天才で良かった

天才で良かった

ほっと一安心だ

おれは頭がおかしかった

それもかなりおかしかった

だが天才で良かった

助かった

なんとかぎりで崖から転落しないで済んでいた

天才ではなかった

そのような連中が次々と崖下に転がり落ちるのを見ていた

天才で良かった

本当に良かった

もし天才でなかったらどえらい目に逢っていたところだ

自分のことを天才だと思い込んでいる人達が落下していた

可哀想な人達だ

この世界は平等ではない

天才と天才ではないものに分けられるのだ

無慈悲に選別されるのだ

もちろん自分は天才の側の人間だ

一握りの本物の才能だった

良かった

見渡す限り偽物ばかりだった

思い込みの激しい夢見がちな性格だ

やがて音も無く淘汰されるのだ

だがおれの光を抹殺することは誰にも出来なかった

類いまれなる存在だ

異彩を放つスーパースターだ

恨むなら神様を恨んでくれよな

だっておれが決めたわけではないのだから

思った

ああ天才で良かった

本当に良かった

運動も出来ないし勉強も出来ないけれど

お釣りなら余るほどあった

この世界はもしかしたら自分のために用意されているのではないか?

時折そう思えることもあった



あれから一体もうどれぐらいの月日が流れたのだろう

おれはおれの天才を消失し

影も形も失くし

今は翼が何かも思い出せずにみっともなく地面を這いつくばっている

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