破壊光線。

 リオとマスカレードは、ほとんど防戦一方だった。

 ミカの振り回す『破壊光線オルタナティブ』が、あまりに強力なのだ。


「クッハハハハハハハハハハハ!!バラバラになれ!パラパラしちゃえ!粉々ァ!粉薬!!」


 言葉はより壊れていく一方だが、それに呼応するがごとく周囲の物を粒子に変えていく。

 と、ミカは、右腕を形作っていた光を、背丈の数倍の長さもある刀の形に変えた。それから、横薙ぎにしながら腕を後ろへ持っていく。

 2人の魔人は、飛ぶことで避ける。

 だが、それがまずかった。背後へと持って行った刀を、ミカはゴルフで球を打つかのように前へと振り直す。地面は一切刀を押さえつけることなく進むどころか、刀の触れた箇所全てが消え去っていく。

 その軌道上にいるのは、空を飛ぶマスカレードの右半身。今のままでは避ける術がない。

 すかさず彼は、ミカに向かって『マスター』で撃つ。

 しかし、魔力によって生み出された弾は、『破壊光線オルタナティブ』による弾丸で相殺された。右肩に銃が埋め込まれているかのように、光の弾丸が発射され、『マスター』のものと衝突したのだ。

 状況は変化せず、右半身に凶刃が迫る。


「クッ!」


 マスカレードは瞬間、苦悶の表情を浮かべながらその右半身に変化を与える。

 ぐにゃり、、、、、と。

 身体が、丁度光の刀を避けられるように、ゲル状のようになり、細胞自体を動かしたのだ。

 刀を避け、元の体に戻す。そしてすぐさま、真っ直ぐに伸びた光から距離をとる。


「……お前、そんなこと出来たのかよ」

「当たり前ですよ、他者にもなり代われるんですから。ただ、腕よりも多くの骨とか、内臓とかを変えなきゃいけないので、痛いんです」

「おーいおいおいいいいいい」


 2人が会話をしていると、ミカが割り込んできた。


「無駄無駄無駄ァな話してんなよー?命をもぎ取るぞ!はぎ取って煮詰めて美味しく食べてやろうかァ?」


 そして、途轍もない量の光の線が、ミカの背中に生成される。

 2人は、背筋が凍った。

 ニタニタ笑いながら、ミカは無言で、無数にも見える条線をリオとマスカレードに放つ。

 リオはギリギリで避け続ける。時に1本に突き刺さられると、その隙を狙って体を串刺しにする。再生はするものの、なるべくなら当たりたくはない。

 後退し、少し屈み、それから少し前に駆け、すぐに止まり、横に移動する、といったように避けていた。

 一方でマスカレードは、リオのように当たることは許されない。だが、流石は『史上最強の回収者』、リオよりも無駄が遥かに少ない動きで全ての光を避け続ける。どころか、隙さえできれば『マスター』で本体を狙い撃ちにする。無論、その弾は全て光線に遮られ、本体には届かないのだが。

 光線をギリギリまで見据え、体を90度回転させ、頭をうつむけさせ、一歩前進。瞬間、本体へ通じる道を見つけ、その軌道上に乗せるように魔力の弾丸を放つ。それは音速以上で飛ぶが、光速で動く光線に悉く防がれる。


「あーうぜぇ」


 ミカは、そう言うと、全ての光線をマスカレードへと向ける。


「吹っ飛んじゃえ」


 マスカレードは、しかし、ニヤリと笑う。


「やれるものならどうぞご勝手に――但し」


 そして、全ての光線を、薙ぎ払った。


「あなたのような者に安々とやられはしませんよ」


 手には、身の丈ほどに伸びた『神合槌ゼトール』が握られていた。救羽を預けて逃がす際に、こっそりと貰ったのだ。

 フォースに劣るとはいえ、彼も軽々と『神合槌ゼトール』を持ちあげられるのだ。

 くるくると鉄槌を片手で回しながら、マスカレードは続ける。


「さあ、大人しくしなさい」

「やだね、まだ遊びたいからなああああっ!」


 今度は、光で形作られた腕を構える。しかしその方向は、マスカレードにも、リオにも向いていない虚空だ。

 いよいよ狂ったか、と2人が思うのも束の間、ミカはこれだけ言った。


「がぁらぁあきぃ」


 その一言で、リオもマスカレードも意味を悟った。

 がら空き、、、、

 それは他でもない、フォースと救羽のことだ。

 だが悟るよりも一瞬前に、ミカは光の腕を、2人のいる方向へ光速で伸ばした。

 それでもリオは『浄火』を当てようとし、マスカレードは『神合槌ゼトール』で殴り殺そうとする。

 だが、それらは全て『破壊光線オルタナティブ』に妨げられる――近くにあったビルが、『破壊光線オルタナティブ』によって根元を切断され、3人めがけて落ちて来たのだ。

 距離をあっけなく取られ、攻撃は届かなかった。

 そして、そのままフォースとミカに伸びた腕は、彼女らを――。


***


 救羽は心配だった。

 リオの不死身を知っているから、帰って来るのは確実なのに。

 この感情の根源が何なのか、彼女には分からなかった。

 当然、それを話したところで、フォースにも分かるはずはないだろう。

 マスカレードに尋ねたとすれば、こう返答されるに違いない。


『それはきっと、死に過ぎる、、、、、ことが不安なのですよ――あまりリオさんに傷ついて欲しくないけれど、リオさんは無茶をするかもしれませんからね』


 救羽は今この答えに辿り着くことは叶わないが、このマスカレードの仮の返答は的を射るものである。

 死に過ぎることへの心配――傷つきすぎることへの心配。

 体には残らないが、脳細胞に刻まれる傷の記憶が、彼を蝕んでいくのではないか。

 救羽は、その負の感情を押し潰すように、両手を合わせる。


(神様……!)


 『無事』を祈る。だが、その当の「神様」が、今回の大元の依頼主であることを、救羽は知らない。

 この世にご都合主義は存在しない。

 あるのは、必然的な原理原則と、偶然くらいなものだ――「神様」は、この戦闘の結末を操ることなど出来ない。

 結末を操ることが出来れば、そもそも依頼などしていないし、もっと言うならば、『煉獄官』や『回収者』といったものを設ける必要もない。

 そう、「神様」は万能ではない。全知全能ではない、、、、、、、、。多くの人間はそれを認めはせず、「試練」などという言葉で片付けようとするが、それこそ「ご都合主義」という奴だろう。

 この世の悪や自らに降り注ぐ災厄は、全て信仰を試すための「試練」である――「全知全能」ならその苦悩を起こさせないことも出来ると言うのに。大体、信仰を試すも何も、「全知」で見通せばよいではないか。それでも神様を「全知全能」であらしめようとするのは、人間側の都合ではないのか。

 神が実在するとすれば、それは「人間より能力が異常に高い者」でしかないのかもしれない。

 魔人と同じ、そんな者なのかもしれない。

 いや、明らかに魔人以上なのだが。

 閑話休題。

 フォースは離れ続けていた。先程までいた場所に、途轍もない量の光線が生み出されているのが見える。

 その渦中にいるマスカレードの身をおもんぱかりながら、救羽を安全圏へと逃がす。ビルとビルの間を飛び、なるべく速く。

 しかし、フォースは悩んでいた――どこに逃がすべきなのか。

 一度『破壊光線オルタナティブ』の威力を目にしたからこそ言えるが、あの『即用型魔武器フロム』の射程範囲は広い上、触れた物を粒子に変えてしまう――つまり、貫通もお手の物だ。

 反則級の武器を前にして、一体どこが安全なのか。

 フォースは考え続けていたが。

 その時に、少しだけ見えた。

 光が、こちらへ向かってきているのが。

 数瞬でこちらへ到着する。

 避ける手立ては、あるわけがない。『神合槌ゼトール』の無い今、体全てを粒子に変えられてお終いだ。仮に何かを犠牲にしたところで、2撃目で死ぬ。

 フォースは、ビルに足をつける前に、救羽を手放す。


「きゃっ!?」


 投げ飛ばされ、ビルの屋上に寝転がった救羽がその刹那見たのは。

 笑顔で救羽を見つめ、光に呑まれんとしていたフォースの姿だった。


「ふぉ――」


 叫ぼうとしたところで、全てが光に呑まれた。


***


「あははははははははははっ!!手応えッ!あった!!探し物が見つかったやったねえ!」


 ミカは、攻撃が当たったのを実感した。つまり、それは。

 ――瞬間、我を忘れてリオは突っ込む。

 あの光で、救羽は、どうなった。

 死んだのか。

 生きているのか。


「クソ野郎がァァァァァァァァァッ!!!」


 『浄火』を、体に当てる。

 しかし、一切燃え尽きない。

 再び驚愕するリオだが、そのままもう片方の手で顔面を殴ろうとする。半ばやけくそだった。


「けははははははっ」


 ミカはその拳を『破壊光線オルタナティブ』の手で溶かす。

 そして、強烈な蹴りで吹き飛ばした。


「っ、がっ!!」

「けはははっ、あんよがじょーずぅ!」


 今度はマスカレードに突っ込む。

 光の手。ただの手。光の蹴り。ただの蹴り。光の槍。光の剣。

 あらゆるものが飛んでくるが、最小限の動きで避け続ける。

 だが、相手の武器が多すぎる。直に限界がくるだろう。

 その時が、マスカレードが死ぬ時だ。


(……さて、どうしますか)


 避け続けていると、リオが顔面を蹴り、ミカを吹き飛ばす。だがミカはあまり堪えていないようで、ケタケタ笑っては再び突っ込んでくる。

 マスカレードは、考える。

 フォースを殺したかもしれない、、、、、、――殺したかどうか断定できないから、生きていると祈っているのだが、とりあえずのところは、憎き敵であるミカを殺すためにはどうすればいいのか。

 今手持ちの『魔武器ウェポン』は、全て合わせて222種類。

 内、遠距離攻撃用は半数ほど。

 『破壊光線オルタナティブ』に対抗できるものは、そのごく一部。

 その中で、勝利する可能性の最も高いものが、たった1つ。

 それは、『歓迎する悪魔』とも呼ばれる代物――『即用型魔武器フロム』の1つだった。間違いなく、最強の武器の1つと言えるだろう。

 もう、他に選択肢はなかった。

 『神合槌ゼトール』では、最早倒せない。隙を突かれて終わる可能性の方が大きい。何より、『歓迎する悪魔』の方が、断然に成功率が高かった。


「リオさん」

「……何だ」


 殺意をこれ以上なく燃やしながら、上辺だけ冷静にリオが返答する。

 マスカレードは、無理やりにでも冷静になった彼に感謝しながら、ある提案――『即用型魔武器フロム』の使用を告げる。

 欠点、、と共に。


「今度は私の提案ですが――成功確率は言ってしまえば半々です。発動に時間がかかるので」

「……なるほど、か」


 リオは、納得した。

 確かに、それならばミカを殺せる。

 迷う時間は、彼には無かった。


「ええ、その通りです。リオさん、なるべく時間を稼いでくれますか」

「ああ、承知した」


 リオは、憤怒の表情で指を鳴らしながら、ミカへと相対する。

 ミカは、愉悦の表情で腕を振りながら、リオへと突っ込んでいく。


「――俺が殺してやる、かかって来い狂人」

「あはははははははははははっ!!遊んで壊してあげるよおおおおおおっ!!」


 炎の手と光の手がぶつかり合い、緑の男は両の手を合わせて何かを呟き始めた。

 戦いは終わりに近づいている。




 ――そこに、介入者、、、が来ることなど、誰も知る由はない。

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