隠されたガジェット


 2月14日、この日はバレンタインデーなのだが――ARゲーム上では特に便乗イベントはない。

あってもARリズムゲームやARカードゲーム系に限られ、ARパルクールには無縁の話だ。

むしろ、バレンタインにイベントをやったとして人が集まるかどうか――という問題が浮上するだろう。

「こういうときに限って――ネット炎上を行おうと言う連中が出てくるわけだが」

 自宅の自室でお昼のニュース番組を見ていたのは西雲春南(にしぐも・はるな)だった。彼女はARゲーム関係のニュースがあるかどうかをテレビで確認している。

既に昼食を食べた後なので、テーブルにはノートパソコンを起動して記事を書く準備はしている。

 しかし、結果としては大きなニュースはなかった。交通事故や経済関係のニュースは流れるが、埼玉県外の出来事なのであまり興味を示さない。

埼玉県内に限れば物騒な事件は、比較的少なくなっているのが現状だろう。

特に草加市内では無人ドローンが飛んでいたり、監視カメラも至る所に――という錯覚に県外からの観光客は思うかもしれない。

こういった無人ドローンを活用した周囲の警戒や町単位での様々な活動が、犯罪発生率を低下させているのは事実と言える。

『東京都は、新たな振興策としてARゲームを用いた――』

 テレビから唐突にARゲームの単語が出てきたためか、西雲は液晶テレビの方を二度見した。

確かに竹ノ塚や秋葉原と言ったエリアではARゲームのプレイエリアが存在するが、それ以外ではあまり見かけない。

このニュースを聞く限りでは、未使用の土地等にARゲームのプレイエリアを誘致すると言う事らしいが――これがうまくいくかどうかは不明だろう。

草加市の場合は、駅の近辺や莫大な広さを持った土地を確保出来た事が大きいのである。東京の様な土地事情が複雑な所で、上手くいくのかは疑問が浮かぶ。

「安易な便乗であれば――明らかに炎上するだろうが、この場合は――」

 西雲は右手でテーブルに置かれていたノートパソコンのキーボードを器用にタイピングし、気になる単語を入力する。

【ARパルクール、種類】

 検索結果は――見るまでもない。千差万別とは言うが、まさかここまでとは――と驚くしかない。

その内、ランダムフィールドのような大型ガジェットタイプの物を使うのは、指折り数える程度だが。

「どちらにしても、これが深く関係してくるかと言えば――」

 西雲は一連の芸能事務所絡みの案件が落ち着いている事、それ以外のアンチと思われる炎上も鎮静化している事を踏まえ――脅威となるのはアレ敷かないと判断した。

ARゲームのライバル会社の動きをいくつかピックアップして検索しようと思った矢先、あるニュースが流れてきたのである。

『芸能事務所が数社に対して圧力をかけていた問題で――』

 芸能事務所が圧力と言うと、ネット炎上案件と似ているような――と断言できそうな出だしだが、実際は違っている。

『警察は地下アイドルの所属している芸能事務所の家宅捜索を開始したと発表しました』

 あまりにも手際のよすぎる警察の動きに対し、西雲は明らかにフラグが立っていると断言していた。

被害妄想のレベルではなく、本気で何か大きな出来事が起こりそうなフラグである。



 草加市内のアンテナショップ、フレスヴェルクは例のアカシックレコードからのデータを解析している。

公の場で解析をすれば、それが流出するような危険性があるのに――パソコン環境的な意味でもアンテナショップで行わなければいけない理由もあった。

それは、ARゲームの開発環境がそのまま使える場所で解析を行っていることに他ならない。レンタル制度なので、お金はかかるのだが――。

一般的な漫画喫茶等でもインターネットはあるだろうが、物がものだけに流出の危険性を想定していない訳がなかった。

 そう言った事情を考慮してのアンテナショップである。リスクは0%と言う訳ではないのは、折り込み済みで。

「このデータがクライアントの考えているデータだとすれば、自分で特許を取得――」

 画面に表示されたデータは、ARガジェットの強化データと思わしき物である。

これがアップデートデータとして拡散すれば、確実にゲーム環境が変わるレベルの技術と言えるだろう。

「さすがに、それはまずいか。これが特許申請できるかも疑わしいレベルのデータだ」

 このデータが特許を取れるレベルの物であるのは間違いないが、それをやって誰が得をするのか?

自分は特許料で儲かるかもしれないが、ARゲームのデータはあくまでも独占的にして良いものではないとガイドラインにある。

クライアントも、それを望まない趣旨の念押しを依頼前にしていたのが――若干気になっていた。このデータは、何を意味しているのか?

ARゲームのデータを草加市が独占している訳でないのは、市役所で配布されているパンフレットにも記述されており、共通財産と言う認識なのだろう。

 しかし、アカシックレコードから発見したこのデータは、同じ扱いにしても問題ない物かと言われると――それは違うと断言できる物だ。

下手をすれば軍事利用されるレベルの物であり、その技術は魔法や錬金術と例えられても不思議ではない。



 アカシックレコードに関して、長渡天夜(ながと・てんや)も別のアンテナショップ内で把握していた。

彼は別のサイト経由だが、アカシックレコードの存在を既に知っている。その上で、そのデータを利用してARゲームを完成させたのだ。

ネット上ではWEB小説のパクリや盗作疑惑もあって、炎上寸前だったが――該当する小説が出版されていない事もあり、言及する人間は減っていく。

ただし、ゼロになった訳ではなく――炎上させようと煽るユーザーは後を絶たない。

「あのデータに近づいた人物がいるのか」

 長渡はネット上で拡散している噂を鵜呑みにする訳ではないが、アカシックレコードに言及する人間が出現した事に危機感を覚えた。

その人物が軍事企業や産業スパイ等に売り込む事がない事を信じたいが――。

「あのデータをライバル会社に提供したとして、完成できるのか――」

 アカシックレコードの技術、それはかなり特殊な物であり――それこそ特撮に出てくるような変身アイテムの設計図レベルのシロモノだ。

フィクションはフィクションであるべき――長渡の行動原理は、そこにあると言っても過言ではない。

 ネット上におけるフィクションと呼べるようなネット上のネタや都市伝説、まとめネタ、ナマモノ系の夢小説――それらをノンフィクション化して炎上させる。

そして、炎上を目的としたまとめサイトを管理してアフィリエイト収入を得たり、芸能事務所A及びJから報酬をもらう――そう言ったパターンもWEB小説には存在していた。

長渡が懸念する現実、それはARゲームのガジェットを悪用してデスゲームが世界規模で起こる事なのである。デスゲーム禁止法案が可決した今でも、それが破られる可能性を否定しない。

SNSテロやまとめサイトによる炎上、マッチポンプは序の口にすぎないのだから。

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