リ・バトル・ウィズ・ザ・ビルディング。

 『不死身』のリオと、『九体天コスモス』のミカは、対峙していた。

 お互い、1歩も動かない。


「……退屈ね」


 2秒でしびれを切らしたミカは、『スピア・ザ・トラウィス』で光刃を射出し、強制的に戦いの火ぶたを切った。リオは、それを避けてミカの元へ駆ける。

 勝利方法は2つ。

 1つは、『浄火』を当てること。罪人を燃やし尽くせるのだから当然である。

 もう1つは、持ちこたえること。そうすれば、自然とミカに致命傷を与える打撃、、、、、、、、、が加わることは必至である。

 『浄火』を纏った右手をミカに打ち込もうとする。


「怖いじゃないの」


 光刃で目を切断する。すぐに再生するが、復活した視界にミカの姿はなかった。

 刹那、背中から強烈な打撃が加わった。リオは、そのまま向かいの壁にまで吹き飛ばされる。


「まあ、触れなきゃいい話なんだけど」


 目を切断し、その隙に背後に回り込み、背中を蹴りつける。単純な動作を、ミカは行っただけだった。

 リオはすぐに起き上がり、再び突進する。

 ミカは連続で刃を発射する。それらを次々避けながら、リオが再び近づく。

 ミカは舌打ちをする。


「ちょこまかと――うざいわ」


 すると、『スピア・ザ・トラウィス』に光が纏わり付き始める。それはやがて、長いリーチを持つ刀となった。


「『ソード・ザ・トラウィス』――切り刻んでやる」


 ミカの姿が消える。

 瞬間、リオの脇腹が切り破られた。

 再生しながらも、リオは後ろを振り向く。が、誰もいない。


「遅いわねえ」


 いつの間に、リオの目の前にいた。そのまま体を一刀両断した。

 全ての傷は再生するが、あまりの速さに太刀打ちが出来ない。


「自分で言うのも何だけど、私は身体能力には自信あるんだからね――スピードなら『三技』の1人、『オレンジの悪魔』に引けをとらないわ」


 リオはその言葉を聞き流しながら、考えていた。

 明らかな劣勢だ。というよりは、遠距離攻撃が主だと思ったら、近距離攻撃をも主としてやって来ると知って動揺しているというのが大きい。

 不死身の兵は、戦闘に疎いのだ。

 だが、不利だろうと、押されていようと――後数十秒で勝利に近づく1歩を踏み出せる。

 とはいえ、早めの決着を望むのならば、『浄火』を当てることが先決だ。

 戦いは、死ぬ気、、、でやらなければならない。


「さて、次行くわよ」


 しかし、高速移動をするミカを一体どうやって捉えると言うのか。

 その策は、思いついていない。

 考えている内に、今度は右腕を切断された。

 宙を舞う右腕。右手には『浄火』が宿っている。

 本来ならば、普通に右腕が切断面とくっついて再生するのだが、今回はそうはならなかった。

 再生する前に、右腕が燃えてなくなってしまった。


「……ん?」


 ミカは、リオの方を向く。

 右腕が再構成を始め、僅か2秒で元に戻った。そして、右手には再び『浄火』が灯る。

 一部始終を見たミカは、思う。

 煉獄官が宿す炎は、罪人を焼き殺す炎。

 確かに、煉獄官が罪人であろうとなかろうと、燃やさないようにはできるだろう。

 しかし、確かに先程、右腕が燃え尽きた。

 つまり。


「なあなあ――お前も罪人、、なのか?」


 リオは、答えずに臨戦態勢に入る。

 その行動に、ミカはキレた。


「おい、質問に答えろ偽善野郎」


 走り出し、ミカを燃やそうとするリオに対し、彼女は刀を構えた。

 居合斬り。

 それを、高速で数百。一瞬で繰り出した。

 リオの体は粉微塵になり、炎を有していた右手部分だけが燃え尽き、残りは全て元通りにくっつく。

 リオが振り向くや否や、再び木端微塵にされる。


「ふざけているにも程があるよねえ!罪人が罪人を裁くなんざ、どこの漫画の話よ!!」


 そのセリフを言っている間に再生し、再びみじん切りにされる。


「しかも罪人を捕まえるのではなく、殺すときた!何よそれ!」


 ミカは、怒りに任せて切り刻み続ける。


「お前にとっての『悪』は何?――ああ、訊いちゃいないから答えなくてもいいけどさ、それを裁くのが『正義』とか思っているわけ?『正義』は何をしても許されるの?行動が『悪』と同じでも、理由さえあれば正当化できるとでも?例えば復讐は?正当防衛は?――ふざけんじゃないわ」


 再生と破壊を繰り返しながらも、リオはその言葉を聞いていた。

 だが、思ったことは1つだけだった。

 リオは、ミカを蹴って吹き飛ばした。


「かっ――!!」

「なら俺からも1つ質問だ」


 立ち上がろうとするミカに、言葉を浴びせた。


「お前の今までしてきた行動はどうなんだ。『正義』か?『悪』か?――今まで散々人を殺しておいてそりゃないぜ」


 要するに、とリオは言う。


お互い様だ、、、、、。俺だって、殺したくて殺しているわけじゃあない」


 その時にマスカレードの姿が思い浮かぶ。別に彼は、殺したいから殺す、というような殺人鬼シリアルキラーではない。

 殺すことが悪だと分かった上で、殺すことに何の罪悪感も浮かばないのだ。

 つまり、「殺す」という「概念」に対する感情と、「自分が殺す罪を犯す」という「行為」に対する感情とが、分離しているのだ。

 更に言い換えれば、自己中心主義である。自分に関してはどうでもいいのだ。なりふり構わず相手に嫌味や暴言を吐くあの性格には、非常に合っている。

 だが、リオは違う。

 罪人を焼き殺す「仕事」を任とする『煉獄官』ではあるが、相手を殺すことに罪悪感を抱く。表に出さないのは、それを押し殺しているからに過ぎない。

 いや、慣れてしまったから、無意識に押し殺せるようになったのかもしれない。

 逆に、そうでもしないとこの仕事は務まらない。

 もっと言えば、人を殺すために『煉獄官』になったのではない。

 そんな考えを知ってか知らずか、ミカは。


「じゃあお前、何でこの『仕事』やってるのさ?」


 と、核心的な質問をした。

 何故やっているのか。やり始めたきっかけは何か。

 そんなものは、ただ1つだった。


「……悪を裁き、世界を守る、、、、、ためだ。2度と、悲劇を起こさせないためにな」

「……もういいや、お前」


 ミカは、呆れかえった声で言ったかと思うと、獰猛にこう言った。


「ぶっ殺してやる」


 『ソード・ザ・トラウィス』を振り回して、リオの体を真っ二つに裂こうと近づく。

 ミカの動きに対し、リオは避けることはせず、むしろ近づいた。


「あははははははっ!!」


 遠慮なく、彼女はリオの右腕を吹き飛ばし、離れた。

 『浄火』のせいで、中々近づけない。

 そのはずだ、、、、、


(……おかしい)


 リオは、この時に違和感を覚えた。

 『浄火』が怖いのなら、まずは近づかずに遠距離攻撃をするのが普通だ。それこそ、『スピア・ザ・トラウィス』に戻して刃を延々と飛ばしていればいい。

 リオは勿論、ミカも死ぬことはない膠着状態に陥るが、それはさておくとしても、ミカが「生き延びる」には、あまりに無謀すぎる。

 罪人の一切を焼く炎――これが怖くないのだろうか。

 顕現したこの迷いが、僅かではあるが隙を生み、リオをみじん切りにする。


「どうした、悩みごとか?私が聞いてやろうか」


 答える前に殺すけど、と付け加えて、またも再生したリオに近づく。

 リオは、『浄火』を当てようと試みる。

 だが、それをやめた。

 その行動を怪訝に思ったミカだが、理由はすぐにわかった。

 攻撃の手を停止したリオの、後ろにあるガラスのない吹き抜けの窓。

 ミカは確かに、その窓の外に見た。


「……おいおい」


 1人の女が、地上から高く跳躍したのを。

 その手に、ビル1つは簡単に破砕できるくらいの大きさのハンマーを持っているのを。

 それは、背丈の数百倍はあろうかと思われる大きさの『神合槌ゼトール』を掲げた、フォースだった。


「どこまでふざけりゃ気が済むんだよ……っ!!!」


 絶句に近いミカの怒号と、リオの次の言葉とは、同時に発せられた。


「チェックメイトだ」


 そして、ビルは天空から振り下ろされた鉄槌によって、一撃で粉々に破砕され、重力に従って全てを粉々にしながら落下していった。

 地面に到達しても威力は弱まらず、そのままクレーターを作り上げ、それが3メートルの深さになったところで止まった。

 まさしく、一瞬の出来事だった。

 さっきまであった建物が、跡形も無く消え去ったのだ。


***


 救羽は、ビルが倒壊させられるのを黙って見ていた。

 唖然として、の方が表現としては正しいだろうか。

 ――リオの思いついた作戦はこうだった。

 まず、救羽をマスカレードに逃がしてもらう。

 次に、フォースが来るまでなんだかんだと時間稼ぎをする。倒せるならば倒しておく。

 そしてフォースに、リオごと、、、、ビルとミカを破壊してもらう。

 滅茶苦茶にも程があるが、不死身という特性、フォースが向かってくるという状況、そして通常の思考ではまず出ることのない突飛性が成せる技でもあった。

 ――救羽は、崩落するビルを眺めた。

 あそこには「誘拐犯」の女と、リオがいるのに。


「リ――」


 ビルは瓦礫と化し、突風と砂埃を巻き上げた。救羽もマスカレードも、目を覆う。

 煙が晴れると、そこには、既に金槌サイズに『神合槌ゼトール』を戻したフォースが立っていた。

 そこから数歩離れたところに、無傷のリオが立っていた。


「リオさんっ!」


 救羽は一安心したが、リオの雰囲気がそれどころではないと気付き、黙り込む。

 そんな彼らは、同じように下を見ていた。そこには、右半身を、顔以外ほとんど失った、虫の息のミカの姿があった。


「……もう終わりだ、ウェーヌス・ミカ・ルシュタル」


 『浄火』を、ミカへと近づける。


「煉獄に焼かれて死ね」


 そして、触れた。このままミカは焼かれて死ぬ。

 ――はずだった、、、、、


「……何?」


 確かに今、リオはミカに触れている。『浄火』を、当てている。

 なのに、彼女は燃えない、、、、のだ。

 こんなことはあり得ない。例の緑の本に載った以上は「罪人」であり、『浄火』によって焼かれる対象となる。

 焼かれないことは、摂理に反する。


「……うふふふふ」


 死にかけの彼女から、笑い声が漏れた。

 そして、欠けた体を埋め合わせるように、光が満ちていく。


「――リオ、フォース、離れろッ!!」


 マスカレードが叫び、呼応して2人は遠ざかる。

 瞬間、光が四方八方に伸びた。形状はまるで槍のようで、それに触れた物体は、粒子となって消失した。


「――ッ、クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!」


 ミカは哄笑した。

 欠けた右半身は、見事に光で代替され、その形を成していた。出血も止まっている。

 異常な力だ。

 つまり。


「『即用型魔武器フロム』ということですか――」


 マスカレードは、正体を看破する。

 『即用型魔武器フロム』。魔力を必要とせずに力を発揮できるが、代償の大きい『魔武器ウェポン』だ。

 ミカは、それに対して返答する。


「正解正解だいせいか~い!コイツさえあれば何だって出来ちまうッ!!クハハハハハッ!楽しいねえ、愉快だねえ!頭がイカれそうだ!!」


 既に気が触れているが、使用者本人にその自覚はない。

 この武器の名前は『破壊光線オルタナティブ』。

 全てに代替して、あらゆる破壊を尽くす。「代替」や「破壊」は、形状も対象も問わない。今回ならば、欠損した身体を「代替」し、敵を「破壊」する、ということになるだろう。

 この武器の代償は「人格」の「破壊」。使用すれば、元の人格には戻れなくなるくらい、ぐちゃぐちゃに壊れる。


「とりあえず殺すか?サバイバルゲーム?遊びは楽しいっ!!殺しは遊びだ!アッハハハハッ!!」

「……何だコイツは」


 リオは驚愕のあまり声が出なかった。それ程、ミカは支離滅裂に近い言葉を発している。

 マスカレードが、『マスター』を出して言う。


「リオさん、気を付けて下さい。これは危険です」


 フォースは、救羽を離れたところに連れて行く。


「リオさん!!」


 その声にリオは振り向き、笑顔で手を振った。

 心配するな、必ず帰る――とでも言うように。

 その返答に救羽は、不安は消えなかったが、安心はした。

 そして、再び2対1。


「行きますよ――!」

「ああ」

「クハハハハハッ!!楽しい楽しい第2回戦開始ィ!!!」


 勝負を決するために、激突する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます