9-⑧:ちゃんとした親
食後、レスターとロイは、丁寧に整えられた庭を歩いていた。
「…なあ、ロイ。お前、どうやってあの子を元気づけたんだ?」
「ん?」
隣で庭の出来栄えを説明してくれているロイの話を中断させ、レスターは先程から気になっていたことを問う。自分もここ数日、色々と話しかけて気を使っていたのに、セシルの状況が改善することは無かったのだから。
「別に何かした覚えなんてないけど、オレ」
しれっと答えるロイ。しかし、レスターはわずかな表情の変化を見逃さない。
「嘘だな。口元がニヤニヤしてる」
「そうか?」
ロイは観念して笑って見せる。
「まあ、本当に何かしたっていうより、オレの可哀想な幼少期のお話を聞かせて、強姦は人類の敵だって意気投合しただけだ。元気になったってのは、たぶんそれが原因じゃね?」
「そうか…」
ロイの過去はレスターもよく知っている。ただ、それを聞いただけで元気になるというのは考えにくいことだが。いくら美味しいとはいえ、彼の料理のおかげとも考えにくいし。
「まあ、とにかくあの子のこと、これからもよろしく頼むよ。俺は仕事で来れない事もあるから」
彼女の話し相手は多い方がいいだろう。それにノルンのこともあるから、監視の目がわりになってくれるはずだ。
「いいぜ。実はさ、奥様もお前もあいつにご執心で不思議に思ってたんだけど、実際会ってみればそんなに悪い子じゃなさそうだったし。何となく納得したっていうか安心したっていうか、とにかくこれからも話し相手ぐらいにはなってやるよ」
ロイはにっと笑い返してくれる。そして、再び庭の出来栄えについての話に戻りかけた時、ふと思い出したかのようにロイは立ち止まる。
「あ、そうだレスター。あそこに鳥の巣があったんだ。下からじゃ見えないけど、ヒナが中に5匹要るんだぜ」
ロイが、傍にあった木の梢の方を指差す。別に特別な事ではないと思いつつも、レスターは促されるままに視線をそちらに向ける。
「そうだ、セシルにも教えてあげよ。せ~し~る!」
ロイはセシルの部屋のベランダに向かって叫んだ。いつの間にか、ロイも彼女を名前で呼んでいるようだった。
「なんだ?なんかあったのか?」
戸の開く音の後、ひょこっとベランダから顔をのぞかせたセシル。
「ここ、鳥の巣があるんだ。さっき見つけたんだ!」
「ホントか?見たいみたい!」
こんなことぐらいではしゃぐなんて、子供だな。と、レスターは少しあきれつつ見る。そんなレスターの事などいざ知らず、セシルはベランダから飛び降りた。
「…あ、あぶな」
セシルは難なく着地したものの、少しヒヤリとするレスター。2階とはいえ高いのだから、見ている者のことを考えて自粛してほしい。レスターは駆けて来るセシルを、やれやれと見る。
「何の鳥?ヒナいるの?」
「何ていう名前の鳥かは知らないけど、ヒナはいるぜ」
セシルは目を凝らして背伸びをする。
「見えない。木にのぼろっかな」
「やめろ。さっき剪定するために知らずにのぼっちまったんだけど、親鳥に思いっきりつつかれたぜ」
ロイは頬の傷を指差して見せる。レスターは木に引っ掛かっただけだと思っていた。
「今、親いないっぽいからいいんじゃね?」
「馬鹿、ちゃんとそばで警戒してるよ、ほら」
屋根の上とそばの木の梢を指差すロイ。見ればじいっと茶色い鳥が2匹、それぞれこちらを見ている。羽を膨らませている所を見ると、威嚇しているのだろう。
「あれからずっと夫婦で、ああやって警戒してんだ」
「へえ……あんなちっこいやつらでも、ちゃんと親やってんだな…」
「…?」
ぼそりとつぶやかれたセシルの言葉が良く聞こえず、レスターは振り返る。セシルは屋根の上を見ていた。
感心の色に、どことない暗さを湛えた瞳で。
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次から10章突入です!
ついにセシルの過去が明らかに。
そして、それがレスターの過去と交錯し、揉めに揉めて、楽しい楽しい夏祭りが、いつしか血祭りに…。
男女関係は、もつれるとややこしいですね。最悪生死がかかってくるぐらいに。
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