逝名、忌名、往名。オカマとダガーナイフ。

「まずは、『御三名ごさんめい』は既知か?」


 単なる事実確認に、サドトゥスが尋ねるが、リオと救羽は首を横に振る。


「……知らない」

「分かりません……」

「なるほどなぁ!!!平和で良いことだぜぇ!!!ガハハハハ!!!」


 特にバカにするでもなく、快活に笑い飛ばして、颪が説明を継いだ。


「なら、『逝名いきな』、『忌名いみな』なら知っているか!?!?」

「あ、それなら知っています」


 反応したのは救羽だ。


「おっ、ならお嬢ちゃん、何なのか説明出来るかい!?さん、はい!!!」

「ふえっ!?え、えっと……」


 救羽は、いきなりの指名に驚きつつ、答える。


「簡単に言えば、人殺しの集団です……。『逝名』がどちらかと言えば通常の武器を、『忌名』が、少し変わった手段を使うーーと言った感じです」

「知っているじゃねえか!!流石だぜ!!!」

「い、いや、それ程でも……」


 その救羽の説明にある程度は理解したリオに、颪が続ける。


「その通りだあ!!ガハハハ!要するに人殺しだから、悪い奴らばかりだな!!さて、お嬢ちゃん、『逝名』と『忌名』にいる奴らの家名は知っているか!?!?」

「う、うーん……流石に全部は覚えていないので……」

「なら俺が説明した方が早いな!!!」


 颪は、何か書くものと紙を所望したので、リオがそれを持ってくる。

 颪が2つの円を描き、それぞれ円の上部に、『逝名』『忌名』と書いた。


「まず、『逝名』だぁ!!!」


 円の中に、次々と名前と簡単な説明が書き込まれる。その数は5つだった。

 遠野とおの。スナイパー。

 無道むどう。暴力。

 はかなき。薬。

 舞乱ぶらん。刃物。

 破罰はばつ。爆弾類。

 風変わりな名前と物騒な説明が多く並ぶ。


「こんなにあるのか」

「だなぁ!!!ここから分家があったり、グループがあったり色々なんだが、面倒いから割愛するぜぇ!!!」


 そして次に『忌名』。こちらも5つ。

 近野こんの。暗殺。

 不導ふどう。徹底破壊。

 うつつ。人間操作(催眠術?)。

 風嵐ふらん。機械化。

 火罪ほつみ。呪殺。

 相変わらず物騒だが、幾つか気づくこともある。


「……そうか、お前がこの『忌名』に入っている『風嵐』の家系の奴ってことか」

「その通りだぁ!!!何せやっていることがエグいグループにあるからなぁ、俺らも嫌われているぜ!!」


 確かに、「呪殺」だの「人間操作(催眠術?)」だの、関わりたくはない家柄が多く名を連ねる。

 また、救羽が別のことに気づく。


「……『逝名』と『忌名』って、名前似通ってますよね」

「その通りだぁ!!!『忌名』が出来たのが先らしいがなぁ!!!憧れを抱いた変人共が『逝名』なんて作ったらしい!!」


 変人のレベルを超えている気はするが。


「……そう言えば、機械化、ってどういうことですか?」


 これは只の疑問だが、『風嵐家』の颪が快く答えた。


「こういうことだぁ!!!」


 すると何故か右腕を上に掲げた。

 ――突如肘から先の腕が2つに分かれ、そのまま腕が開かれる。

 中から黒光りするものが、姿を現した。

 ショットガン、、、、、、


「お前……!!」

「えっ、えっ……?」


 リオと救羽は困惑している。無理もない。

 要するに、『機械化』とは。

 人体改造による、人類の兵器化、、、、、、のことである。


「……こいつは驚いた」

「ほ、本物ですか……?」

「残念だがなぁ!!!これ以外にも幾つか変な機械仕掛けが施されているぜ!!」

「現存のサイボーグだな」


 サドトゥスの言葉にも、少し引き気味なリオと救羽。それはそうだ。いきなり『兵器です!!!』と言われて平静を保てる人間(魔人)はいないだろう。

 それを察知したのか、サドトゥスが弁護した。


「大丈夫だ。人を守護はすれど、殺害はしない――殺人に辟易し、此奴は『風嵐家』から離脱し、私の援護役になっている」


 実際、私は彼が殺害したのを見るのはおろか、感知したこともない――そう付け加えた。


「まぁ、そういうこった!!嫌われ者って言うのがわかるだろう!?!?」


 ショットガンを仕舞いながら、颪が言った。

 救羽が恐る恐る尋ねた。


「……それ1つですか、身体にある武器って」

「数えきれないくらいあるなぁ!!!」


 これ以上は想像したくなかった。

 そして、それとは別に気になることがもう1つ。

 尋ねたのはリオだった。


「……『御三名』って言ったよな。もう1つ、、、、は何だ?」


 それに対し、颪は快活に笑う。


「ガッハッハ!!!流石兄ちゃん!!話が早くて助かるぜぇ!!!」


 言われて、勿体ぶっていたかのように、3つ目の円を描き始めた。その上に。

 『往名いにな』――そう書いた。


「『往名』ってのがあってだなぁ!!!存在すら怪しい、、、、、、、集団だぁ!!!」

「……存在すら怪しい?」


 リオが怪訝そうにそう訊くと、サドトゥスが答える。


人間離れした異能、、、、、、、、を保持している、ということだ。思考すら馬鹿馬鹿しくなる程のな」

「人間離れ、だと?」

「その通りだぁ!!!」


 言いながら、颪が新たに名前と説明を加筆する。


「俺は2つしか知らないがな!!」


 書かれた名前を見る。

 黒染屋こくせんや。悪魔。

 うけたまわり。人類最強。

 確かに、「人間離れ」という言葉がぴったり合うような説明だった。


「私の推測では5つ存在するとしている。『往名』というのが『逝名』、『忌名』に名前が類似するためだが」

「安直だな」

「推測故だ」


 無表情のまま、サドトゥスは続ける。


「付加して、『忌名』がこの集団を羨望して創作した可能性がある」

「……嫌われ者が多い方だったか?名前が似ていて分かりづらくてな」

「そうですよリオさん」


 学習能力が非常に高い救羽の方が答える。

 ……自分はこの中でも最も理解が遅いというのか。


「名前が混ざりやすいからなぁ!!!気にするなよ!!」

「気にしてねえよ」


 思わずそっぽを向いて決まり悪そうにする。


「心情と言葉が乖離している」

「……クソっ」


 表情も心情も出さない少女に、「感情が分かりやすい」と言われてはお終いだ。

 耐え切れなくなり、リオは話を戻す。


「とにかく、その『忌名』が真似たという証拠はあるのか?」

「不完全だが、存在する」


 恐らく、とサドトゥスは続ける。


「能力すらも、『忌名』と『往名』とはほぼ同類だ。例示すれば、この『黒染屋家』と『現家』。『現家』は、相手の精神に関与し、一時的に操作する術を行使する」

「……操られている間は、意識がないとかか?」

「御名答」


 リオには、この能力に心当たりがあった。

 マスカレードと共に倒した、あの『人形たち』。彼等は恐らく、この家系の誰かに操られていたのだろう。

 痛みも感じず、何も思わず。

 使い捨ての駒、、、、、、として働かされる――人形なんて、生易しいものではなかった。


「……一度に操れる人数とかはあるのか?」

「人によるなぁ!!!」


 颪が代わりに答える。


「今一番動かせるのは、うつつ不現ふげん、と呼ばれる奴だぁ!!!奴なら30人は動かせるはずだ!!」

「……30人?」


 自分が見たのは、60人だった。

 ということは、その「現不現」という者以上の実力者がいるのか、それとも2人以上の仕業なのか。

 考えても分かるはずがなく、続きをサドトゥスに任せる。


「次に『黒染屋家』だ。『悪魔』と記述されるが、実質は『憑依』に近い」

「!」


 リオは、その言葉に覚えがある。

 当然、救羽との出会いの発端となった、刃先権平との対決である。

 明らかに、彼は人間の能力を超えていた。刃先権平と認識できるものが10人いたことが顕著な例だ。

 だが、そのまま黙って聴き続ける。


「非科学的なのを許可すれば、この家系は、自分の魂を複製し、強制的に相手の魂を殲滅し、代替する術を行使する。故に、他人を自在に操作するように感知される。だが、実態は『操作』などの生易しいものではない。相手の魂の殺害、、、、、、、だ。一度憑依されれば、元には決して戻れない。現との最大の差異だ」

「怖いですね……」


 救羽の感想にリオも賛同した。と同時に、『刃先権平』の出した問いに、答えが出た気もした。

 だが、それを全て壊すように、サドトゥスは吐き棄てる。


「本当かどうかは不明だ。むしろ、本物と呼称されるのは、『人類最強の請負人』たる、うけたまわりしたため、という名称の者のみだ」

「……強そうですね」

「実際に強いらしいぜ!!何せ、依頼の完遂率が100%だって言うんだからなぁ!!!」

「100ですか!?」


 救羽も流石に仰天する。


「ああ、お嬢ちゃん!!しかも、依頼内容は、金さえあれば問わねえってさ!!」


 途轍もない。

 一体、それは人間と呼べるのか。


「だからこそ、人間離れ、か」

「御名答」


 サドトゥスは、話を戻す。


「この説明で、私も、颪も、何者かは判明しただろう」

「……確かにそうだな」


 そして、依頼を受けるべきか受けないべきかも、ここで慎重に考えねばならない。

 そもそも、話はそこから始まっているのだ。

 果たして、『王位継承戦レナンテム』の手助けをすべきか否か。

 救羽のことを考えれば、答えは「否」だろう。

 第一、そんなものに巻き込まれるなんて、たまったものではない。もし、その最中に救羽が死ぬことがあれば――。

 リオは、救羽を、大戦闘の最中、守り切ることの困難さを悟った。


「やはり、依頼は受けられない」


 リオは、そうきっぱりと答えた。


「そうか」


 しかしサドトゥスは、何も反論することなく、あっさり引き下がった。


「未だ『王位継承戦レナンテム』の告知、、が到来していない故、こちらの焦燥の必要性は皆無だ。追加の協力者は、また探索するだけだ」

「……どうせ殺し合いだろう?」

「告知が到来せねば何事も発言できない」

「つーか、その承認、って奴だったか。そいつに頼めばいいだろう」

「金欠なのだ」


 何とも現実的な話だ。そう言って、サドトゥスはソファに座った。


「……くつろぐ気か」

「疲労が甚大なのだ。少々休息させて貰えないか――それが今の依頼だ。報酬は弾まないが」


 無表情で情感のないまま発された声に、快活な声が続く。


「迷惑でなければ少し休むぜ!!」

「……はぁ」


 『王位継承戦レナンテム』援護の依頼から一転、何とも平和な依頼に落ち着いたものである。

 ……このまま居座るつもりじゃないよな?とリオが疑念を抱くが、救羽が彼らに声をかける。


「何か用意しましょうか?」

「ふむ。では酸味のある物を依頼する。疲労を除去したい」

「俺は兎に角何か食べたい!!」

「分かりました!」


 ここはレストランじゃねえぞ、と心の中でツッコミながら、奥の食料貯蔵庫兼厨房へと消えていく救羽を目で追った。


***


「ソイツは噂だけねぇ」


 赤目に黒ずくめの男――ユアンと、少女――アイは、ようやく67人目(内半数近くは仕方なく戦闘不能にした)にして有益な情報を得た。

 ちなみに提供主は男である。


「噂だァ?」

「そうよん。何でも、依頼すれば焼き殺してくれるらしいわよ〜。何で焼き殺すのかは知らないけど」

『分かればで結構ですが、店の場所は分かりますか?』


 アイが筆談で尋ねる。

 提供主は首を横に振り、答える。


「残念だけど、ボクは知らないわん。ただ……」

「何だァ?」

「店の名前だけは知っているわよ〜ん」


 目の色を変えたユアンが、提供主に掴みかかる。


「本当かァ!?教えてくれェ!!」

「あらあら、アグレッシブな男の人は嫌いじゃないけど♪」


 色々危険な香りがする、とだけアイは思っておくことにした。


「お店の名前、そうねえ……何か対価があれば教えてあげるわよ〜」

「対価だァ?何なら良いんだァ?」

「そうね〜……」


 提供主は少し溜めてから言った。


「アナタの×××××かしら」

「お前ふざけんなよォ!?」


 蠱惑な笑みで言った内容が、流石にマズい。

 一部は喜びそうだが。


「ボクのウチ来るぅ?ネジとかあるわよぉ」

「何に使う気だァ!!」

「後はスパナとかぁ」

「お前の家は工場かァ!?」

「強いて言えば×××××の工場ね」

「……ウゲェ」


 もうユアンが引いている。何も言わないが、アイは建物の陰に隠れて体を震わせている。もはや目尻に涙すら浮かべている。


「……なんてね、冗談よぉ」

「冗談に聞こえねェ!!」


 冷や汗を流しながら答えるユアンに、提供主は続けた。


「本当は、食料が欲しいのよ」

「むしろお前は嗜虐欲に飢えている気がするがなァ」


 しかし、食料と来た。

 直ぐに見つかるわけでもなく、かと言って待ってもらうのも忍びない。

 とユアンが思っていた矢先、今まで壁に隠れていたアイがすぐさま食料の少し詰まった袋を持ってきた。

 驚くユアンに、アイはウインクで応じた。

 『この世界の人間のことですから、何かしらの対価は必要と思い、一通りは持ってきました』とでも言うように。

 しかし、どこに隠し持っていたというのか。

 こればかりは、思考力の少々弱いユアンでも、気づいたようだ。

 『霧在むざい』、と呼ばれる、気配のみを消せる技を用いていたのだろう。

 消せる度合いとしては、音すら消せる妹――ムアの『不在』の方が強いが、これでも十分に物を隠せる。

 それ故、アイは、気づかれることなく、リュックを背負うことができていたのだ。


「あらぁ、用意が良いわねぇ」


 提供主は、その食料を受け取る。笑顔で。

 そう。

 食料袋ではなく、アイの腕、、、、を、しっかりと掴んで。


「食料はねえ、ボクにとってはぁ、人肉なのよおおおおん」


 そして、その腕を噛み千切ろうとする。

 しかし提供主は、その頬に強烈な打撃を喰らった。


「……ほぉん?」


 アイは、続けざまに、股間を思い切り蹴り上げた。凄まじい打撃音が鳴り響く。


「ごっ……おおおおおおおおおおおおおおおおん」


 提供主は悶え転がりつつも、起き上がって反撃を加えようとする。

 だが、それをユアンが許さなかった。

 両の掌を開く。すると、突如としてそこに、1本ずつナイフが出現した。諸刃の短剣ダガーナイフだ。


「おいおい、俺の大事な仲間に傷付けんなよォ?」


 2本のナイフを腕に突き刺し、そのまま地面に固定した。


「ぎいいいいいいいん……痛いわぁ……」

「当然だろォ。それに、お前はそれ相応のことをしようとしたんだァ。しっかり受けとけェ」


 ユアンは脚にも突き刺しておいて完全に動きを封じてから、尋ねた。


「んで、店の名前はどこだァ?」

「その前にその娘を食わせなさいっ!!!」

「……駄目だなこりゃァ。楽にしてやるからよォ」

「……は?」


 ユアンは上空に手を翳す。

 いつの間にか、提供主は、首を木枠にはめられていた。その横には腕を嵌めるであろう場所が設けられていたが、腕は地面に固定されたままだ。

 その上には大ぶりの刃物がある。その刃物は、ユアンの持っている紐によって上空に保たれている。

 俗に言う、ギロチンというものだ。

 末路を見たくないのか、アイは目を逸らした。


「い、いつの間にこんなっ……!?」


 提供主は驚愕するが、何でもないかのように、しかし怒気を含ませた声で、ユアンは続ける。


「んで、どうすんだァ?答えんのかァ、死ぬのかァ?」


 答えなければ、ユアンは紐を手から離すだけだ。

 それだけで、首は胴体から離れて、至極楽に死ねる。

 ――筈だ。

 だが、提供主は死にたくはなかった。


「こっ、こここ答えるわよっ!!」


 必死の思いで、提供主は情報を話すことになった。


「名前は、『Murderer House』ってところよ!!」

「確かだな?」

「当たり前でしょっ!!は、早く解放しなさいっ!!」

「そうだなァ、後もう1つだけいいか?」

「な、何よっ!!さっさと――」

「武器持っているか?あれば寄越せ」

「……私は特に持っていないわ。素手でやっているからねん」

「そうか」


 するとギロチン、及び四肢に突き刺さっていたダガーナイフ、全てが虚空に消え去った。もはや、提供主は状況に付いていけなかった。


「それだけ分かれば十分だ、ありがとよォ」


 ユアンはそれだけ言って背を向け、アイは丁寧に頭を下げてからユアンについていった。

 提供主は、大の字に地面に寝転がった。


「……あははははっ」


 死ぬかと思った。

 満身創痍になりながら、乾いた笑いを浮かべていた。

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