14-⑧:イゼルダの妻、ナギ

「…」

 化け物は、気を失ったリアンの拘束を解いた。水にふよふよと浮かぶその体を、化け物は手を伸ばし掴む。そして、自身の口に入れようとした…

「…ッ!!」

次の瞬間、2人の間を青白い光が通過する。化け物の右腕が消え、解放されたリアンは水面の方へと浮き上がっていく。



「…ダレダ…?」

 化け物は右腕を押さえ、あたりを見回した。そんな化け物の前に、青白い光が舞い降りる。その光は人型を取ると、黒いローブを着た老婆の姿となった。



『すまない…お前を不幸にした原因もわしじゃ。わしが至らなかったせいで…』

 老婆は、水面へと浮かび上がっていくリアンの姿を見てそう言うと、化け物に向き直った。


『…お前の事をこちらに来てより2000年、ずっと見ておった。人々に憑りつき、殺しながら渡り歩いていくお前の姿を。…お前がそうなってしまったのは、ずっとわしの責任だと思っておった。だからこそ、お前を救うために、お前の魂の故郷グループソウルより分霊をセシルとしてこの世に産みだした。お前を救うにしても、死んでしまっては学びも修行もすることができないから、お前の分身をこの世に再生させるしかないと思ったからじゃ。…しかし、お前は目敏く、自身の分身たるセシルを見つけて憑りついた。じゃが、わしは、憑りつくお前を時折戒めつつも、長らくそのままにし続けた…セシルの害になるかもしれないことを知りつつも…。それは、お前に少しでも理性が残っていて、この子と一緒に試練を乗り越えて、人としての姿と思いを取り戻してほしいと願っていたからじゃ…じゃが、』


 老婆はつらそうに地面に目を落とすと、ぐっと拳を握った。そして、きっと顔を上げると、化け物を睨みつけた。


『もう、貴様は同情に値せん。神の情けと赦しを、もう得られるとは思うな』

 老婆はローブを脱ぎ捨てた。そして現れたのは、美しい銀の長い髪を、高く一つにまとめたなびかせた、水色の瞳の女性だった。



『かつて滅びし世界の神、そして今はこの世界の神イゼルダの妻、ナギ』

 女性は名乗りを上げると、銀色の剣を抜いた。そして、その切っ先を化け物に向ける。


『怨霊テス・クリスタ、貴様をこれより成敗いたす』

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