扉の向こう


扉の向こうで

誰かが微笑んでいる

どうしてそれがわかるのか

その理由はわからなかった

そして興味も無かった

理由なんて必要無かった

ただそうなだけだ

あの扉の向こうで

誰かがわたしを待っている

心待ちにしている

これから行くだろう

扉には

鍵が掛っているだろう

わたし以外の人間を通さないためだ

わたしが手を触れれば

そっと音も無く外れるだろう

真っ暗な部屋の中で

じっとこの日を待っていた

扉の輪郭を縁取るようにして光の線が射している

そしてその向こうからわたしを呼ぶ声が聞こえる

ああ

今から行くよ

だからそこで待っていてよ

正解が転がっていてそれを拾うのは容易なことだった

当然の出来事がこれから起こるだろう

扉を開ければ

その瞬間、箱の中身は爆破するだろう

そして何もかも木端微塵に吹き飛んでしまうのだ

ずっとそれを待っていた

偽りの景色が終わり

これからは本当のことだけが起こるのだ

生まれて初めて自分が何のためにここにいるのか気付くだろう

眩い光に包まれて

最初から知っているように指先を動かすだろう


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る