刺激するような話題を避けた意味合いもあるかもしれない。その一方で、オケアノス独自の文化と言う事で割り切られてしまう事も稀にあった。


 この時間帯になると、さすがに高校生辺りは家に帰る時間と言うような雰囲気だが――だからと言って、飲酒プレイヤーが出没する訳ではない。


 周囲が暗くなると足場やフィールドの問題でプレイ不可になるゲームもあるが、ランダムフィールドはプレイ可能となっている。その理由として、LEDに匹敵するような発光機能をARアーマーに標準装備している個所、周囲のフィールドにも太陽光パネル付きのLEDランプが配置されている等も大きい。


 夜間のプレイ感覚は昼間と大きく異なるのは、当然分かっている。実際、パルクールプレイヤーも夜間にアクションを披露する事はない事例もある事を踏まえると――当然と言うべきだ。ARゲームの場合は、ARゲーム独自で安全対策があるからこそ許可されているのである。


「この状況で、パルクールアクションは――」


 周囲の設備を見て、ダークバハムートはある懸念を抱く。テレビ番組のアトラクションでも照明設備を用意するのは当然だろう。


 ARパルクールでは周囲に照明設備も若干あるのだが、それでもフィールド全体をフォローしている訳ではない。


 そこで出番なのが、ARアーマーの発光だろう。発光するアーマーはFPS等では致命的な弱点になるが、ARパルクールの場合はプレイヤーの安全的にも重要となる。


 こうした設備や装備を見ても、ダークバハムートは夜間のパルクールアクションが危険と――。夜間の方が昼間には仕事をしているような人間でも生でアクションを見る事が出来るのは、彼らにとってありがたいのだろうが。



 せっかくなので、彼は少し日が落ちていく頃合いの時間を狙い――レースを見学する事にした。タブレット端末のスケジュール表を見ると、時間的には午後5時30分と明記されている。


『プレイヤーの皆様にお知らせです。屋外における夜間のARゲームプレイは特定ジャンルを除いて禁止されております――』


 周囲のスピーカーから流れた放送は、まるで市役所から流れる『お家に帰りましょう』のコールと似た感覚だろう。それに加えて夜間ARゲームの注意事項も知らせていた。実際、一部のプレイヤーは時間になった事で引き上げる仕草を見せている。


『なお、夜間でもプレイ可能なARゲームの確認はセンターモニター及びアンテナショップへ確認をお願いします』


『夜間の屋外プレイ終了時間は午後10時となります。それ以降は屋内のARゲーム施設でプレイ可能な機種に限定されますので、ご注意ください』


『プレイ終了時間を過ぎての夜間プレイは近隣住民の迷惑となりますので、絶対におやめ下さい』


 さすがにこれはないだろう、とダークバハムートも呆れかえりそうな内容の放送が2度繰り返される。「大事な事なので二度言いました」に該当するような注意事項なのかは、疑わしい部分があるのは事実だ。ARゲームのガイドラインを全てチェックした訳ではないので、見落とし部分もあるかもしれないが。



 夜間レースの第一号となるプレイヤーは、特に有名所がいない初心者の多いレースとなった。これに関してはダークバハムートも初心者が夜間のアクションに耐えられるのか――と疑問を持つ程。


 しかし、初心者が多いだけであり――上級者が全くいないマッチングと言う訳ではない。


「なるほど――こういう事か」


 ダークバハムートが彼らの走る道路を見ると、発光する矢印が表示されていたのである。近年になってAR技術を使用した地図誘導などが発展していると聞いたが、まさかの応用技術に驚きを感じていた。この光る矢印やARバイザーのマップを使えば、迷子になる事無くゴールには辿り着ける。


 ただし、ARバイザーは電力を消耗する。それはARアーマーにも同じ事が言えるだろう。一体、夜間プレイの電気は何処から調達するのか? 疑問に思うダークバハムートだったが、ヘルプにはこういう記述もあった。


『ARゲームエリアでもあるオケアノスでは、太陽光発電以外にも水力や風力等の発電を利用して、その電力を使用している』


 オケアノスでは自前の発電施設を所持しており、他の発電所からの電力を使用しなくてもARゲームをプレイ出来るようになっている。これが意味している物は、原子力発電等のライフラインが不測の事態で使用不能になっても、ARゲームで使用する電力を埼玉県内の電力に当てると言う。これには別の意味でスケールの違いすぎる話と自分も思っていたのだが――。



 2月27日、この日はあいにくの小雨だった。雨ではARゲームの一部はプレイ不能となり、ランダムフィールドも例外ではない。


 ただし、オケアノスには屋内でも広いフィールドを持っている場所が存在し、そこでのプレイを呼び掛ける告知がホームページに公開されていた。


 そうした流れもあってか、屋内フィールドは通常時の2倍近くの入場者を記録している。平日が1万人規模なのを踏まえると、草加市の中ではかなりの混雑具合と言うべきかもしれない。


「小雨位で中止になるのか?」


「安全のためだ。こればかりは仕方がない」


「ARゲームは屋外系だけがARゲームではないだろう。屋内系でも有名な機種はある」


「それもそうだが――」


「屋内系はARリズムゲームに代表される体感タイプは比較的に人気があるようだ」


「ARリズムゲームでも、事件があったように思えるが――」


「細かい騒動やネット炎上等も含めれば、VRゲームよりはARゲームの方が炎上しているだろう。VRが炎上したのは、規模が大きすぎた」


 周囲のギャラリーの声を聞いていたビスマルクだったが。今の彼女は立ち止まってタブレット端末をチェックしている。一連のミカサ絡みのニュースを目撃していた一方で、不穏な見出しを発見したのだ。


【ゲーム研究者西雲が炎上か?】


 西雲春南(にしぐも・はるな)の肩書は、ARゲーマーがメインではない。あくまでも、それはサブ職業の様な物だ。メインで認識されているのはゲーム研究者の肩書である。それを踏まえると、ビスマルクは彼女の本当の肩書を知った事になるだろう。

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