戦士達の帰還。戦士達の遺憾。

「いやあ、しかし、何とかなりましたねえ……」

「いいからお前は喋るな。マゾヒストか何かか」

「酷いですねえ、私は――ゲホッ」

「だから何も言わないで黙ってろって――小説からの引用も結構だ」


 リオは救羽を抱えて歩きながら、フォースに肩を貸してもらって歩いているマスカレードに溜息をついた。

 マスカレードの容態は、軽いとは言えない。『即用型魔武器フロム』の代償は、生半可なものでは済まないのだ。

 喀血をしている以上、恐らくどこかの臓器は無事ではないだろう。勿論、人間とは比にならないほど回復力が凄まじくよいため、1週間も絶対安静で養生すればすぐに治るのだが。

 無茶をする、とリオは思ったが、同時にそれは、自らの弱さを反映するものだった。

 マスカレードが『即用型魔武器フロム』を使用する前にケリをつけていれば、今頃このような状況には陥っていないのだ。

 しかも、あろうことか、守っていくと決めたはずの救羽に逆に助けられたのだ。

 ――そんな強さで、これから救羽を守っていけるのか。

 リオは、腕の中で安らかに眠る救羽を見た。

 もっと、強く。

 そのためには、自分には何が出来るというのか。

 この右手の、今は手袋で封印している『浄火』でもって――。


「……」


 リオはここで思い出す。

 ミカには、明らかに罪を滅ぼす炎が効かなかったことを。

 勿論、可能性はいくらでもあった。『破壊光線オルタナティブ』の『破壊』の能力で、『浄火』の効力を破壊された可能性、他の『煉獄官』の本では効かない可能性、記述が間違っている可能性――だが、どれもあり得なかった。

 単純に、彼女には効力をなさなかった。

 不可解な事象――絶対的な矛盾とも言える現象がそこにはあった。

 『悪』を償わずして『悪』を執行する者。

 ミカは、リオに、こう言った――『お前の今までしてきた行動はどうなんだ。『正義』か?『悪』か?――今まで散々人を殺しておいてそりゃないぜ』、と。

 奴にそんな綺麗事を語る資格はない、とリオは思った。

 そもそも、ミカにとっての『正義』とは何なのか。逆に『悪』とは何なのか。語るのならばまずは意味を明らかにすべきである。

 何も明確にしないまま死んだ以上、その答えを知る由はないが、それにしても『悪』を執行しておいてそんな話をするのもおかしな話だ、とリオは思う。

 ――実はここにおける『正義』や『悪』も定義不明確である上、曲がりなりにも罪人を『殺す』という、一種の『悪』を行っているわけだから、同じ論理であれば、少なくともリオにすら語る資格も無い。

 もっと言えば、『殺し』が一種の『悪』であることは間違いないが、ある特定者にとっては『正義』になるのだから、議論自体が破綻する。

 救羽にとって、リオが救世主となったように。

 閑話休題。

 しかし、『浄火』が効かないのは非常に問題である。

 この先の戦いで、大いに苦しむことになるだろう。

 従って、鍛錬が必要になる。

 そんな逡巡を読み取ったマスカレードは、多少の無理をして思いを吐き出す。


「……鈍っているんですよ」

「……無理するなよ」


 リオはマスカレードの言葉に反応し、顔を向ける。マスカレードは続けた。


「人間ばかりを相手にして、体が鈍っているんですよ。まだまだこれからです――これから鍛えればいいんです」

「……」


 それは彼なりのフォローなのだろう、とリオは解釈する。

 取り敢えず体に障るから口を閉じろ、とでも言おうとした時、再びマスカレードは口を開く。


「……そういう、わけですから……」

「だから喋るな……と……」


 絶句した。

 マスカレードの手に握られているのが、ミカの用いていた『スピア・ザ・トラウィス』だったのだ。

 いつの間に奪ってきたんだ、とリオが思う間もなく、その手に、敵の『魔武器ウェポン』が渡る。


「鍛えるにも……限界がありますからね……。あなたの力不足を、補ってくれるでしょう」


 さらりと「力不足」と酷いことを言うが、確かにリオにとっては願っても無い支援なのかもしれない。

 だが、これを使いこなせないと意味はない。『魔武器ウェポン』自体持つのが初めてであるリオは、尚更だ。


「……」


 リオは再び救羽を見る。

 この先間違いなく、死闘が繰り広げられる。それは救羽をも巻き込むものになり得る。

 実際、今回もそうなってしまった。

 この少女を守るためならば――そう思い、『スピア・ザ・トラウィス』を固く握りしめる。

 決意を新たにしたリオは、強く地面を踏みしめて歩く。

――こうして戦士たちは、帰途につく。


***


「……オイオイ、こりゃ酷いねェ」


 戦いが終わった後にも、群がる者はいる。

 四肢をもがれ、下半身を失った『九体天コスモス』の残骸を前にしゃがみ込む、ある男が呟く。

 彼は全身黒の服に身を包んでいた。黒のスラックスに、黒のシャツ、黒のコート。髪も黒く、肌も浅黒い。

 ただ、瞳だけは真っ赤に染まり、見る者を射抜く眼力がある。

 今は、耳にイヤホンとマイクが一体になった機械を付けている。アンテナに似た物が備わっているから、無線で通話が出来るのだろう。

 漆黒の男は、無残な死骸のところにしゃがみ込んで、苦笑しながら感想を述べていた。


「しかも、コイツ、『九体天コスモス』とかいうチームの一員だったよなァ……こんなこと出来る人間がいるってことかァ?」

『その人、強いのでございますですか?』


 無線を傍受したイヤホンから、少年の声が聞こえる。少し日本語が怪しいが。

 漆黒の男は答える。


「ああ、馬鹿みたいに強いって噂だァ」

『そんな人を、人間が倒せあそばせるのでしょうか』


 何故そんな言葉遣いが出てくるんだ、と思いながら、漆黒の男は一方で少年の意見に同意する。言葉はおぼつかないが、彼は状況を見聞きして判断することに長けている。

 確かにその通りだ。

 並の魔人――人間の数倍の身体能力を持っている下級の魔人ですら、まず敵うはずもない相手に、ここまでの深手を負わせて殺せるのは、人間ではまず不可能だ。

 ここは漆黒の男の思考の及ばなかったところではあるが――最強と目される人間、、たちならまだ分からない。しかし、人間と魔人とが激突する理由はまずないだろう。仮に激突しても、この様になるまでやり合うとは思えない。

 となれば、魔人が他にもいると認めるしかない。

 同類の魔人、、、、、は人間界にいるが、その仕業とも思えない。そもそも、立ち向かえるのは、あの娘、、、くらいだ。


「……アイツ、、、がここまでするとも思えねえしなァ」

『……それで、目的のモノは見つかりましたですか?』

「ああ、そうだったなァ」


 漆黒の男は、少年に言われて思い出し、ミカの周囲を探る。

 だが、何も、、見つからなかった。それもそのはずだ――かの『史上最強の回収者』が持ち去ってしまったのだから。それを知るはずもない漆黒の男は、溜息をついた。


「ダメだこりゃァ。さっさと帰るぜェ」

『……分かりました』

「ったく、どこの泥棒だァ?お蔭で『盗め』ないじゃねえかよォ」

『仕方あるないですよ』

「……お前、それどっちだよォ?あんのかァ?ないのかァ?」

『……はい?』

「……ったくよォ」


 別の意味で溜息を吐いた漆黒の男は、後頭部を軽く掻きながら、立ち上がった。


「何か収穫があるかもしれねェと思ったが、特にないなァ。ソウイチ、帰るぞォ」

『……何を言っているのでござりますか、ユアンさん』

「……アァ?」


 反駁してきた少年――ソウイチに対して、漆黒の男――ユアンはいぶかしむ。

 ソウイチは、丁寧に返答した。


『魔人が他にいる――加えまして、何とおっしゃりございましたか、コスモス、でしたましたっけ。強い敵を倒せあそばせるのですよ、その人たち』

「……そうだなァ」


 これを指摘されないと気付かない辺り、少し心配ではあるが、ユアンはそのことに納得し、言った。


「そんじゃ、まずはそいつ等を探して協力を仰ぐかァ」

『協力してくれる人でしたらよろしいでしょうね――強い人、変人でござりますから』

「……だなァ」


 ユアンは「変な言葉使っているお前も大概だ」と思いながら、家路につく。ソウイチも――ずっとユアンから少し離れたところで、ライフル、、、、を構えていたのだが、そそくさとその場を離れた。


***


 そして、戦地跡に立ち寄る影は、もう2つあった。

 そこは、60人の人間の死骸があった、、、場所――今ではその3分の1が、食料として持ち去られているのだが――マスカレードとリオが、1分以内に60体の『人形』を片付けた跡地だった。


「うわ、やられてんなあ、やっぱし」


 そう言うのは、地味な印象を与える、10代前半の少年。胴体と切り離された頭をしげしげと眺めながら、そう言った。


「酷いなあ、この僕によって操られていた人形共を片端から切り裂いてくれやがって……しかもいくつかは燃えちまっているみたいだし」


 独り言を言い続ける少年の隣には、1人の女性が立っていた。ジーパンにYシャツ、という簡素な服装をしている――完全に動きやすさを重視している。だが、ボブカットの銀髪があってか、少し目立つ。

 彼女は何も言わずに、そんな少年の行動を見ている。


「……何見下ろしてんだよ、『フレール』」


 少年は女性――『フレール』に対して、あからさまな敵意を向けた。

 だが『フレール』はどこ吹く風だ。そんな敵意などどうでもいい――とでも思っているかのように。


「……クソ腹立つよなあ、僕に勝てる奴なんか、この世に存在しないって言うのに」


 あまりに子供じみた、傲慢なセリフを吐き、少年は、切断された首を後ろへ放り投げた。そして、話を勝手に自分で戻す。


「しっかし、一体誰がこんなことを――お蔭で、『マキナ』の言う標的を捉え損ねちまったじゃないか」


 そう言うと、少年は立ち上がって、両腕を組み、考え始める。


「まあ、でも、人間業じゃあないな――『往名』ならまだしも、って感じだが、そうそう出てくるとも限らないし。ってことは、60人の心を壊すだけじゃ不十分か。面倒臭いなあ――この僕に面倒をかけるなんて、いい度胸しているよ本当に」


 そして、手近にあった首と腕とを持ち、独り言を続ける。


「ただ、僕の『操失術』は、今の60人が限度だから――何とか、その60人を超える術を身につけないとならねえな。1人1人にかけているからダメだとすると、ネットワークのようにして、1人分の力で数人を……」

「ねえ、『キング』、考え事なら後でやってくれない?暇なのよ」


 至極どうでも良さそうに、少年――『キング』の言葉を遮ったどころか、「お前の行動は無意味だ」とでも言わんばかりの発言をする『フレール』。

 流石の『キング』も、ぶち切れそうになる。


「ああ?お前も、人形になりてえのかよ、クソビッチ」

「……早く帰りましょう、童貞」

「うるせえっ!大体俺は童貞じゃねえッ!」

「え」


 さらりと爆弾発言。流石の『フレール』も少し動じるが、すぐにいつものように、我関せずな態度に戻る。


「まあ、どうでもいいわ」

「どうでもよくねえんだよ――クソ、こんなことなら『ウインド』か『ストーム』でも……いや、同じだ」


 『キング』の仲間であるらしい『ウインド』や『ストーム』は、ひょっとすると今の『フレール』よりも酷いかもしれない、と思った『キング』は、溜息を思わずついた。


「……クソ、分かったよ、帰りゃいいんだろ、帰ればよお。データは頭に入れたから、後は自分で考えるさ」

「……ニートめ」

「……お前、いつか殺してやる」

「……童貞抜け出した淫乱少年め」

「やっぱり今すぐ殺してやるよ!」


 キレる『キング』を、どうでも良さげに軽くからかう『フレール』。物騒な会話をしながら、しかし殺し合いに発展することはなく、2人もまた、帰るべき場所へと歩んでいた。


Chapter 2 –“Monster World”—is the END.

Next chapter –“The Piece of Revenges” –will come.


――――――――――

後書き。


 ここまでお疲れ様でした。ゴウです。

 話は更に異能力戦へと向かっていきますね。最後に出てきた新キャラは誰なのか、それは次の章ですぐ明らかになりますのでお楽しみに。

 とんでもな異能力者達の、スラム街バトルはまだまだこれからですよ。


 さて、話はこのくらいにしておいて、マスカレードが用いた本の出典を以下に載せておきます。参考にしたい方は是非お読み下さい。(実は読んだことない本も中にはあったりする……)

 引用、剽窃はないと分かると思いますが、どこにその残滓が見られるか探してみてはいかがでしょうか(勿論これも暇人の遊び)。


・フィッツジェラルド『グレート・ギャッツビー』

・ザミャーチン『われら』

・ヤコブ・ビリング『児童性愛者ーペドファイル』

・田山花袋『少女病』

・ポー『盗まれた手紙』

・芥川龍之介『侏儒の言葉(遺稿)』

・三島由紀夫『金閣寺』


 という訳で、次章「ホワイツ・セーブ・インセイナーズ。」をお楽しみに。


ゴウ

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