第30話 そして僕は異世界美容整形医になった


「ボーグ、近くにいる?」


「うん、大丈夫。すぐ傍に居るよ」


 僕は風呂部屋の外で壁に背を預けて座りながら、ミレルに相づちを打った。

 中から見えるように入り口に手だけ出してひらひらと振る。


 あろうことか、その手を、お風呂の中のミレルが捕まえてきた。


 柔らかい手の感触が伝わってくる。

 なんだか揉みほぐすように僕の手のひらをむにゃむにゃと触りまくるミレル。


 えーっと、どうしたら良いのかな、僕は?

 どうしてこうなったのかな?


「ボーグは、分かってないのよぉ……」


 お風呂の中から甘えるような声が聞こえてくる。


 はい、分かりません。

 全然分かりません。

 ミレルさん酔っ払ってるんですか?


「わたしはボーグのことが好きなんだよ?」


「うん……それは聞いたんだけど……僕のことを恨んでるんじゃなかったの?」


「ん〜……最初は『あいつ』との違いが良く分からなかったから殺そうと思ったんだけど……ボーグが自分の顔を優しい雰囲気にしたときから、わたしはもう違う人だって思ってたのよ?」


 すごくリラックスした声音でミレルが答えを返してくる。

 なんだか癒されるね。


 ……結構前から違う人認定されてたのか……


「だって、ボーグって凄いんだもん。アナスタシアを生き返らせたと思ったら、すぐに魔法を使えるようになって、畑もしっかり手伝ってくれて……」


 滔々と僕の自慢話を語りだすミレル。


 あっ、やめてっ、そんな熱の籠もった声で自分のやってきたことを聞かせないで!

 恥ずかしさで死んじゃう!


「そんなのもう『あいつ』とは別人と思うしかないと思うの」


 鼻歌でも歌いそうなぐらいご機嫌でミレルは続ける。

 なにより、元気になってくれて良かった。


「何より凄いのみんなを元気にしてくれたことだと思うの。『あいつ』の所為でみんなギスギスして昏い雰囲気になってたのに、瞬く間に元気にしていったの」


 嬉しそうに楽しそうに、まだまだミレルの語りは続く。


「ビアンカをキレイにしてくれたと思ったら、ダビドのところまで行って告白するように焚き付けるまでして、ずっと変わらなかったことを変えてしまったの」


 ミレルさん、なんで僕がダビドを焚き付けたこと知ってるのかな?


「ダマリスとマリウスだってそう。わたしは絶対2人は上手く行くのにって思ってたのにどうすることも出来なかったけど……ボーグはダマリスを、マリウスが迷うことなく好きって言えるようにマリウスの要望を聞いた可愛さにして──」


 え……あー……マリウスの好みの顔にしたのか僕は……

 全然気付いてなかった……

 だからマリウスはあんなに真剣に僕に指示を出していたのか。


「他の子達だってそう。みんなみんな可愛くなってキレイになって……新しくなっていくの! 昏かった過去なんて無かったかのように、みんな明るくなっていくの!!」


 ミレルのテンションが高い。

 こんなミレルの声は初めて聞いたな……

 それだけ喜んでくれてるのかな。


「そしてわたしも……悪魔に縛られていたわたしもボーグは助けてくれた……」


 熱の籠もった息を吐き出す音が聞こえる。

 話をするミレルがとても満足そうで、僕も段々嬉しくなっていく。

 僕のしていたことはちゃんとみんなを救えていたんだって。

 ちゃんとミレルは認めてくれてたんだって。


「あなたが悪魔の──『あいつ』の痕跡を全て消し去っていってくれる。この村をどんどん明るくしていってくれる。それがわたしは堪らなく嬉しいの……」


 ミレルが喜んでくれている。

 その気持ちがどんどん僕の中に入ってくる。

 やって良かったって思える。

 その気持ちがこれで良いんだと教えてくれる。


「だからね、ボーグ。わたしはこれからもあなたはみんなをキレイにしていくんだって思ってるの」


 ん?


「そうして、みんなの嫌な思い出、嫌な過去を薄めて、みんなを明るくして……村全てを明るくしてくれると思ってるの」


 ああ……

 そうなのか……

 そういうことなのか……


 僕はミレルの言葉でようやく理解できた。


 人をキレイにすることの意味を。


 美容整形という医療の意味を。


 あんな反面教師みたいな親だったから、整形という言葉を忌避して使っていなかった。

 キレイにする──美容目的だと言うことを極力考えなかった。

 あくまでもこれは治療なんだって言い聞かせていた。

 キレイになることは別にどうでも良いって。

 とにかく、その人が過去に囚われないように治療するんだって。


 でも……

 でも、そうじゃないんだ。


 それに意味があるんだ。

 キレイにするから意味があるんだ。

 その人のコンプレックスを無くすことに意味があるんだ。


 昔から近くで見ていて、なのにその事に気付かないなんで……ホントにバカだな……


 わざわざ薬剤師を選ぶ必要なんて無かったのに。

 父親が言うように美容整形外科医になっても良かったのに。

 父親と同じようになりさえしなければ。

 それで人を救うなら一緒じゃないか。


 もしかしたら薬より効果があることだってあるだろうに。

 思い込みで勝手に下だと──劣っていると思っていた。

 それぞれに必要なことなのに。

 ある人にとっては薬よりも大事なことかも知れないのに。


「ボーグ? 泣いてるの?」


 いつの間にかミレルが横に立っていた。

 既に髪の毛も乾かした後だ。


「いや、泣いてないよ。なんだか嬉しくて……」


 もしかしたら、ミレルの言うように僕は泣いていたのかも知れない。


 ミレルの言葉で僕の悩みは露と消えた。

 過去ちちおやに囚われていた僕の思いを晴らしてくれた。


「だから、ボーグには感謝こそするけど、恨んだりすることなんてないのよ?」


「そうだね……」


 今僕もミレルには感謝の気持ちしか無い。

 それと一緒なんだ。

 だから良く分かる。


 ミレルが後ろを振り返って、そのままベッドに倒れ込む。


「ねぇ……ボーグ……?」


 不安そうな声を出して、何でしょうか……?


「わたし、まだ、独りになるのが怖いの……」


 はい、それで何でしょうか……?


「ここで一緒に寝てくれないかな……?」


 そんなに可愛く聞かれたら!!


 僕は勢い良く立ち上がり──

 立ち眩みでもう一度しゃがみ込んでしまった……


「ちょっと! ボーグ、大丈夫?」


 慌てて駆け寄ってくるミレル。

 心配してくれるミレル、可愛いなぁ……


「ごめんなさい……わたしがわがままで無茶なことさせたから……」


 僕は頭を押さえながら、ゆっくりと頭を左右に振る。


「僕がしたくてしたことだから、ミレルは謝る事なんて無いよ……」


 そう答える僕の脇にミレルは頭を入れて、肩を貸すようにしてベッドまで連れて行ってくれた。


 僕はベッドにごろりと転がり、天井を見上げた。

 心配そうなミレルの顔が覗き込んでくる。

 僕はそんなミレルに微笑み返して──


「僕は美容整形医になるよ。ミレルが言うようにみんなをキレイにしてみんなを明るくする仕事だよ」


 破顔一笑。

 ミレルが花のような笑顔を浮かべた。


「ありがとう、ボーグ!」


 ミレルはそのままベッドに倒れ込んで僕に抱き付いてくる。

 ホント可愛い子だな……


 僕はミレルの頭を撫でながら続ける。


「だからミレル、手伝ってくれる?」


「手伝う! いいえ、あなたのすることをわたしに手伝わせて! ずっと傍であなたのすることを見ていたいの!!」


 さすがミレルだな。

 村のためになると思ってることを、自分も手伝っていち早く見たいと思うなんて。


「ありがとう」


 ミレルの気持ちに感謝しかない。

 ずっと手伝って欲しいよ僕も。


「むぅー……ボーグ、また勘違いしてるでしょー?」


 え? なんか拗ねられてる気がする。


「ずっと傍に置いてください言ったのにぃ……」


 えっ……!

 それってプロポーズじゃ……


「良いの? 僕で?」


「あんなに言ってるのに……あなたが良いって」


 甘い声で褒め殺されてたのはそういう意味だったのか……


「そっか……ありがとう……ミレルが赦してくれるなら僕も一緒に居たいと思う」


「ふふっ……わたしこそ、ありがとうなのよ」


 そう言ってミレルはキスをしてくれた。

 女の子にリードされてばっかりで情けない男だけど……まあ、それも僕だし仕方がないか……

 僕は僕で良いと、ミレルが教えてくれた。


「これからよろしくね」


「はいっ!」


 ぎゅっと抱き付いてくるミレルの頭を撫でながら、僕は夢の中に沈んでいった。


 ホント、可愛い奥さんだな……



◇◇◇◇



「ぼっちゃん? どこですか〜?」


 外から聞こえてくるデボラおばさんの声で僕は目を覚ました。

 この地下室は閃術『集音サウンドコレクション』のおかげで外の音を良く拾う。

 まだ外を探し出してすぐだろう。


 僕は身を起こして──


 起こそうとして何かに阻まれた。


「ん〜? 朝ぁ?」


 むにゃむにゃ言いながら目を擦る可愛い奥さんが僕の上で寝ていた。


 昨日あのまま2人とも寝てしまったんだな。


「そうみたい。デボラおばさんが探してるから僕は出るよ」


 ミレルの頭を撫でながら僕はそう答える。

 のんびりしていたいのは山々だけど。

 ベッドの端に移動して立ち上がると、ミレルが僕の服の裾を摘まんでくる。


「んー」


 何ソレ?

 顎突き出して上向いて目を瞑って……


「んー?」


 催促されてる……?

 ああ……そういうこと!

 良いのかな……


「んー!」


 早くしないから怒られてる気がする……

 僕は静かにそっと唇を重ねた。


 するとミレルは目を見開いて驚きを返してきた。


 え?

 違うの?


 ミレルは真っ赤な顔をしてベッドに沈んでいった。


「ホントにしてくれると思ってなかった……ありがとう……」


 何この可愛い生き物!!

 軽く頭を撫でてから、僕は立ち上がった。


 デボラおばさんが他の家に聞きに行く前に出て行かないと、どんな事になるか分からないからね。





「おはようございます」


 カモフラ小屋から顔を出して、近くに居るデボラおばさんに声を掛けた。


「ああ、坊ちゃん! こちらでしたか?」


 なんか頭に疑問符が浮かんでそうな表情だけど……


「昨日はここで作業をしたまま寝てしまって、朝から手間を掛けさせてしまってすいません」


「ああ、村長からの頼まれ物の」


「そうですそうです。ところで朝食ですか?」


 なんか最初の方もこんな誘導をしたような……


「ええ、そうです。準備できてますので──あっ!」


 え? なに? その何かを察した顔は……


 背後に気配を感じて振り返ると、まだ眠そうに目を擦りながらミレルが立っていた。


「まあまあまあまあ、あらあらあらあら」


 あー……いつものやつだー

 スナップを効かせて手を振りながらあらあらまあまあ仰ってる。


「もう暫くかかりますのでごゆっくりどうぞ〜」


 そう言って素早く母屋へ去っていくデボラおばさん。


 また、勘違いされたー


「いいじゃない……夫婦なんだから」


 ミレルが嬉しそうに腕に抱き付いてくる。

 この世界だとそう言うものなのかな?

 ミレルが喜んでるならまあ良いか。





 デボラおばさんのまた一段と美味しくなったパンを頂いて後、朝食後のリラックスタイムに、今日はココアを飲んでみた。

 今日は新鮮なミルクをデボラおばさんが持ってきてくれたのと、なぜか甘い甘いココアが飲みたくなったので。

 3人分入れてから、デボラおばさんにも一緒の机で飲んでもらうことにした。

 デボラおばさんに話しておきたいことがあったから。

 頼み事をするのに別の机にいるのはおかしいので、こういうときは良いようだ。


「それで、お願いというのは、デボラおばさんに話を広めて欲しいんです」


 噂好きのデボラおばさんに話してもらったら、村中に早く伝わると思ったからだ。


「僕は今日から美容整形医院を開設します。そのお客さんを探すために色んなところで話をしてもらえればと思いまして」


「話をするのは全然構いませんよ。そりゃ、わたしは噂好きですから。でも、美容整形医院っていうのは何なんです?」


 この話は当然そこに行き着く。みんなが使わない言葉だからだ。

 だから、僕がしたいことも込めて少しだけ違う意味で話してもらおう。


「美容整形というのは簡単に言うと美しく綺麗に整えるって意味です。最近僕が若い女性達に魔法を使ったのはもう知ってますよね?」


 デボラおばさんはもちろんと言わんばかりに素早く頷きを返してくれた。


「実例は彼女達です。まあ、広い範囲で解釈してもらって良いので、村の困ってる人を助けるための相談所だと思って下さい。みなさんの悩みを僕が魔法で解決します」


「まあまあ坊ちゃん! ご立派になられて!」


 気持ちは分かりますが目頭を押さえないでください。


「そう言うことでしたら、既に色々と話はしていますのですぐにお客さんが来てくれると思います」


 えっ?

 既にって何?


 うふふふふふと笑ってデボラおばさんが朝食の片付けに戻って行ってしまった。


 どういうことだろう……?


「デボラおばさんはボーグがあのオーブンを作った日ぐらいから、近くのお母さん達と料理の話をするようになったのよ。何か料理で困ってる人が居るんじゃないかしら?」


 そうなのか……過熱水蒸気調理器で作った料理は泣くほど美味しいらしいから、欲しいという人が他にもいるのかもしれないな。

 思っていたのと違う相談かも知れないけど、誰かが来てくれないことには始まらないし、最初は簡単な物の方が助かるのは確か。

 少しずつ実績を上げて評判を上げていくのが良いだろう。


 朝食後のリラックスタイムを終えて、僕とミレルはカモフラ小屋に来ていた。

 この場所に新しく建物を建て直して医院にしようと思っている。


 立地としては住宅街から少し離れているけど、農作業の行きや帰りには寄りやすいみたいだから、それほど不便ではないみたいだ。

 元村長の家だし比較的訪れやすい場所なんだろう。


 さくさくっと魔法でカモフラ小屋を解体して、地下室への出入り口がある場所を一番奥の部屋になるように、新たに建物を建造していく。


 美容整形医院とは言ったものの、病院も診療所もない村なんだから、診療所っぽい構成で作っておこうかな。

 足りなければすぐに建て増せるのが魔法の良いところ。

 とりあえず、待合室兼受付、診察室が2つ、入院は無いだろうけどベッドを個室で5床ほど、服を脱ぐ可能性があるのは別にした方が良いから検査室兼手術室も1つ、スタッフルームは念の為男女用で2つ、そして一番奥の部屋の院長室……こんなもんかな?


 魔法を使うのも慣れたもんだ。


「改めてみるとホントに凄いわね、ボーグの魔法は」


 数分で建屋が出来てしまうのは僕も驚きだよ……配線配管が要らないし、メンテナンス性を考える必要がないから簡単なんだろうけど。


「外装は後にして、次は内装に掛かろうか」


 全て石壁だと味気ないし外の様子が分からないので、一部を嵌め殺しのガラスにしたり、壁紙や化粧板を貼ったりして内装を作っていった。

 一度作ってみてからミレルにデザインの相談をしたり、家具やインテリアの相談をしたり、拡張しまくった魔石で空気清浄機能付きの空調や調光式の照明を各部屋に埋め込んで使い方を説明したり……

 デボラおばさんが昼食に呼びに来るまで、2人して作業に没頭してしまった。

 当然ながら呼びに来たデボラおばさんは驚いていた。

 朝まで小さな小屋だったのに、昼には母屋より大きな建物になっていたんだから、そりゃ驚くよね。


 昼から内装の続きを片付けて、終わったら外装に取りかかった。

 雪が降っても大丈夫なように屋根を作ったり、壁にレンガやタイルを貼り付けてメリハリを出したり。

 ある程度作り終わったら次は塗装。


「どんな色が良いかな?」


「色? 木や石そのままの色じゃないの?」


「服には色があるでしょ? あれは染色して色を付けていることが多いんだ。それと同じように建物も好きな色に塗ることが出来るんだよ」


 試しに色相明度彩度を変えた色を壁に塗っていく。


「この辺の色がわたしは好きかな」


 ミレルが少し白っぽいけどカラフルなゾーン──パステルカラーのゾーンを指して僕に笑顔を向けてくれる。


 可愛いなぁ

 その笑顔がもうパステルだよ。


 あまりの可愛さにわけの分からない言葉が出て来てしまった。

 さっさと配色を考えよう。

 ここはやっぱり、美容整形医院らしくベージュやピンクをメインに据えて、周りと余り浮きすぎないように緑や茶色を取り入れよう。


「ふふっ! なんだか可愛いわね」


 そういうミレルが可愛いんだよ!


 ……浮かれてるな、僕。


 まあ、ミレルも喜んでくれたしこれで良いかな。


 日暮れも近くなってきたし、後は仕上げをしようかな。


「ボーグ? あそこだけ塗り忘れてるみたいだけど?」


 入り口の上に少し広い範囲に白が残っている部分を指差してミレルが首を傾げる。


 良いところに気が付きましたねミレルさん。


「あそこには名前が入るんだ」


「名前? 何の?」


「この建物の名前だよ。ここが何をしている場所か分かりやすい名前を付けるんだ」


「店先に下がってる看板みたいな?」


 看板式が基本だったのか。


「そうそう。僕の感覚では人の名前と種類を並べて付けるんだけど……そういうのってあるかな?」


「ボーグ美容整形医院ってこと? ん〜 あんまり聞かないかな」


 そうなのか……ん? 苗字がないからか?


「村長は貴族だから苗字が有るんだよね?」


「ボーグも一緒よ? ボグダン・シエナなのよ?」


 村の名前そのままなのか。

 あれ? でも僕もそうなの?

 何もしてない息子なら爵位は無いんじゃないの?

 あんまり関係ないからまあ良いか。


「そうなると、シエナ美容整形医院かな?」


「なんかショボそう……」


 ちょっ! ミレルさん、自分の村の村長の名前をそんな風に言っちゃダメでしょ。


「ボーグは分かってないのよ! ボーグは凄いのよ? あなたの魔法は村の規模なんかで収まる物じゃないと思うの! この領……いえ、この国……それでも足りないわ、この世界を超えるぐらいの魔法だとわたしは思うの!!」


 すっごい力説してくれてるけど、やっぱりそんなに言われると恥ずかしい……


 じゃあ世界を超える美容整形医院?


 ああ──


「異世界美容整形医院か……」


 この世界の人間じゃない僕にはぴったりだな。


「異世界……不思議な響きね? でもわたしは良いと思うわ。この世界に収まらない感じが気に入ったの」


 ミレルも気に入ってくれた。

 じゃあ悩むことはないかな。


 ちょっと近くの地面に一度試し書きをしてみる。


 この世界に来て字を初めて書いたけど、ちゃんとこっちの文字になるんだ。

 意味も分かるし。

 転生させてもらうってそういうもんなんだな。


 よし、問題なさそうだ。


 僕は予定していた場所に、ピンクの字で『異世界美容整形医院』と掲げた。


「出来た!」


「完成ね!」


 僕とミレルは両手を挙げて、ぱちんと手のひらを打ち合わせた。

 いわゆるハイタッチというやつだ。


 何となく感慨深く建物を見上げる僕たちの背中に声が届いた。


「坊ちゃん、お客さんを連れて来ましたよ〜」


 仕事早いですね、デボラおばさん。


「ありがとうございます、じゃあ早速中でお話しを伺います」


 僕とミレルはエントランスの観音扉をそれぞれ1枚ずつ開く。


「ようこそ、異世界美容整形医院へ」


 そう言って1人目の患者さんを中へと導いた。


 異世界美容整形医院、ここに開院です!

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