兄妹愛と蜂の巣。人形劇の準備。

「うわぁ、いい感じに廃墟だねえ♪」


 ツーサイドアップの緑髪を揺らし、ガラス片をパキパキ踏み鳴らしながら、廃墟同然の街並みを『ウインド』が嬉々として歩いていた。

 彼女に、兄である『ストーム』が声をかける。


「……ちゃんと探しているか?」

「探してるよっ!お兄ちゃん、私を疑うの!?」

「……疑いはしないさ。ただ、しっかりやらねば、『マキナ』さんに顔向け出来ないからな」

「むー……確かに」


 そんな会話を聞きながら、チームを組まされた『フレール』は我関せずといった風に、辺りを見回していた。

 破片や少量の植物、崩壊寸前の建物に、道に転がる死体と死にかけ。目に入るのは、『無人地帯』の日常だった。


「でもさー、こんなに広いとこでそんなとこ見つかるわけ?」


 振り返り、両手を広げて2人に問いかける『ウインド』に、『フレール』は返す。


「見つかるどころか、そんな店あったら目立つわよ」

「確かに〜、こんな汚いとこじゃあねぇ」


 よどんだ空気を見上げながら、続けた。


「あーあ、『外』に出るのも悪くないかもなあ……」

「……戻ってみるか?『外』に」


 『ストーム』は、多少冗談交じりに尋ねる。

 しかし、確かに『外』――『無人地帯』の外側では、普段の生活が送られている。『無人地帯』の人々から、羨望の対象となったに違いない。

 『ウインド』は、『ストーム』に抱きついて答える。


「お兄ちゃんさえいればどこにいてもいいよっ!」

「……そうか」


 『ストーム』は、顔を胸にすり寄せてくる妹の頭を撫でてやる。


「……『フレール』、探し始めてどのくらい経ったんだ?」


 『フレール』は、少し思案してから答えた。


「そうね……47分といったところ」

「……それだけ探して見つからないのか」


 思わず溜め息を漏らす。


「だ、大丈夫だよっ!きっと見つかるよ!見つけて殺して早く帰ろう!」

「……お前も退屈か」

「まあ、私もだけど」


 『ウインド』が物騒な物言いをするも、誰もそれを訂正しようとはしない。

 それだけ、「殺す」ということに頓着が無いのだ。

 『因果律』。

 『マキナ』という名前の者を中心に構成される、謎の異能力集団。

 「世界の転覆」を目的にしていること、構成員に『忌名いみな』が多いこと以外にほぼ特徴がない。

 ただ、言えるのは。

 成員1人1人が、化け物じみた強さをしているということだ。

 そして、全員が好戦的である。

 『ウインド』は言わずもがなだが、兄である『ストーム』も大概だ。特に妹の『ウインド』絡みになると、より好戦的だ。

 『フレール』も、大人しそうに見えるが、特徴的な短めの銀髪が、血で赤黒く染まるほど、相手の命を絶ち続けることで有名だ。兎に角容赦はなく、相手を徹底的に破壊する。付いた通り名は『血染姫ブラッディプリンセス』。

 危険すぎる組み合わせだが、このくらいぶっ飛んでいた方が、負けはまずないだろう。

 ちなみにその他の構成員――リーダーの『マキナ』、散々弄られていた『キング』、現在消息不明の『バイオ』も、相当にぶっ飛んでいるようだ。


「というかさー、外にいなさそうなら、中を探してもよさそうだよね~♪」

「……まあ、確かにそうね」


 『フレール』は、辺りの建物を見回しながら答える。

 高いものも低いものも、バラバラな特徴の建物が、相当数ある。昔は栄えていたのかもしれないが、今となってはゴーストタウンだ。

 ゲリラの戦地、と言っても過言ではないだろう。何せ、建物に隠れて「獲物」を狙う者など多数存在するからだ。


「……ならば、適当に入って当たってみるのもありだな」

「でしょでしょ!お兄ちゃんも同じ意見だ♪」


 『ウインド』は『ストーム』にハグしながら、心底嬉しそうに言う。

 平常心を保ったまま、『ストーム』は続ける。


「……しかし、何処に尋問するんだ?折角だから、この写真の奴らについて訊いてもいいだろう」

「尋問ね……」


 『フレール』に、一瞬だけ、殺気が漂った。それは、『ストーム』と『ウインド』の兄妹も同じだった。

 真っ先にそれを発散しようとしたのは、『ウインド』だった。この少女、最早人を殺したいだけな気はする。


「じゃあ、ココから行こう!!」


 『ウインド』は、適当な建物を指す。

 そして、特に了承も得ないままに、建物に向かって走り、すぐに建物内に入る。


「おー、いるいる♪」


 数人の武器を所持した男女が、そこにはたむろしていた。

 突如現れた謎の少女に、全員が驚愕する。


「だっ、誰だ!?」

「うんにゃ、ちょっと尋ねたいことがあってねー。この写真の人を――」


 発砲音。

 不審者を排除しようと、男女の内の1人が小銃で『ウインド』の額を撃ち抜こうとしたのだ。


「で、で、出て行け……っ!!」


 目を瞑っているのか、発砲したかどうかも見ていないようだった、ガンナーの女性は、震え声で言った。

 それに、返答が返ってきた。


「ふーん、君かあ。撃ってきたの」


 頭を掴まれる感覚がした。それで今、何者かが自分の目の前にいると、女性は知覚した――『ウインド』の気配を感じられなかったのだ。

 恐る恐る、目を開ける。

 そこには、笑顔の――但し、目が笑っていない――幼き少女の姿があった。左手で、女性の頭を掴みながら。

 信じられない。

 一体どうやって、銃弾を避けたのか。


「やめてほしーんだよねぇ♪まあ、どっち道誰かは殺しちゃおうと思ったんだけど」

「こ、殺……!」


 女性は、自らの運命を悟った。

 銃を向けようとしたが、既に針のようなものが銃を貫通しており、使い物にならなかった。

 頭に浮かぶのは、「死」の一文字。

 命乞いをするしか、ない。


「い、いっ、命だけは――」

「えー、じゃあ、この写真の人が誰か分かったら助けてあげるよっ!」


 目の前に、写真が出される。姿の詳細が分からない大男らしき人物と、薄紫が特徴的な赤目の少女。

 分かるはずがなかった。


「わ、分かりません……で、でもっ!命だけ」

「はいどーん♪」


 瞬間。

 右手指から射出されたアイスピックのようなもので、女性の両目が潰された。それは、脳味噌にまで到達し、細胞を抉り抜く。


「あひっ」


 訳の分からない声を出し、女性は、何故視覚を失ったのかも分からず、困惑していた。

 困惑したまま、彼女は、首を刎ね飛ばされた。

 右手から伸びる、バタフライナイフによって。


「てめえっ!!」


 殺害現場を目にした残りの男女も、武器を持って立ち上がった。


「ありあり?もしかして殺されたい人達かなっ!?」


 無邪気に言っているが、最早人殺しモードだった。

 誰彼構わず、容赦なく殲滅するだろう。


「俺らは『無道組、、、』のモンだ!ふざけてっと痛い目見るぜ!!」

「えー、でも君のお仲間、すごーく弱かったよ?君たちも弱いんじゃないの?」

「そう言っていられるのも今の内よ!」


 別の女性が声を上げる。

 それを聞いて、『ウインド』は、笑顔になった。


「へえ!」


 そして、機械音が、『ウインド』の身体から鳴り響いた。

 背中からアームが十数本伸びる。その先には銃が1丁ずつ。

 肩からも、ガトリング砲が2丁、顔を覗かせる。

 両手指からは、アイスピックのようなものが装填される。女性の目を撃ち抜くように、これも射出されるものだろう。

 両手からはナイフが見える。

 両腕には、トンファーと刃がせり出す。

 異常だった。

 流石の男女も全員、恐れおののいた。

 そして、理解した。

 この少女は、尋常ではない。

 それもそのはずだ。この『ウインド』は――。


「お前、『風嵐ふらん家』の――!!」

「そうだよー、今更だねっ!!」


 『ウインド』――本名、風嵐ふらんふうは、情けをかけるつもりは毛頭なかった。


「じゃあ、退屈させないでね♪」


 そう言った瞬間、全ての銃火器が火を噴いた。

 轟音が、空間を支配する。

 空を切り、皮を突き破り、肉を破壊し、骨を破砕する。

 どのような武器を持っていようとも、為す術はなかった。

 『無道組』と名乗った男女全員は、全員蜂の巣になった。後方の壁にも穴が開くほどの強烈な一撃だった。

 そして、息の残った生存者を、手のナイフやトンファーで殺した。

 『風嵐ふらん』。忌名の1つ。「機械化」が説明としては分かりやすいが、通り名の方が有名だろう。

 『工場セルフメーカー』。自分の体を自分で弄り、改造し、武器を搭載し、殺戮マシーンにする、兵器製造工場一家。

 人間世界にある倫理観を全て踏みにじった、頭のネジが全て飛んだような連中である。


「……ふうっ♪満足だよっ!」

「……何が満足だ」


 呆れ返ったように、実兄である『ストーム』――本名、風嵐あらしは言った。


「……こいつらに情報を聞かずに殺してどうするんだ」

「――あっ」


 1人目に訊いたきり、素で忘れていたようだ。


「しかも『無道組』、と言ったわね?」


 『フレール』も中に入って言った。


「怨恨で、私達『因果律』が狙われても知らないわよ」

「だ、だだ、大丈夫だよ!ほら!!私達強いじゃん!!」

「……そりゃそうだが」


 しかし、やってしまったものは仕方ない。

 異常な思考回路の3人組は、情報を求めて再び廃墟を訪ねることにした。


***


「……」


 そんな殺戮を繰り広げている折、『因果律』のメンバーである『キング』は、いつになく真剣な表情をしていた。

 高いビルの上から何かを覗きこみながら。

 視線の先には、崩壊した『無人地帯』の道路を歩く人間。一見普通の人間に見える。但し、その人間の目には、光が宿っていない。


「……ふう」


 『キング』は、少しだけ気を緩める。だが、『キング』の眺めている人間は、歩みを止めることは無かった。


「……こんなところか、少し緩めても維持できる、、、、、ようにはなったな。流石俺だ」


 その時、何者かが路地裏から現れる。痩せこけた男だった。身なりは当然汚い。その手には、ガラス片が握られていた。

 殺意を発しながら、『キング』の眺める人間――否、『キング』が操る、、人間に近づく。


「頬がこけているし、食料目的か。よくそんな不味い肉食えるよな」


 見下ろしたまま、そう言うと同時に、ガラス片を持った男が、『人形』に襲い掛かる。

 だが、『人形』はその攻撃を避けた。


「ダメだな、そんなもんじゃ落第だぜ、糞人間」


 『人形』は、男の顔に掌底を浴びせる。しっかり栄養をとっていないらしい男はすぐにふらついた。ガラス片も、手から落とした。

 すかさずそのガラス片を、『人形』は手に取り、股間に一刺し。


「……!!!!!!!」


 急所を突かれた男は、血を滴らせながら、地面の上で悶絶した。かと思うと、仰向けになり、白目をむいたまま動かなくなった。

 あまりの激痛に気絶したのだ。


「あーあ、弱いねえ」


 と、『キング』は、今度は倒れ伏した男に視線を投げかける。

 瞬間。

 気絶したはずの男が。立ち上がる、、、、、

 死んだ目をしながら。


「俺が、その肉体を有効活用してやるから安心しろ」


 それから、少し目を瞑る。

 何かを考えるような仕草をしてから、『キング』は目を開けた。

 『人形』と、新たに手にした男の『人形』の動きが、一糸乱れぬものとなった。


「……一時凌ぎじゃこんなもんか。一族最強って謳われるんだろうけど、まだ鍛錬は必要だよなあ」


 どこから来る自信なのかは分からないが、『人形』を操作しながら、『キング』は独り言を言った。


「この『うつつ家』の名に懸けて――いや、俺の名に懸けて、全員を操ってやる日も近いだろうな」


 『うつつ』。忌名の1つ。何らかの手段を用い、人間を操る家系である。

 通り名としては、『人形遣いオペレーター』が一番有名だろう。特に、一族の中でも『現不現ふげん』という人間が最も力を持っているらしい。が、その他も割と拮抗するだけの実力を持ち合わせている。

 一度操られれば、廃人にされるとまで言われる人間操作術は、やはり常軌を逸しているものだろう。

 忌み嫌われること間違いなしだ。


「さあて、とりあえず兵だけは集めとかねーとなあ……今はあの2人含めて全部で46人、、、。最低でも70人――いや、もっとか」


 こんなペースで、俺の『操失術』で『人形』作ってんじゃ、その内人間は絶滅するかもなあ、と再び減らず口を叩きながら、再びビルから覗き始めるのだった。


「退屈だから早く俺の所に来いよなあ――全員殺してやるぜ」

 口元を、歪めながら。

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