第12話 でも僕には魔法が使えるようで

 魔法を検索できることが分かったからと浮かれてる場合じゃない。また変に驚いたらミレルを不安にさせてしまう。多分、昨日余計なことを言ったから、僕に何か憑いてないか疑ってるのだろう。


 僕はトイレを借りるということにして一旦外に出た。この村のトイレって基本外にあるから不便なんだよね。こういうときは便利だけど。

 工房の裏手で早速『魔法辞書検索サーチディクショナリー』を再発動! 余り長居すると怪しまれるから少し調べたら戻ることにしよう。


 さてさて、教えて下さいよ辞書ディクショナリーさん。

 まずは光灯付与ライトエンチャントから。


 辞書をめくるように目的の単語を検索するイメージをする。


光灯付与ライトエンチャント:統術ランク1。

 効果:閃術『光灯ライト』と閃術『自動魔力供給オートエネルギーサプライを対象に操術『符号登録アイコンレジストレーション』によってエンチャントする。

 変数:発動する魔法全ての変数を有する。》

 レベル変化:『光灯』のレベル変化が適用される。》


 おおー! これはすごい! 嵩張る魔法書いらず!

 そう言えば転生神様がスマートフォンで転生特典をくれたって言ってたから、こういう能力があるのか。確かにスマホで良く検索したな。

 これはチートっぽくなってきたー!


 ということは、『光灯付与』は存在するけど、ラズバン氏は上手く使えてないって事か。集中しないと出来なさそうな話をしていたから、人が周りにいたから失敗したかも……? の割には得意げに話していたし、脳内メッセージが聞こえないから違いが分からないのかも。

 レベル変化は何となく分かるけど、変数って何だ……数学が関係あるのか?

 変数を追加で検索してみるか──っ!!


 …………少し目眩がします……

 情報量が多い!! 今一つチートになりきれないのは僕だからなのかな!! もうちょっとコントロールできないものかな……勝手に流れ込んでくるのも善し悪しだよね。辞書さんの使い方には気を付けないといけなさそう。

 変数については、魔法を発動するために決めないといけないこと、ぐらいは分かったけど……次を調べるのが怖くなるね。系統についても調べたかったんだけど、夜中にソファの上ででもした方が良さそうだ。


 気を取り直して、もう一つ気になってることを確認しておこう。


 僕はアーティファクトを持ってないけど、魔法辞書検索という魔法が発動したって事。理由は不明だけど、これもたぶん転生特典なんだろうと思う。

 イメージすれば使えるっぽいのはラズバン氏も言ってたし、さっきの魔法辞書検索でもそうだった。

 じゃあ他の魔法も使えるんじゃないかと。

 周りに影響がない魔法がラズバン氏のおかげで分かったので試すことが出来そうだ。


 都合が良いことに工房の裏手には、さっき中で見た魔石が転がっている。ラズバン氏が使ってたのより小さいから、ランプには適さない大きさなのかな? 薄青い透明の石なんて他に見てないから間違いないはず。


 適当に足元のビー玉サイズの魔石を拾い上げて目の前に持ってくる。


 イメージ……イメージ……目の前の魔石が強く輝いているイメージを思い描いて魔法の発動を意識する。


トレビシック級ランク4統術師ジェネラリストボグダンの申請により統術『光灯付与ライトエンチャント』レベル2を発動します》


 メッセージが流れたかと思うと、小さな光が魔石に吸い込まれて消えていく。


 おおー!! 出来たー!!

 思ったよりあっさり出来たけど、また謎な言葉が増えた。〜級はランクで、それを使う人は魔法系統に『師』つけて表されるのか。ランクとレベルが一致しないのも変な感じだな……この辺は調べると説明が多そうなので、夜にでもまとめて確認しよう。


 思った通り僕はアーティファクトが無くても魔法が使える。これは僕の評価を覆すために使えそうだ。

 でも、アーティファクトが無くても使えるのは問題でもある。それはこの世界の常識に則してないから異質に映ること。ただでさえ憑き物が憑いてないか疑われてるんだから余計な疑念は持たれないようにしないと。カモフラージュ用のアーティファクトっぽい何かが必要だな。後でミレルに聞いてみよう。

 そろそろ怪しまれるだろうから工房に戻ろう。



◇◇



 戻ったらやっぱりラズバン氏のアピールが続いていた。

 ミレルがまるで日本人みたいな愛想笑いを浮かべながら、アピールに辟易としているのがうかがえる。そろそろ頬が引きつってきてるよ……

 僕が戻ったことに気が付いたラズバン氏が口を開く。


「ん? その魔石はなんだ? なにか魔法が込められてる様だが?」


 しまった! 持ってきてしまった。と言ってもラズバン氏が登録してた魔法とそんなに変わらないんだから、別段特殊なものでも無いはずだし、まあ良いか。

 しかし、魔法が付与されてる事って外から見て分かるの? 疑問に思ったので聞いてみた。


「少し色が変わってるだろう? だいたい色が濃くなるんだ。属性によって少し色が違うんだが、そんなに当てにはならん。だいたい色が濃ければ濃いほどに高レベル、濁っているほど複数の種類の魔法が付与されてることが分かる。濃く色の変わった中身の分からない魔石を発動させるのは危険だぞ?」


 ラズバン氏は丁寧に説明してくれた。この人も自己アピールが強過ぎなければ案外良い人かもしれない。危険性を教えてくれてるしね。とりあえず、魔石のおかげで話の流れが変わって、ミレルが明らかにホッとしているから良しとしよう。


「まあ、そんな小さな魔石だったら、余り強い魔法も付与できんから、それほど警戒する必要も無いが」


 そう言って僕に手を差し出してくるラズバン氏。

 渡すべきだろうか……頑なに渡さないのは怪しいだろうし、裏で拾ったことにしよう。

 素直にラズバン氏に魔石を渡すと、ラズバン氏は受け取った魔石をルーペで覗き始めた。


「ほぅ、キレイな色だな。付与されてる魔法は1つってところか……しかし、なんだこれは? 見る角度によって色が変わるぞ! どんな魔法が入っているんだ?!」


 うわー 凄い驚きよう。ラズバン氏の使った魔法類をまとめただけの魔法なのに……今さら無かったことには出来ないし。ここは誰か居ない人に濡れ衣を着せよう。アーティファクトを持っていない僕が魔法を使え無いことは明白だし。


「工房の裏の目立ったところに落ちていたので魔法に精通してる人なら誰でも怪しいって気付いたと思いますから、たぶんラズバンさんに見つけてもらうためにワザと誰かが落としたんじゃないかと……」


「そんなことをするのは……師匠ぐらいか。まあ、師匠の残したものなら危険は無いだろう。どれ、試してみよう」


 うぉぃ! それ以外考えられないのかよ! 悪意のある誰か他の人かもしれないのに……


「無いな。こんな村にわざわざ来るヤツがいるわけがない」


 すごい自信だな。ってミレルもそこは頷くのか。

 まあ、僕の込めた光灯だけだから問題ないけど……一応安全のためにミレルの前に立っておこう。たぶん僕は死なないだろうし。


 ラズバン氏が魔石に手をかざして口を開く。


「発動せよ!」


 あ、付与されてる魔法は発動させるだけでイメージとかいらないのか。じゃないと誰でも使える道具にならないか。


 とか思っている内に、魔石が輝きだし、部屋が光で明るく照らされた。

 おおー ちゃんと発動したー でも、さっきイメージしたのより弱いな。昨日使ったランプより少し強いかな……?


「な、なんだ、これは!!」


 ぅええ!! なんでそんなに驚くの!! ビックリするような光じゃないじゃん!!


「て、停止せよ!!」


 我に返ってラズバン氏が慌てて魔法を止める。

 光が収まっていき──作業をしていたお爺ちゃんお婆ちゃんがこちらを覗き込んでくる。ラズバン氏が大声出すから目立っちゃってるよ……横の机で絵を描いていた少女はそのまま絵を描き続けてるけど……

 後ろを振り向けばミレルがこちらを見上げている。

 いやー ボクハナニモシテイマセンヨ?


「こ、これは、凄い物だ!」


 驚きの余り語彙が少なくなるラズバン氏。

 いや、でも、何が?


「さっきも言ったように、魔石はその大きさで込められる魔法の量が違う」


 いや、聞いてませんけど……?


「ここにある胡桃サイズの魔石で、ようやくレベルの低い継続する魔法を1つ埋め込めるんだ! お前の持ってきたこの小さい魔石じゃあ点火棒イグニッションロッドみたいな継続しない魔法の材料にしかならん!」


 えー! そう言うことなの!? 早く言ってよー

 ラズバン氏が驚きポイントを説明できてスッキリしたのか少し落ち着いてきた。


「普通ならこのレベルの光灯ライトを付与するには女性の拳大ぐらいのサイズは必要なのだ。それをこんな小さな魔石で……師匠はまた新しい魔法を開発されたみたいだな……」


 そう言ってラズバン氏はぶつぶつ呟きながら思考の海に潜ってしまった。

 今の説明だと魔法のレベルと魔石サイズの関係が比例ではない気がするけど、僕はそういう理系ではないので良く分からない……これも夜にでも辞書さんにでも聞いてみよう。

 とりあえず、辞書さんの言う統術はこの世界では規格外ってことが分かったので、使うときは気を付けよう。


 ミレルの疑いの眼差しもあることだし、このぐらいにして引き上げることにした。

 今度来るときはお詫びに何か差し入れを持ってこよう。

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