第25話 街の外



 剣術教師ゾーダに言われた通りの訓練を終えた後、トーズと一緒に海に潜る。

 ジェリーは僕らが船底の貝をとり、サメを殴り飛ばしている間は暇らしく、商人たちの靴を磨いてお小遣いをもらっていた。


 僕が衛生環境に気を付けた方がいいと言ったからか、病気の子たちを看病するために気を使っているからか、ジェリーは出会った当初の泥まみれの服や髪や顔を洗い、少しばかり綺麗にしているようだった。

 赤い髪は太陽に照らされ綺麗で、緑色の大きな瞳は青々とした春の草のように美しい色をしていた。汚れを落としたジェリーは、とても愛らしい顔をしていた。


「一日で上達してんじゃねーよ」

「ええ? そりゃあ経験が出来たんだから昨日よりできるのは当然じゃない?」

「じゃねーよ。まぁ助かるけどよ……レオが引き寄せた分だけサメを吹っ飛ばしてくれるからさ」


 昨日トーズがやっていたのを見習い、僕もこちらを食べにくるサメを追い払っていた。

 ただそれも、僕がサメを真っ二つにしたおかげで、海が赤く染まってサメが大量にやってきたので、まだまだである。生き物を力いっぱい殴ることには抵抗もあったが、自分に命の危機があれば、その抵抗も帳消しになるし、依頼で初めて魔獣を倒すより、予行演習が出来ていいような気もする。


 鍋を囲みスラムの子供たちと一緒に貝スープを食べる。二日連続食べ物を食べれるのからか、子供たちの顔には笑顔が増えていた。




***



「俺ら薬草の種類わかんねぇけど、どうやって捕ればいいんだ?」


 街の外にある森の中で、地面に生えている雑草をむしりながらトーズが聞く。

 今日の仕事は僕ら子供にもできる薬草採取。摘んでいった薬草をギルドに提出すれば、使える薬草を買い取ってもらえる、初心者にもやさしい依頼だった。


「あ、トーズあたしこれ知ってる。これは味草あじくさだよ。スープに入れたらおいしいの。売るには沢山ないといけないけど、みんなに持って帰れるよ」

「おーそういうの教えてくれ、俺は食っていい木の実くらいは知ってるからそれを捕ってくる! チビ共も喜ぶ」


 採取の達成金目当てではなく、スラムの子供たちへの食料を優先している姿を微笑ましく思う。

 僕は薬草を何も知らないので、見覚えのある草を籠に入れてゆく、これはたしか使用人たちが飲んでいたお茶に使うハーブだったはずだ。ついでによくわからないキノコも集めてゆく。

 触ると指の指紋が溶けるキノコは、なんだか危なそうなので、自分の手に治癒魔法を施しながら、採取した。


「そうそう昨日聞いたんだけど、水辺とか人の踏み入れにくい場所が穴場らしいよ」

「水辺はいいな、根こそぎ水魔法で刈り取ってやんよ」

「トーズは水魔法が得意だからね、いいなぁ、あたしはなんにも……」

「そんなことないよ。訓練していけば魔法は上達するし、早めに分野を決めて取り組むと上達するらしいよ。触りだけでいいなら教えようか?」


 僕が提案するとジェリーはキラキラと目を輝かせる。


「ほんとう!? あたし皆を暖かくできる火の魔法がつかいたいの!」

「水は!? ジェリー水なら俺でも教えれるぞ!」


 なぜかトーズが焦っている。たぶん水魔法を使う仲間が欲しいとかそういう感じなのだろう。

 薄々気づいていたのだが、トーズはどうやら地上より水中に居る時の方が強い気がする。僕はそんなことはないので、多分トーズはよほど水との相性がいいのだろう。


「火はケヤドしながら覚えていく魔法だから痛いよ。いいの?」

「う、うん。レオが、治してくれるんでしょう?」

「治すけどね。その……泣かないでね」


 聖女様との別れを味わって以来、僕は女の人の泣き顔が苦手だ。

 姉の泣き顔なんて、硬直して動けなくなってしまうほど苦手だ、姉が苦手ということもあるだろうけれど、女の人が泣いている姿を見ると、どうしても聖女様のことを思い出して、悪い相手だろうと酷いことが出来なくなってしまう。

 だから僕を殺そうとしていた兄の使用人であるララリィも責めるようなことは出来なかった。


「じゃあ今日は火の暖かさを考えてて、魔法は想像力を使わなきゃいけないから、暖炉のあったかさとか、ぽかぽかしたこととかを想像するんだ」

「わかったよ」


「ある程度できたら、枯れ草の中に手を入れて火の暖かさを想像する。手が焼けるほどの熱さを感じれば火はつく。それが出来たら手に浮かべた魔力に火を移して投げると火玉ファイヤーボールになるよ」

「冒険者の中で引く手あまたな、魔法使いが使う、あの?」

「うん。手をだして、こんな暖かさを想像するといいよ」


 ジェリーの小さな手のひらにそっと触れる。

 やけどしない程度の暖かい魔力を僕の手からジェリーの手に送ってゆく。ちょうど風呂に使うお湯くらいの温かさだ。


 想像するのに一生懸命からだからか、ジェリーの顔にぼっと火が付くように赤くなる。なかなか上手く火を想像できてそうだ。


 その横で、トーズはまるで仲間を殺されたオークのように歯をむき出して、グルグルと、なぜか僕を威嚇いかくしている。 

 なんだか少し気まずくなったので、僕はジェリーの小さな手を離して草の採取を再開した。



 しばらく薬草の採取を行い、気難しい薬草屋のお婆さんに貰った種類と同じ草をいくつか採取できた。

 確か結構買い取り価格が高い草だ。これだけで昨日の倍のお金は入手できるだろう。


 けれどさっきからほんの少しだけ気になっている事がある。

 何かにずっと見られている気配がしていた。スラムに居た人達のような色々なものが混ざり合ったような、嫌な臭いも微かに漂っている。


「この中で最近したことで殺されるほど恨まれる事をしたことある人ー?」

「俺にはマッタク、心あたりがねーなァ」

「盗みはしたけど、それ以外は何もしてないよ」


 なら僕らを街を出た当初からずっと付け回して、見ているのは……

 多分僕を殺しに来た奴か。ララリィめ、しくじったな。


「水辺に移動しようか、コケも取って帰りたいし」

「名案だな!」


 僕が力に自信があるのなら、二人と離れ、一人でやっつけただろう。けれど、今の僕一人ではさすがに役者不足だ。味方は多い方がいい。

 特に僕を本気で殺しに来たプロが相手なら、水の近くで力を発揮できるトーズが居た方がいい。


 森の中を三人で水辺へと向かおうと、歩き出したその時――


「気づいたのか、そこのお坊ちゃんは勘がいいな」


 地を這うような嫌な笑い声が、森の中に響いた。


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お読み頂きセンキュー!

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