フラッシュバック・トゥ・インセイン。

「嚥下可能な代物だ」

「美味いと言えんのか、サドちゃん!!ガハハハハハッ!!」

「美味いとは何かが不明確なのだ」

「あ、『喜び』の感情が無いから分からないんですね」

「おっ、嬢ちゃん、やっぱ頭良いなぁ!!!ガハハハハハッ!!」

「あ、ありがとうございます……」

「その表情が『喜ぶ』という感情の発露か」

「その感情を奪う、、なよ、サドちゃん!!」

「害悪を為そう筈は無いがな」

「はあ……」


 会話を聴いて、リオは溜め息をついていた。

 何故依頼を取り下げた奴らが、好んで食事なんかするんだーーそう思っているに違いない。

 ちなみに、今机の上には、2人の要望通りのものが載っている。サドトゥスは酸味のあるものを、とのことだったために、梅干しを潰してソース代わりにした焼肉(肉の種類は不明)が出された。颪は何でもいいと言ったために、缶詰から出したものをお皿に綺麗に飾り付けたものが出された。

 料理音痴では少なくともないようで、センスもよい。生まれが違ったら、また異なる物語を紡いでいたかもしれない。

 閑話休題。

 というわけで正直、彼等に残ってもらったところでメリットは何も無いのだ。というか、食事代分くらいは働いてほしいと逆に思っている。


「いいじゃないですかリオさん。楽しいですよ」

「……うん、まあ、良いんだ」


 ところが、救羽の笑顔にすっかり毒気を抜かれてしまい、何も言い返せなくなる。

 救羽には甘いのかもしれない、とリオは思う。

 もしかしたら、あの少女、、、、への負い目があるからなのかもしれないが。

 ふと、突然に、サドトゥスが何の気なしに尋ねた。


「ところで質問するが、お前らは恋仲か?」

「……なっ」

「ふえっ」


 両者とも、何故か焦る。


「仲良さそうだしなぁ!!!」

「え、えと、その……」


 颪が完全にサドトゥスに加担する形で言う。

 救羽は、赤面したままとうとう言った。


「恋、というか、私にとってはヒーローです……」

「英雄視か。そういう見方もあるな」

「ほ、本当ですって!!」


 いつもより救羽が生き生きしているのは、きっと気のせいではない。

 というか、そろそろショートしそうなほどに顔が真っ赤だ。


「だが顔赤いぜ嬢ちゃん!!」

「……ぅぅ」


 こうしたことに慣れていないらしい救羽は、泣きそうな顔になる。

 これ以上虐めては可哀相だと思い直した颪は、ターゲットをリオに移す。


「で、兄ちゃんはどうなんだ!?!?」

「……」


 リオは、救羽を不安にさせることが分かっていても、無言のままだった。

 果たして、何と答えたらいいものか――そのことを考えていたからだ。

 確かに救羽のことは嫌いではない。いや、もしかしたら好きなのかもしれない。

 会った時には一目惚れしたくらいだ。

 ただ、単純に救羽が好きか、と言われると、はっきり言えるわけでもない。

 何せ、救羽が、あの少女、、、、と似ているのだ。

 生き写しの様に。

 転生したかの様に。

 つまりは救羽ではなく、あの少女が好きなだけなのかもしれないのだ。だからこそ、無責任なことは言えない。

 では、どう答えればいいのか。

 そんなリオに、サドトゥスは言う。


「……逡巡か」

「……」


 サドトゥスに言われたが、結局リオは答えることにした。

 黙っていても仕方ない。

 だが、先程毒気を抜かれた仕返しくらいはしようと、何故か思い立った。

 リオは、表情を崩さずに言い放った。


「……そうだな、何だかんだ言って、そうなのかもしれない」

「ふぇあっ!?」


 あからさまに救羽が変な声を出したが、そんな彼女に悪戯っぽく笑む。


「……冗談だ」

「も、もうっ!」


 そっぽを向く救羽の頭を優しく撫でてやる。

 しかし、リオは、続けて本心を述べた。


「だが、俺が守るべき大切な人だ。それは変わらない」

「……」


 救羽は、それきり満更でもない顔をしながら、そっぽを向いていた。


「素直じゃねえなぁ!!!だが、気に入ったぜ!!」


 元気よく笑い飛ばして、颪は答える。

 素直じゃないも何も、素直になるにはこちらの事情が複雑過ぎるのだ。

 そんな重い話をここで――それも初対面の人間と魔人がいる前でするわけにもいかない。

 これ以上答えることもないので、リオは話題を振り返すことにした。


「そういうお前らはどうなんだ……あ、いや、サドトゥスだっけか、お前はいい」

「当然だ。言葉としては知識があるが、実際は如何なるものか、全く感情が知覚不可だからな」

「だろうな。……で、お前はどうなんだ」


 颪の方を向いて尋ねると、彼は即答した。


「俺はサドトゥスが好きだぜ!!」

「清々しいくらい直球ですね……」


 救羽は最早感嘆する域に入っていた。どころか、こうも続けた。


「何せ、サドトゥスに一目惚れしたから、俺は『王位継承戦レナンテム』に参加しているのだしなぁ!!!」

「そんな動機かよ!」


 リオは、ズッコケそうになった。


「なあ、どうやったら感情が宿るんだよぉ!!!」

「喰らうのみだ」

「それ以外でだよ!!」

「不可能だ、大体感情が寄生して、『嫌い』だったら如何にするのだ」

「諦める!!悲しいがな!!」

「潔いな」


 全く対照的な2人だ、とリオは改めて思い直す。

 しかし、それでもチームワークがよさそうだ、とも。

 そんな掛け合いを見ていて、救羽は少し笑った。


「何故笑う?」

「あ、いえ……」


 少し申し訳なさそうにしながらも、続けた。


「お2人とも、仲が良いんだなあ、と思いまして」


 リオも、当然賛同する。


「まあ、確かにそうだな。こいつらは仲が良いように見える」


 感情を持たない魔人と、過剰な声量の大男。

 中々、彼らは良いペアだろう。

 と、ここでサドトゥスは立ち上がる。


「さて、颪、出立するぞ――迷惑を続けても詮無い」

「お、だなぁ!!!」


 颪も、同意して立ち上がる。

 この時点で既に30分近く経過していた。随分な迷惑である。


「世話になったぜ嬢ちゃん!!兄ちゃん!!」

「あ、ありがとうございました!」

「……次はしっかり依頼を持って来いよ」

「生存していればな」


 奇妙な2人組は、ドアの方に向かう。サドトゥスは、わき目もふらずに。颪は、リオ達に手を振りながら。

 外に出るため、サドトゥスがドアノブを捻ろうとした。

 その時。


「……!」


 サドトゥスは、何かを察知した。


「伏せろ、颪」


 颪の反応もまた早かった。


「っ!!皆伏せろぉぉぉぉぉ!!!」


 その声に反応したリオが、救羽を床に伏せさせながら、自らも救羽を庇うように伏せる。

 サドトゥスも颪も同様だ。

 瞬間。

 ドアの向こうから無数の銃弾が襲いかかってきた。


***


「……ねえ、なんか聞き覚えある声しない?」


 そう言ったのは、『ウインド』だった。

 標的捜索から更に30分程経過した頃。ここまでに、かなりの数に尋問を加え、殺しているが、何1つ有力な情報が得られなかった頃である。

 『ストーム』が、妹に聞き返した。


「……聞き覚えある、だと?」


 『ウインド』は頷いた。


「『フレール』は分かんないと思うけど、ほら、耳を澄ませばさ」

「……?」


 『ストーム』は、集中して聴こうとする。

 辛うじて、確かに聞き覚えのある、男の声がした。

 距離は、少し遠いか。


「……おい、この声、か?」

「多分ねー」


 『フレール』は基本、どこ吹く風のスタンスなので気にしないが、一応『ウインド』が説明した。


「えっとさ、『フレール』、私達の同族がいるみたいなんだ」


 それで『フレール』は全てを察した。


「そいつがここにいるのが怪しいから、見に行こうという算段か」

「そうそうっ!流石〜♪」


 屈託のない笑顔で褒める。

 『フレール』は特に気にすることもなく続ける。


「なら、行ってみてもいいかもしれないな」

「……そうと決まれば、さっさと行こう」

「レッツゴー!」


 そんな遠足気分に似た陽気さで、彼らが辿り着いたのは――。


***


「何なんだコイツは!?」


 数発銃弾を喰らいながらもリオが叫ぶ。

 銃弾の嵐は壁とドアを粉々に砕き、中の物をも破壊した。

 全て、為す術もなく蹂躙されていく。

 暫くして、銃弾の嵐は過ぎ去った。

 壁がかなり破られ、外がよく見えるようになった。

 その向こうに、漸く犯人が姿を見せる。


「おっ、いたいた〜♪」


 そこには、緑のツーサイドアップを揺らす可憐な少女がいた。

 他に、兄であろう緑の髪をした男に、銀髪ボブカットの女が立っていた。

 彼らが撃ち込んだに違いない。

 だが、その手段が分からない。何せ、彼らは武器を持っていないのだ。

 一体あれだけの銃弾を、どうやって撃ち込んだのか。

 その答えは、颪がすぐに出してくれた。


「お、お前ら、どうしてだ!!」

「……やはりお前か、風嵐颪」


 緑髪の男は、当然のように颪の名前を呼んだ。

 颪のセリフからしても、恐らく同じ家の人間の筈である。

 リオが察して推理を吐き捨てる。


「……お前らも『風嵐家』の者で、武器も体内に内蔵されているのか」

「ご名答〜♪」


 緑髪の少女が嬉しそうに答える。

 と、ここで、「あ」と言って訂正する。


「でも、1人だけ違うよっ!」

「確かになぁ!!!そんな奴は見たことないぜ!!」

「……相変わらずの声量だな、颪」


 颪が指さしたのは、銀髪の女である。

 リオは、その女を見るために立ち上がる。


「お前ら、直してもらったばかりの家を滅茶苦茶にしやが……」


 その女の姿をはっきりと、初めて目に捉える。


「って……ぁ……」


 女もまた、リオを視認する。


「……ぇ」


 瞬間、明らかに両者の表情が変わった。

 リオは、絶望の表情を。

 銀髪の女は、憤怒の表情を。

 それぞれ、浮かべた。


「リ、リオ……さん?」


 救羽のか細い呼びかけを掻き消す如く。

 女が、叫ぶ。


「テメェェェェェェェェェェェェェェッッッ!!!!!!!」


 颪に負けず劣らずの声量で、絶叫する銀髪の女。

 憤怒。怨念。

 莫大な負の感情が、その絶叫に乗っていた。

 そして。


「……ァ」


 リオは。


『楽しかった』


 あの日の、記憶。

 笑顔の、銀髪の、、、少女。

 それを、不意に思い出し。


生きて、、、、リオ』


 銀髪の少女の声と姿が脳裏で再生され。


「……ァッ、ァア」


 斬首された、血塗られた、笑顔の銀髪の少女の映像が出てきて。


「アアアアアア……!!!」


 目の前の、銀髪の女と。

 重なった。


「ッ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」


 ――リオは、発狂した、、、、

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

煉獄青年 n00ne @noone_novel

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ