破壊の杖、始まりの終わり。

 マスカレードが振った杖を一瞥して、ミカは嘲笑した。


「あはははははははははっ!!そんなもんで何が出来るんだよ!!お飯事ままごとでもしてえなら子供に帰れよおおおおおおおおお!!!!!」


 すかさず、マスカレードも返す。


「お飯事ですって?ただ喚いているあなたは差し詰め赤ん坊ですか?」

「くふふふふふふっ、赤ん坊だァ!?おぎゃあああああ、ってかあ?羯諦ぎゃてい羯諦!!南無阿弥陀仏!!!」


 ミカは、無数の光の槍を生成した。


「……何であなたが真言宗と日蓮宗を知っているのかは分かりませんが」


 マスカレードは、杖を再び振るう。


「どちらにしろ、あなたは成仏されることはないでしょう――地獄に落として差し上げます」

「死ねえええええええええええええええええええええええええっ!!!!」


 光の槍が、マスカレードを襲う。

 だが、彼は薄く笑みを浮かべただけだった。

 そして――持っていた杖を、思い切り地面に叩きつけた。

 突然の不可解な行動に、当然ミカも首をかしげる。


「ハァ?お前何やって――」


 と、ミカが言いかけた瞬間。

 全ての槍が、消し去られた、、、、、、

 一体何が起こっているのか、彼女には全く分からなかった。


「――何だそれは」


 冷や汗をかいているのが、狂っているミカにも分かった。

 マスカレードの持つ杖が、ただの杖ではないことも分かった。

 見た目には何の危険性も感じないというのに、今の芸当を目にした時に怖気を感じた。

 明らかに、あの杖は異常だ。

 そう、『破壊光線オルタナティブ』と同じ、、、そんな異質さ。

 だがマスカレードは、ミカの疑問に答えない。


「さて、何でしょうか?」


 ミカのそんな思考をさておいて、続けて杖を地面に叩きつける。

 刹那。

 ミカの肋骨が、左半分全て砕かれた。


「ッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」


 倒れ込み、声にならない悲鳴を上げた。

 すぐさま、骨の代理を『破壊光線オルタナティブ』が務めて事なきを得るが、ミカは、直感する。

 こいつは、すぐに殺さないとならない。

 真っ直ぐ、マスカレードを見据える。


「テメエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!!」


 数百と言える光の鞭のようなものを突出させ、全てをマスカレードに向ける。そして、四方八方から攻撃を浴びせんとする。

 だがマスカレードは、特に何をするわけでもなく、ただ地面に杖を叩きつけた。今度は、かなり力強く。

 鞭は全て消え、ミカの左脚までもが砕け散った。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 『破壊光線オルタナティブ』で、どんどん彼女の体は入れ替わっていく。

 そう、その『破壊光線オルタナティブ』と、マスカレードの振るう杖は、全く同等の威力を持つ『魔武器ウェポン』――『即用型魔武器フロム』なのだ。

 杖の名は、『呪殺杖ストロードール』。

 通称、『歓迎する悪魔』。

 かつて適用者が多数おり、多数の魔人たちで奪い合いになった、悪魔のごとき兵器。それにマスカレードが打ち勝ち、現在は彼が所有している。

 この『即用型魔武器フロム』の性能は、たった1つ。

 『杖を傷つけると、任意の対象に傷を負わせることができる』というものだ。傷つけた時の威力によって、相手に負わせる傷の深さも変化可能だ。


「かきくけこっここここここ――――コロコロコロコロ……」


 ミカは、複数の大きな光線を繰り出す。

 攻撃をしようとするその目には、敵意どころか、生気すら残っていなかった。

 言語体系すらも、もはや風前の塵だ――ほぼ理解不能である。

 もはやミカは、生き物を全て殺す兵器と化していた。


「殺――すせせしそさそみそしおおおおおおおおおおおお!!!!」


 光線を、次々と順に繰り出す。

 マスカレードは、杖を叩いて光線を排除するが、すぐさま次の光線が別方向から向かってくる。

 それを後ろに飛んで辛うじて避けながら、着地地点で地面に思い切り叩きつける。先程向かってきた光線と、地中から迫って来ていた光線が、両方消え失せた。

 するとまた次の光線を、四方八方から飛ばす。

 どうせ消え去るなら、物量で攻める――単純な戦法を、ミカは選択したのだ。


「クソッ!」


 マスカレードは、次々体を消し飛ばそうと強襲する光を避けることに専念し始めた。

 その理由は、『呪殺杖ストロードール』の副作用、、、を恐れたためであった。

 そして実際、その副作用が彼を蝕む。


「ちょこまかと――ガハッ!!」


 軽快に避け続けていたマスカレードが、突如喀血した。

 別に、ミカの攻撃を受けたわけではない。

 これこそが、『呪殺杖ストロードール』の効果だ。

 呪いの人形ストロードールは、呪っているところを見られると自らがその報いを受ける――だからこそ、見られてしまったら呪いの実行者は、目撃者を殺しにかかる。

 その伝承は、この『即用型魔武器フロム』でも忠実に守られていた。

 相手を呪うかのように、反則的な攻撃を『呪われた』本人の目の前でし続ける。『呪っている』ところを見られているからこそ、自らがその報いを受けるのだ。

 報いは、体内の破壊。最終的には内臓が破裂して死に至る。

 勿論、使いすぎなければいいのだが、あまりに使いすぎると良くない。

 長期戦、対多戦闘に全く向かない『魔武器ウェポン』なのだ。


「……願いを叶えるはずのただの藁人形の癖して、中々エグイ真似しますよね」


 薄く笑いを浮かべながら、マスカレードは覚悟を決める。

 こうなれば、短期決戦に持ち込むしかあるまい。

 地面を思い切り踏みしめ、体勢を整える。

 勢いよく蹴りつけ、一気にミカの元へと駆ける!


「アアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

「クハハハハハハハハハハハハッ!!!!」


 ミカは両手をサーベルに変え、斜めに振り下ろしてマスカレードを斬殺しにかかる。

 彼は、耐えられるかどうかは分からないが、地面に『呪殺杖ストロードール』を叩きつけようとする――サーベルを排除しようとしたのだ。

 ここで使い、後は完全にミカを殺すために使えば、もう自分も死ぬかもしれない。

 決死の覚悟で振り下ろしたが。

 その必要は、なくなった。


「マスカレェェェェドォォォォォォォォォォッ!!!!」


 リオが目の前にやって来て、サーベルの斬撃を全て受けとめた。

 筋肉が裂かれ、骨が断ち切られ、血を噴出させながらも、彼はマスカレードに叫ぶ。


「行けェッ!!!」


 戸惑う時間はなかった。


「――ああ!!」


 マスカレードは突如の乱入に戸惑ったミカに、最後の一撃を喰らわせる。

 杖が振り下ろされ、胸から下全てが吹き飛んだ。と同時に、規定量以上のダメージを受けて体が耐え切れなくなったのか、『破壊光線オルタナティブ』が消え去った。

 四肢をもがれ、左の肋骨が折られ、胸から下を失くした、変わり果てた魔人が、地面に叩きつけられた。

 勝負は、決した。


「――ッ、大丈夫か、マスカレード」

「3枚おろしにされかけた魔人に言われたくありませんよ、まったく……」


 苦笑しながら、『呪殺杖ストロードール』を虚空へと消し去ったマスカレードは返す。

 ミカからあれほどの、トラウマになりかねないほどの残虐な行為をミカから受けておきながら、なおも親友を助けるべく飛び込んでくる。

 本当に、優しい人だ――と心の中で呟いた。


「折角助けてやったのにその言い草はねえだろ」

「いやいや、まさか突っ込んでくるなんて思ってませんでし――ガハッ!?」


 マスカレードは、再び喀血した。『呪殺杖ストロードール』の副作用が絶大だったのだ。


「おい、大丈夫か!」

「……ええ、問題ありません。――そういえば、あの少女はどうしました」

「ああ、クーなら、お前の連れに預けたよ」


 リオは後方を指差す。

 そこには無傷のフォースが、救羽を抱えている姿が視認できた。

 あのミカの攻撃は、救羽が発動した謎の力によって、全て防がれていたのだ。そして、救羽だけがフォースを上回る速度で駆け、この戦闘の場にやって来た、ということらしい。

 たかが人間がそんな真似はできるはずがないが、マスカレードは、妙に納得してしまった。

 あの時――救羽がリオを助けた後、ミカの攻撃をことごとく防いでいる場面を眺めた時に、マスカレードは見たのだ。

 救羽の背中から射出された、微かな異質の力を。

 それはまるで、羽のようでもあった――まるで、天使の羽、、、、のような。

 天使。

 なんと馬鹿馬鹿しい表現だ。

 フォースとまるっきり同じことを思ったが、ここら辺で思考をやめ、マスカレードはミカの方を指差して言った。


「それよりも、標的にとどめを」


 瀕死状態の『九体天コスモス』は、しかしまだ死んでいなかった。ここまで来ると流石化け物と言ったところだが、最早戦う力は微塵も残っていないだろう。


「……そうだな」


 リオは、『浄火』をたぎらせながら、ミカのところへ歩み寄る。

 彼女の目には、相手を射抜く消えかかりの眼光が灯っていた。

 だが、リオにはそんなもの関係がなかった。


「……煉獄に焼かれて死ね」


 罪人を焼く炎に、ミカは包まれる――はずだった。


「――ククッ」


 何も身に起きていないミカは、血反吐を吐きながら微かに笑う。

 リオは、困惑していた。

 例の『緑の本』には、確かに罪人として載っていたはずである。つまり『浄火』に触れられれば、逃れる術はない。

 だというのに、この女は火だるまにならない――罪を償わない。

 あの時は、『破壊光線オルタナティブ』の『破壊』の効果で、『浄火』の効果が破壊されていたのかと思っていた。

 だが、その『即用型魔武器フロム』が消え去った以上、最早そういうわけでもなさそうだ。


「残念、だねえ……」


 困惑したリオに、血で塗れた真っ赤な歯を見せながら、言葉を紡ぐ。


「私には、そんな炎効かないよ、、、、、、、、、


 まるで後頭部を殴られたかのような衝撃が、リオを襲った。

 効かない。

 だが、そんなことはあり得ない。断じて。

 『浄火』に例外はない。

 何故だ。

 何故なのだ。

 頭の中が、疑問符と困惑とで埋められていく。

 そこに、ナイフのような鋭い言葉が入り、思考は中断された。


「――いつか、死んで詫びろ、犬ッコロ、、、、


 瞬間、ミカは、一切の挙動をやめた。

 それが、彼女の遺言だった。

 出血多量という何とも言えない死因で、『九体天コスモス』の1人、ウェーヌス・ミカ・ルシュタルは死亡した。

 先の暴言に対して、リオは、亡骸に言い返す。

 何をも達成できずに終わった、死した彼女に。


「――犬死にした奴に言われたくねえな」


 マスカレードの依頼は、これにて完遂されたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます