ホワイツ・セーブ・インセイナーズ。

人探しの会議。

地獄を見ろ。過去を見ろ。現在を見ろ。未来を見ろ。


白が、全てを制圧する。

――――――――――

 『無人地帯』。

 人で無しが集う、最低最悪の地域。

 法は機能せず、空気は循環せず、生命は継続しない。

 日常を暮らすには、あまりにも不適切な土地。

 その中でも、どうにかこうにか生活している者は多い。ある者は、他者を殺して簒奪し、ある者は、他者を殺して食糧を得る。またある者は、依頼を受けては他者を殺し、またある者は、実験、、をして他者を殺す。

 そんな『無人地帯』のとある壊れかけの建物。

 ほとんど物のない殺風景な中では、1つの少し腐った木造テーブルを挟んで4人が一堂に会していた。

 1人は、黒ずくめの男。服も、髪の色も漆黒で、肌は浅黒い。ただ、瞳だけは綺麗な赤色をしていて、それが特徴的でもあった。

 1人は少女。歳は15、6ほどか。ブロンドの長い髪をポニーテールにしている。非常に整った顔立ちをしていた。メモ帳と鉛筆のようなものを持っている。

 1人は幼女。歳は10~12ほどだろう。ブロンドの髪をサイドテールにしている以外、先程の少女と似ているから、妹であろう。

 残る1人は、ライフルを抱えた少年。歳は白い肌の妹よりも少し上――13歳ほどか。鋭い目つきをしている。

 この奇妙な4人が、これから会議を行おうとしていた。


「……周りには、誰もいねえよなァ?」


 黒ずくめの男は、赤い瞳を周囲へ向けながら、確認の意味合いで他の3人に訊く。その答えは、全員首肯だった。


「よし、じゃあ始めるかァ」


 ライフルを抱える少年が、ひとまず声を上げる。


「ユアンさん、今日はあいつらへの対抗する方法でございですか?」


 するとすかさず、姉妹の妹から指摘される。


「ソウイチ、『あいつらに対抗する方法ですか』よ」

「……ムーちゃん、わかりますよ」

「分かってないからっ!」


 ライフル少年――ソウイチと、妹の方――ムーちゃん、本名はムアである――の(くだらない)喧嘩が始まった。


「大体もう日本語学んで何年になるのよっ!」

「うーん、忘れたですね……」

「ほらそれっ!『忘れました』でしょ!」

「日本語難シイデスネー」

「片言に逃げちゃダメッ!」

「But I wanna speak in English cuz I studied the skill in shooting in it.」

「英語分かんないからっ!」


 その時、2人の頭は軽い叩きを喰らった。


「うおっ」

「みゃっ!」


 これによって喧嘩は中断されたが、それが今度は叩きを加えた者へと降りかかる。


「お姉ちゃん!痛い!」


 打撃を与えた張本人、ムアの姉は、突如サラサラとメモ帳に書き記し始める。十数秒後、それを夢亜とソウイチに見せる。

 非常に流麗な文字でこう書かれていた。


『こんなことしていたら埒があかない、議論するよ、ソウイチ、ムア』

「……はーい」

「……すみません」


 ムアは頬を膨らませながらそっぽを向き、ソウイチは素直に謝った。


「ありがとなァ、アイ」


 ムアの姉である筆談少女――アイは、ぺこりと頭を下げて返答する。

 ユアンは、3人に呼びかけた。


「つーわけで、今から俺達の行動を決めるぜェ――もっと言えば、『奴らにどう一泡吹かせるか』についてだがなァ」

「ひとまずですが」


 と、ソウイチがまず声を上げる。怪しげな日本語を懸命に駆使しながら、説明を始めた。


「この前の日で、僕とユアンさんと、大きな戦闘音のするところに行きますした。あー、えっと、1人の死体があっただけで、何か特別にことがありますわけでは無き事ですが――」

「……ッ!」


 先程までこの少年とひと悶着起こしていたムアは、訂正したい欲をぐっと抑えて――いや、正確には姉のアイに抑えられて――聴いていた。


「ただ、ユアンさんのおっしゃりますることには、その死体は、人間でなく、魔人でありますようです」

「!」


 ムアとアイは、『魔人』というワードに反応した。それから、2人はほぼ同時に、ユアンの方を見る。

 ユアンは、その視線を浴びながら、ソウイチの言葉を繋ぐ。


「その死んでいた魔人は、魔界でも指折りの強さを持つ奴だったってワケだァ――つまり」


 少し笑って、言い放つ。


「そいつを殺したのは――魔人、、って可能性も、あるんだぜェ」

「ってことは、その魔人を見つければ、私たちの戦力は大きく上がるってことね」


 ムアがすかさずその先を言うと、ユアンは口端を吊り上げる。


「その通りだァ、ムア」


 すると、さらにその先を読んだアイは、筆談でこう伝えた。


『しかし、その魔人とやらの場所は分かるのですか?』

「もっと言っちゃえば」


 ムアが、更に先を続ける。


「それって本当に魔人の仕業と言い切れるかしら?ここには、狂った、、、人間たちがいるの、知っているわよね?」


 狂人。正確には、凶人、、かもしれないが。

 『無人地帯』には、そう呼ぶことのできる人間がいる。彼等、、なら或いは、『九体天コスモス』に対抗できるのかもしれない。

 その可能性は、既にとある『天使』の少女が示しているが、この会議にいる4人は知る由もない。


「……まァ、そうかもしれねェけどよォ」


 ユアンはしかし、表情を崩さない。


「それならそれで、ソイツを引き連れればいいんじゃねえのかァ?」

『出来ればまともな方でお願いしますよ』


 アイはその紙片を見せた後、懇願するように深々と頭を下げた。


「わ、私もそう思うわっ!」

「僕も、思われるます」


 その意見は、人間側では全員共通だった。

 それを見たユアンも、ため息混じりに言う。


「……余程の変人なら止めておくぜェ」

「そうした方がいいわよ……」


 と、ムアは説教のように続けた。


「大体ね、仮にその魔人を殺したのが人間だとしてね、そんな人が安全なわけないじゃないっ!魔人だとしても私にはよく分かんないけどっ!とにかく、そんな人が来てどうなっても知らないからねっ!」

『それに、ユアンさん』


 と、アイは、再び言葉を書き綴る。


魔人であるあなた、、、、、、、、には分からないかもしれませんが、人間は、あなたが思っているより綺麗ではありません。心の内に闇を抱えていますし、中にはそれを勲章のように大事にしている者も。よくよく気を付けるべきです』

「……」


 ――それは、お前らにも当てはまる話かァ。

 魔人――ユアン・デ・メイラムは、しかし尋ねようとしてやめた。

 彼らが闇を抱えるに値する、壮絶な過去を持っていることを、ユアンは知っている。


「……ま、何にせよ、探すだけだァ。協力頼むぜェ」

『もちろんです』

「任せなさいっ!」

「全力を尽くしなさいま――んぐっ」

「『全力を尽くします』でしょっ!」

『やめなさいと言っているでしょう』


 子供喧嘩と筆談が入り乱れるカオスな空間。

 ユアンは、それを日常の風景として眺めていた。

 だが、そればかりをしているわけにはいかない――彼には今、時間が無いのだ。

 一刻も早く、その魔人(と思われる者)を探さなくてはならない。


「さて、アイ、ムア、ソウイチ――そろそろ動きたいと思うんだがよォ」

「それでなんだけど」


 と、ムアが再び声を上げる。


「人探しなら2手に分かれない?戦力が落ちるリスクはあるけど、その方が効率は良いし、隠密性も高くなるわ」

「……一理はありまするね」

「だーかーらーっ!」

『ムア、続けなさい』


 アイが、ムアの肩に優しく手を乗せる。

 手を乗せる彼女の目は、全く笑っていないのを、全員が察する。

 それだけで、ムアにとっては抑止力となった。


「わ、分かったわ、お姉ちゃん……怖いから離して……」


 肩から手が離れる。一息ついてから、ムアは続けた。


「だから、2手に分けたいんだけどね……、お姉ちゃん、紙とペン貸してくれない?」


 姉のアイは、ムアに一式を渡す。するとムアはすぐさま、紙に大まかな『無人地帯』の地図を書き始めた。その右側の下より――即ち、南東方面に黒丸を書き記す。そこがどうやら現在地のようだ。


「私は、その魔人を殺した人が――もしくは魔人がね、遠くにいるとは思わないの」

「そもそも逃げる必要性があるないですからね」

「どっちよっ!!」


 流石にこのツッコミは致し方ないと思われたのか、アイからもストップはかからなかった。


「――まあ、いいわ、続けるよ」


 ため息をつきながら、ムアが今度は地図に星印を書き記す。それは現在地よりも西の方にあった。


「戦闘音がしたところ、って言ったからこの辺かな、と思うの――魔人が倒れていた場所」

「まァ、そんなとこだなァ」

「だとすると、そんなに遠くに行く必要性もメリットもないから、大体この辺にいるんじゃないかしら」


 今度は大きい丸を、地図の中に書く。それは、『無人地帯』の3分の1を埋めていた。


「まあ、あくまで予想だから、いないこともあると思うけど」

『でも、探してみないことにはどうしようもないわね』

「だなァ、で、どういう風に分けてどういう風に動く?」


 ユアンが訊くと、ムアは少し考えながら答える。


「そうねえ……ざっくり、北と南で分けていこうと思っているわ。基準もないし、後はチーム決めして適当に行くだけよ」

「では、誰と誰とが組み申し上げるのでございなさるのですか?」

「あんた、どんだけ敬語を組み合わせるのよ……めちゃくちゃだし」


 と呆れながらも、組み合わせは既に決めていたらしく、即答した。


「私はソウイチと――完全な、、、隠密チームね――そして、お姉ちゃんとユアンとでペア――これは実力的な話ね」

「隠密ねェ……突っ込みまくってバレるなよォ?」

『私もそこが心配』

「……何とかするわよ」


 しかし、案としては悪くなかったようで、反対意見は出なかった。むしろ、アイが『ムアは私より隠密、、は上手いし、ソウイチとぴったり合う。ユアンさんと私はどちらかと言えば戦闘系だから、これもこれでぴったりね』と主張を補強してくれた。


「2チームに分かれて、エリアごとに『魔人ミカ殺し』を探す、ってことで良いんだよなァ?俺はそれで問題ないと思うぜェ」

「俺もそう思いますです」

「『です』は要らないっ!」

『それを隠密中にやらないでよね』


 というわけで。

 地図に書き記した範囲の北部の担当者は、ライフルを抱えた日本語の怪しい少年――ソウイチ。作戦立案に貢献した幼き少女――ムア。

 南部の担当者は、筆談で話題を軌道修正する少女――アイ。意見を総括し、かつこのチーム内最も強い赤目の『魔人』――ユアン。

 この2チームによる捜索が、早速始まることとなった。

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