第8話 どうやら父親には嫌われてるというレベルではないようで

「挨拶をしながら入ってきてエントランスで待つという常識的な行動が出来るから誰かと思えば、お前かバカ息子! 今日はなんだ? そんな殊勝な行動をしても金を出す気は無いぞ? 母さんに言ってもムダだぞ。今日は出掛けているからな」


 矢継ぎ早に捲したててくる村長。


 うわー お父さんだー

 厳しいお父さんだー

 少し懐かしさを感じる。


 いや、でも、『こいつ』がダメなだけじゃ?

 「金は出さん」って言われたってことは、帰ってきたときは大体金の無心に来てたってことでだろ?

 親に? 25歳で? ニートなの?


「待ってください、ダニエル村長」


 僕の後ろにいたミレルがお父さんの前に出る。


「おお、ミレルちゃん、どうしたんだい? なんでこんなやつと一緒に我が家に? しかもその傷は……」


 親から「こんなやつ」呼ばわりかー

 そしてお父さんは僕をさっきよりキツい視線を僕に投げかけてきてる。

 このパターンは……


「お前はまたか! 村の若い子に暴力を振るって手当たり次第か!! 女の子に手をあげるなんて男としてやってはいかんとあれほど!!! お前のせいで若い世代の婚期が遅れてるというのに!!!!」


 物凄い剣幕で迫られてるぅ!


 親友のダビド以上だ。

 お父さん、額に青筋が浮かんでますよ! あんまり怒ると血圧が上がりますよ!

 マジで血管が切れそうな勢いで、少し心配になるほど。


 つまり『こいつ』は村の若い女の子へ順番に犯罪行為を犯していると。

 分かっていたけど、最低だ。最低も最低、反吐が出るぐらい最低。

 『こいつ』で居ることが耐え難く、気分が悪くなってくる。

 本当にヒドイ環境に転生したもんだ……


 こんな人の出入りの少ない小さな村で婚期が遅れるとか、村の存亡に関わる事態になっている。ミレルじゃないけど、確かにこんなヤツは村のためにも死んだ方が良いかもね。


 お父さんの怒りの形相に堪えられず、ミレルの方へ視線を移すと、ミレルの口元が歪んでいるのが見えた。

 それって、僕が怒られてるの見て喜んでるの?

 ホントに嫌われてるな……まあ、弁解の余地は欠片も無いけど。


 ミレルは口元を引き締めてから、再び口を開いた。


「ですから、待ってください。ボグダンはわたしと一緒に暮らすことを決めました」


 お父さんの形相が憤怒から驚愕に変わる。

 口をパクパクとさせながらか細い声を紡いでいる。


「そ、そんな……村の希望のミレルちゃんが……こんなバカ息子と……」


 ミレルさんすごい信頼ですねー

 やっぱり大人受けの良い真面目な子なんだな。


 とか思っていると、お父さんが震えだして、徐々にまた憤怒の表情になっていく。


 これ、ヤバい気がする。

 身の危険を感じて一歩引くと、お父さんが掴みかかってきた!


「お前というヤツは!!」


 反射的に迫ってきていたお父さんの腕を弾くように振ってしまった。


《管理者設定により自動でプリセット析術『身体化学強化ケミカルブースト』レベル3を発動します》


「ぐがふぅ!」


 弾かれたお父さんは謎の呻き声を上げて、スピンしながら吹き飛ぶように後ろに倒れ込む。


 うぇーっ!? 何ソレ? 何が起こったの??

 僕がやったけど事態が飲み込めない。

 謎メッセージで強化された雰囲気は分かったけど、腕を払っただけでなんでお父さんごと吹き飛んでるの?


「村長!! 大丈夫ですか!?」


 僕が驚いている間にミレルが慌ててお父さんに駆け寄る。駆け寄る前にしっかり僕を睨んでいく。


「いたた……」


 ミレルに介抱されながらお父さんは起き上がろうとしている。

 僕も慌てて駆け寄ると、起き上がろうとしていたお父さんが腕を上げた。


「近寄るな! 親に手をあげるとはなんてやつだ!」


 親子の溝が深まっていくぅ……


「お父さん、僕はそんなつもりじゃなかったんです!」


「はぁ!? お前が『お父さん』!? ? 『僕』 !!? 気持ち悪い! 悪魔にでも憑かれたか!!」


 うぁ……ヒドイ言われようだな……この感じからすると良いことをしても悪いことをしても否定される気がしてくる……


「ボグダン、何です今のは?! 人の力だとは思えないわ……本当に悪魔に……?」


 ミレルが顔色を変えながら僕を窺ってくる。


 いや、あの、そう言われても、魔法は魔道具がないと使えないとか言われたし、後あるとしたら、もうね……転生特典としか。言えば余計に悪魔憑きだとか思われそうだし。

 答えがないよ!

 転生神様! 問題解決の補助をしてくれるんじゃなかったの!?

 どう考えても余計にこじれさせてるよ!


「もういい。ミレルちゃん、こんなやつは止めておいた方が良い。キミは村のために若い内から色々やってくれている。このバカ息子と一緒になったら、キミまでダメになってしまうかもしれない。それはこの村の誰も望んでいない」


 お父さんはミレルの肩をしっかりと掴み、言い聞かせるように語りかけている。

 お父さんは結婚に反対だ!って、なんか娘に言ってるみたいだよ? ミレルが村長の子供みたいに見えてくるぐらい『こいつ』は蔑ろにされてるね。

 やって来たことが本当に親の思うところとは違ったんだろうから、こればっかりは仕方がない。僕も親の思い通りには生きなかったんだし……必ずしも悪いとは言えない。

 でも、親への反抗の為だからといって、やって良いことと悪いことはある。


「いえ、だからこそ! わたしが何とかしますから! このままボグダンを野放しにして村を無茶苦茶にされるのはわたしもイヤです!! 悪魔が憑いているなら教会に行って悪魔払いをしてもらいますから!! 場合によっては力尽くで何とかします!!」


 ミレルの言葉にお父さん涙ぐんじゃってるよ……


 ミレルが演技で言ってるのだとしたら、都会に行って女優をするべきだ。そんな職業があるならだけど。

 誰が見てもミレルが本気で望んでいることのように見えたと思う。そのぐらいに必死な態度だった。

 これまでの行動からミレルはそれほど演技が上手くはないことが分かっているから、ミレルの言葉は本心なんだと思う。


 そう思うとミレルの行動が一本に繋る気がする。

 村を良くするために『こいつ』を何とかする手段が『殺す』で、殺せない場合の保険として『鎖で繋ぐ』になったわけだ。


 学校のクラス委員長的なマジメ優等生のミレルは、不良の『こいつ』が元々許せなかった。そのまま学校の例えると、校長の息子なのに学校のことを考えず、逆にその立場を利用して好き放題していた、って感じだよね。

 そりゃ許せないよ。

 その上、自分にも火の粉が降りかかった。もう『こいつ』殺して良いよね?って言っちゃっても仕方がない。そして実際に殺して……死ななかったけど『こいつ』は記憶を失っている。

 ならば、何とか村のことを考えて行動するようにコントロール出来ないか? そう思って手探りながら試そうとしている。それで変わるなら良し、変わらないならいつでも殺せるように傍に居る。

 恨みのあるほど嫌いなヤツの傍に。


 すごい覚悟だ。


 私怨が含まれてはいるけれど、それでもミレルの根底は同じ。村をスキで、だからなんとか良くしたいんだ。

 素直にすごいと思うし、羨ましく思う。真っ直ぐに自分が正しいと思うことを進めようとしていることに憧れさえ感じる。

 僕も、会社でも学生時代に目指した医者でも、何かミレルほどにスキになれるものがあれば僕ももっと必死で生きたんだろうな。

 親に反抗したり、会社に反抗したり、そんなこと反発だけで決めずに、良いと思うことを突き進めれば……壁にぶち当たることはあっても頑張れた気がする。


 自分が殺されることには問題はあるし抵抗はするけど、『こいつ』の考え方よりはミレルの考え方の方が遥かに共感できる。それ実践しようとしていることを称賛できる。

 だから、そんなミレルのためにも自分のためにも、何とか僕が『こいつ』のイメージを変えていくしかない。それは、僕が転生してきたことによって悪魔憑きという悪評を増やことではない。


 悪魔憑き……これは使えるかもしれない。


 悪魔憑きとか言う言葉が簡単に出てくるぐらいだし、精霊が信じられているぐらいファンタジーな世界のようだし、ある程度は心霊現象を信じているんだろう。実際に悪魔憑きもあるのかもしれない。

 少し光明が見えた気がする。


 起き上がったお父さんが僕に厳しい表情を向ける。


「ここまで言ってくれてるミレルちゃんの言葉を蔑ろには出来ない。ボグダン、良いか! お前は彼女と一緒に住め。彼女を見習って少しはマジメに働いてみせろ!」


 お父さん認めちゃったよ……ミレルの信頼は本当に厚いんだな。


「ありがとうございます、村長……いえ、お父さん」


 お父さんまたミレルの言葉に涙ぐんでるよ。


「いや、こちらこそ礼を言う。ミレルちゃん、ありがとう」


 ミレルとお父さんが固い握手を交わしている。

 ミレルまで少し涙ぐんで……理解し合える者がいるっていいなぁー 僕も中身はそっち側だと思うんだけどなー

 僕が言葉を発するとまたややこしいことになりそうだからここは頷くだけで答えておく。

 しかし、結婚を認める感じじゃないよね。


「色々心配だが、わしは仕事に戻る。ミレルちゃんはくれぐれも気を付けてくれよ」


 やっぱりミレルだけ心配するんだ。


 ここまで親に信頼されない『こいつ』と、逆に他人なのに信頼を寄せられているミレル。

 世の中日頃の行いが全てだね。


 お父さんはそれだけ言い残して部屋へと帰っていった。


「さて、お父さんの許しももらえたし、戻りましょうか?」


 何となくミレルがやり切った感を出して、少し緊張が解けている気がする。認めてくれている人と理解し合えたんだから、満たされる気持ちにもなるだろうし、やる気も出るだろう。

 そんな状況を見るとこっちまで感動するよね。矛先が自分で無けりゃ。


 でも、これで状況は大体分かった。

 『こいつ』が最低の人間であることと、かなり危うい立場であること。ミレルを上手く説得してマジメに働いていればそのうち理解してくれそうだけど、余りにもアウェーなので少しチートさんに頼りたくなります。


 次は魔法の勉強をさせてもらおう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る