人殺しの談義。

《……帰って来たね、お帰り》

「只今帰りましたよーっと」

「……」


 暗がりの少し広い、埃の多い部屋で、そんな会話が聞こえた。

 最初に発言したのは、機械でできた人形である――まるで合成音のような音が出ているが、ただのロボットというわけではないようだ。実際、ロボットではあり得ないような動きをしている。

 それに投げ槍に返答したのは、これといった特徴も無い――服中にこびり付いた血痕を除けば――10代前半の少年だ。性格としては傍若無人なのか、「クソほど疲れた、この僕にこんな命令出すなんてさあ」と宣う。

 一方、会釈のみで返答したのは、一切の汚れのない、身軽な格好をした女性だった。銀髪のボブカットが特徴的な美人である。

 機械人形が、少年に問いかける。


《で、どうだった?全部壊されていた?『人形』たち》

「ムカつくことに壊れてたよ。この俺を出し抜ける奴がいるみてえだ」


 舌打ちしながら返答した。

 『人形』――リオとマスカレードを襲った、60人程の人間たち。彼らは、燃やされ、切断され、見事に地獄絵図を彩っていた。それを操っていた、、、、、のが、いやに自尊心の高いこの少年である。

 その少年に、1人の少女が駆け寄る。緑の髪をツーサイドアップにしていて、あどけなさ満点な少女である。


「あっ、うっつーだ!」


 呼び名に対して、あからさまに少年はブチ切れた。


「その呼び方はやめろって言ってんだろ!僕は『キング』だ!」

「いいじゃん、うっつーの方が可愛いよ!」

「何が可愛いだふざけんじゃねえ!!」

「……うっつー……プッ」

「『フレール』、次笑ったらマジで殺してやる」


 このやり取りに毎回耐えられなくなる銀髪の女性――『フレール』が吹き出すと、少年――『キング』がそれに過剰に反応する。

 それからすぐに、緑髪の少女に『キング』が怒鳴りつける。


「大体なあ!『ウインド』!テメエが思いつかなければ言われることもなかったんだよ!!」

「えー、私のせい?子供だなー♪」


 緑髪の少女――『ウインド』は、『キング』とそれ程背丈も変わらないのに、子供っぽいと突っ込む。もはや年齢もへったくれもない。


「……そのお花畑な脳味噌、腐らせてやろうか?」


 『キング』は、瞬間、殺気を出す。

 それに呼応するかのように、『ウインド』も、笑顔のまま殺気を出す。


「へえ♪殺ってみなよ――殺れるもんならさあ」

「上等だよ――この僕に勝てるわけは、億が一にも有り得ないけど」


 その時、『ウインド』の頭を割と強めに叩く者がいた。


「いっ――たああああああああああああ!!!」


 『ウインド』は後ろを振り向く。

 そこに立っていたのは、『ウインド』にどことなく顔立ちが似ている、背の高い、緑髪の男だった。歳は20を超えているだろう。冷静さを感じられる。

 『ウインド』は、しかし彼に殺気を発するのではなく、ただ抗議をした。


「お兄ちゃん!ひどい!私そんな悪いことした!?」

「……仲間割れを起こすんじゃない」

「……うぅ……」


 それどころか、緑髪の男――『ウインド』の兄に軽く叱られて、萎れて大人しくなってしまった。

 兄妹のそんな様子を見た『キング』が、減らず口を叩いた。


「何だよ、今度はテメエがやってくれんのか?『ストーム』。いいぜ、妹の前で、無様な死にざまを晒してやるよ」


 瞬間。

 『キング』の首筋に、冷たい刃物が宛がわれた。

 刃物――正確には、『ストーム』の掌から、、、伸びている、一種の仕込み刀だ。

 鬼の形相をした『ストーム』に、『キング』は飄々と返す。


「……やれるものならやってみろ」

「本っ当、お前はシスコンだよなあ。『仲間割れ起こすな~』とか言ってた割には有限不実行だし、妹に嫌われるんじゃねえの?」

「『キング』、やっぱ殺していいかなあ♪」


 妹である『ウインド』も、片方の腕から剣を伸ばす。


「……有限不実行より、他人からの侮辱の方が問題なんだよ」

「あっそ、僕には関係ないことだけど」


 化け物たちによる、人智を超えた戦闘が、今にも勃発しそうになった、その時だった。






《皆、そこまでだ、、、、、


 瞬間、尋常でない殺気が、空間を支配した。

 発信源である只の機械人形が、生きた人間を全員、凍り付かせた――『フレール』を除いては。


「……私は何もしてない」

《なら止めればいいじゃないか――面倒臭いとか抜きにして》

「……善処するわ、『マキナ』」


 そして、機械人形――『マキナ』は、全員に抵抗の意思がないことを悟ると、殺気を解いた。

 暴れようと思う者は、もういない。


《いつものことだけどさ、君達いい加減にしなよ。心優しい俺でもそろそろ君達殺しちゃうよ》

「……申し訳ありませんでした、『マキナ』さん」

「うぅ……ごめんなさい……つい」

「ケッ、糞喰らえだよこの野郎」

《『キング』?君の事だから従えとは言わないが、流石に最低限は守ってくれないと、次は無いよ?》

「……分かったよ!お前の言う通りにやりゃいいんだろ!!」

《分かればよろしい》


 『マキナ』は、機械人形であるために表情は出せないが、恐らく薄く笑顔を浮かべているであろう口調で語りかけた。

 そう発言してから、『マキナ』は辺りを見回す。


《……そういえば、やっぱり『バイオ』はいないのかい》

「いねーだろ、あんな自由人」

「……あなたには言われたくないと思うわよ」

「んだと!?」


 散々場をかき乱した『キング』すら、「自由人」と称するメンバーがもう1人いるらしいが、今日は欠席しているようだ。


《あの子がいれば、凄く計画楽になるんだけど……気まぐれなのが玉に瑕だよねえ》

「強すぎて変人なんだよ♪」


 と『ウインド』は言う。それが共通認識となっているほど、『バイオ』という者は次元を超えた力を行使するらしい。


「……よくあんな怪物手なずけて、このチームに入れましたよね」

《んーまあ、あれは只の偶然みたいなもんだけど》


 『マキナ』は何でもないことのように言ったが、全員、心の中で突っ込んだ。

 そんな偶然、億が一にも有り得ないだろ、と。

 閑話休題。『マキナ』は口を開く。


《で、今回も一応、指定した奴を捕縛しないといけない――世界平和のためにね》

「世界平和ねえ。人散々殺しておいてそりゃねえだろ」


 『キング』がまたも口を差し挟むが、『マキナ』はそれにやんわりと返す。


《平和の上には犠牲がつきものだよ。ほら、君達人間だからさ、第一次世界大戦とか第二次世界大戦とか知っていると思うけど――》

「知らねえな」

「何それ?『だいいちじ』……って何?」

「……勉学には疎いのです」

「……私はそもそも人間じゃないし」


 と、『キング』、『ウインド』、『ストーム』、『フレール』は順々に返した。

 『マキナ』は、表情を変えずに片手で側頭部を掻き毟るようにした。


《流石に勉強しようよ……あと『フレール』、人間じゃないから、は理由にならないよ。反例は俺だ》

「……で、何が言いたいのですか?」

《平和には犠牲がつきものだ、ってさっき言ったじゃないか……》


 戦闘センスがピカイチでも、教養に疎いとどうも話しづらい、と『マキナ』は率直に感じた。


《まあ、いい。兎に角、世界平和というか――もういいや、世界を転覆するに当たって、君達には暴れまわってもらいたい――そこでおよそ二手に分かれてもらおうと思っている》

「えっ、もう決まってるの?」

《そうだよ?》


 『ウインド』は、『ストーム』にしがみついて、目を潤ませる。

 『マキナ』は苦笑したように笑い声だけあげた。


《大丈夫、士気を下げるのが一番ダメだからね。その辺は考えているさ。『ウインド』は、『ストーム』と『フレール』と共に動いてくれ》

「……ぃやったあー♪お兄ちゃんと一緒っ!」


 『ウインド』は、喜びを爆発させ、兄である『ストーム』に抱きつく。


「ってことは、何だ、僕は1人か?」

《君は人形たちがいるでしょ。とにかく、その人形でこの男の取り巻きを潰してくれ》

「まあ、僕には孤高が似合うけどね」


 『マキナ』は、『キング』に1枚の写真を手渡した。そこには、異様な男と取り巻きが写っていた。

 全身黒ずくめの服。そこから覗く肌は薄黒い。唯一、瞳だけが赤い男だった。

 その隣に、少女が2人。恐らく姉妹であろう。

 それを一瞥してから、ポケットに仕舞った。


「こいつらくらい、僕1人でも片付けられるよ」

「ぼっちのクセに強がんなよー♪」

「……その言葉聞くと殺意を覚えるのは何でだろうねえ」


 『キング』は、色々弄られて舌打ちをし、真っ先にドアへと向かった。


「……もう行くのか、早いな」

「お前らといても楽しくねーんだよ」

「嘘だー、弄られて嬉しいクセにー!」

「『ウインド』、生きて帰っていたら覚えてろよ」

「……死亡フラグね」

「ふざけんなよ『フレール』、お前が死ね」


 もはや負け惜しみか何かにしか聞こえないセリフを吐いて、『キング』は出て行った。


《……ま、『キング』なら大丈夫だろ。それに、倒された人形たちの視察に行って、考えることもあったろうし》


 『マキナ』は、ドアの方を向きながらそう言い、再びメンバーの方へと向き直った。


《さて、『キング』には、ある男の取り巻きを潰してもらうことにした。ただ、成功するかは分からない――別にしなくても構わないのだけれどね》

「……全く分からないわ」


 『フレール』が、声を上げた。


《何がだい、『フレール』》

「あなた、何がしたいのよ?世界の転覆とは言ったけど……」

《言ったさ》


 含みのある、『フレール』の放った言葉を、『マキナ』は繰り返す。


《文字通り、俺が目指すのは、世界の転覆、、、、、だ》

「転覆ねー、楽しそうだねー!」

「……で、具体的にはどうやってやるんですか。その転覆とやら」

《決まっているじゃないか》


 『マキナ』は、恐らく笑みを浮かべるであろう語気で、言った。


《君達に強くなってもらう。少なくとも、俺を倒せるくらいには》

「……無茶言いますね」


 と、本気で汗を滲ませ始めた『ストーム』は、苦笑いしながら答える。


「……俺が『マキナ』さんに勝てたことなど、一度もないのに……」

「えーでもさ、頑張れば倒せるようになるんでしょ?」

《勿論さ『ウインド』。それは全て君次第だ》

「じゃあ、頑張ろうね、お兄ちゃん♪『マキナ』を倒そう!」

「……趣旨変わっているぞ」


 と、『マキナ』はここいらで手を叩いた。


《さて、そんな君達には、こいつを倒してもらいたい》


 別の写真を見せる。そこには、2人の人間が写っていた。

 1人は、大男で、マントのような大きな布に身を包んでいてよく分からない。しかしもう1人ははっきり視認できた。

 淡い紫色の、長い髪。少し血色の悪い肌。その全てに合う、薄紫のワンピース。そこから浮き彫りになった、赤い瞳。そして、一切の感情が表出しない、無表情。

 ただ、『ウインド』、『ストーム』、『フレール』にとっては、その素性なんて二の次である。要は、探して殺せばいいだけの話だ。


《さあ、分かったら行ってらっしゃい。俺はここでまだ暫く休みながら、今後の事を考えるよ――次々回か、次回か、その時には十全に動けそうだ》

「……無理はしないでよね」

「じゃあね、行ってきまーす!」

「……帰還してきます」


 こうして、『マキナ』を残して、3人組も出て行った。

 説明責任などを果たした彼は、静かになった空間の中で、再び思索に耽ることにした。

 世界転覆に至る道筋と、それまでの経緯について。

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