第10話 わたしが変えた?
小さい頃から村の女の子は目を付けられていた。ちょっと可愛い子はみんなそうだった。わたしはそんなに可愛くなかったから積極的ではなかったけれど、マジメに大人の手伝いをしていたから気に食わなかったみたい。
相手は少し年上で村長の息子、わたしは農家の娘、逆らえるわけない。
それなのにバカで暴力的。
親はまともな村長だけど、親が言っても聞く気が無い。
わたしがそういうことを理解した頃から、バカ息子は次々と近い年齢の女の子に無理やり迫っていた。そのとき気に入った子に何度も、飽きたら次の子に。そういうことを繰り返していた。
被害にあった子が10人を超えた頃に、わたしに魔の手が伸びてきた。
今から3か月前だった。
最悪だった。
思い出したくもない。
そして2回目、昨日のこと。
1回目で子供が出来ていたのは月のものが来ないことから分かっていた。もちろん黙っていた。
知らないバカ息子は何を気に入ったのか3ヶ月経ってからまた襲ってきた。
とにかく許せなかった。
貴族のバカ息子でも似たようなヤツが良くいると、親や被害に遭った子達から慰められていたし、それが世の中だとは思っていた。どうしようもないやつはその後罰を受けると。その貴族はメイドも男だけの女が一切居ない城に幽閉されて生涯を終えたとか。
遊んで自分だけ楽しんだあと殺すような奴よりマシだけど、死にたいと思うことだってある。
二回目は酷く殴られて、その上で少しだけ膨らんでいたお腹も殴られて、やっぱり痛いばかりだった。
裸でお腹を見られたら子供がいるのが分かったのか、更に無茶苦茶に乱暴されて赤ちゃん共々殺されかけた。
こんなやつの赤ちゃんなんて産みたくも無いから死んでくれた方が良いと思うけど、だからといってそんな行為が許せるわけがない。
こいつは命を弄んでいる。
全て自分の思うようになると思っている。全て自分の所有物で何をしても良いと思っている。
こんな奴を野放しにしておいて、これ以上みんなが苦しむのは嫌だった。こんなやつに幸せがどんどん奪われているのが嫌だった。幸せを考えることが出来なくなることが怖くて、そして許せなかった。
妹の名前がバカ息子の口から出たときにはもう止められなかった。
これ以上不幸を生産させない。
だから、殺そうと思った。
そして殺した。
わたしは優しく真面目なお父さんとお母さんに育てられた。村長からの信頼も厚く、名産を育てる自慢の両親。わたしもそうなりたいと思っていた。
でも、こんな身体になってしまっては、そんなお父さんとお母さんに申し訳が立たない。
だから、お父さんとお母さんの愛の詰まったカボチャで殺した。
美味しいけど死ぬほど硬いで有名なカボチャで。
そして、言葉通り死ぬほど硬く、寝ているバカ息子の頭をかち割って、バカ息子は死んだ。
虚しくなるぐらいにあっさりと。
でも、生き返った。
死ぬときもあっさりと、生き返るのもあっさりと。
怖かった。
殺したわたしに復讐するために生き返ったんじゃないかと。自分勝手過ぎる最低な人間だから、殺されたことで自分のしでかしてきたことを理解するのではなく、単純に復讐するだけだろうと。
間違いなくわたしは殺されるだろうと。
人を殺しておいてわたしも自分勝手だけど、自分が殺されるのは怖かった。
なのに、何も無かった。
抵抗らしい抵抗もなければ、殺された事への抗議もなかった。
わけが分からなかった。
その上、記憶が無くなったと言ってきた。
わたしの命だけじゃなく、決意すらバカにしているのかと思った。
だから、また殴った。殴り続けた。
でも、何度殴っても死なないで、先にカボチャが割れてしまった。続けることが出来ずに、わたしは帰るしかなかった。
夢だったのだろうか……でも、わたしのキズは消えていない。痛みが事実だと伝えてくる。
やり切れない。
わたしは苦しんでいるのにあいつは何の痛痒も残ることなく生きてるなんて。
だから、朝から出掛けた。
そして聞かされた話はまるで人が変わったかのようだった。
死にたくない言い訳に記憶が無いなんて言ったのかとも思ったけれど、こいつがそんな言い訳をする必要が無いことに思い至った。
良く分からないけど一応本当のことのようだ。
でも、だからと言ってこいつのしてきたことが赦されるわけじゃない。あまりに良い人っぽくなり過ぎていることが、余計に腹立たしかった。
まるで記憶を忘れて良い人でいれば過去は忘れ去ってもらえると思っているかのようで許せなかった。罪を認めて罪を理解して罪を償わなければ意味がない。被害にあった子たちがいる以上、わたしが覚えている以上罪は消えない。誰が許してもわたしが赦さない。
だから、嫌だったけど夫婦だと信じ込ませて、他の子に被害が出ないように言い含めた。それに対して、バカ息子は気持ち悪いぐらいに素直に従って、気持ち悪いくらいわたしに気を遣った。
それで罪が消えるわけではないし、また罪を犯す可能性が無いわけではない。だから、隙を見て殺すかそれが出来ないならわたしが誘導しないと。村長から許可ももらった。
キズが疼くたびに、お腹が疼くたびに、やっぱり殺そうと思った。何度も何度も殺そうと思った。
だから殺した。殴ってもダメだったから毒を盛った。毒を盛ってもダメだったから切り裂いた。
なのにやっぱり死ななかった。
その上、わたしの知らないようなことを言ってきた。常識も分からないくせに。『悪魔憑き』のことを言っているのかと思ったけれど「強い衝撃を受けたら元に戻るかも」なんて、これ以上殴られたくないから言ってるんじゃないの?
でも、当たり前のように言われると、本当のことを言ってるようにも思える。
わたしが殴ったからこうなったって。まるで神様に聞いてきたみたいに言うし。殴ったわたしを責めてるでもなく、他人事のように自分にとってその結果が良かったかと聞いてきたし。それに『天使憑き』? そんなの聞いたことがない……でも、悪魔憑きがあるなら逆があっても良い気がする。
これが良かったか?なんて分からない。でも、確かに前より良いような気がする。それなら、これから良い方向に向かうのかな?
でも、元があのバカ息子なのに、天使が憑く? あり得ないわ。天使もイヤでしょう。
いやでも、あの口ぶりと変貌ぶりは……神様に言われてやってきた天使とも思えてくる……
わたしは良く分からなくなって、思考が堂々巡りしている間に寝てしまった。
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