スリープモード。

 後に残ったのは原型を留めていない肉片たちと、原型を留めていない瓦礫たち。

 そして無傷のまま、その瓦礫の中から出て来たリオだけだった。


「……随分と派手にやったものだ」


 リオは、跡形もなくなった建物を見て言った。

 一先ず、服についた埃を手で払いながら、辺りを見回す。

 何せ、死ぬ間際にあの女が言ったのだ――すぐ、俺の本体、、に会えるよ、と。

 さっぱり理解はできなかったが、女の言葉で大体予測がついた。

 崩落前、リオが女に対して向けたあの質問――刃先の居場所を尋ねた質問で、確かに彼女はこう言ったのだ。女自身、離れた所に1人、そして他に――。


「……おいおい、マジかよ」


 ここで少しだけ聞きなれた声が聞こえた。刃先権平だった。


「何、お前、これでも死なねえの?一体何したら死ぬんだよ――ッ!ガハッ!」


 刃先は砕かれた肋骨が肺に到達しているのか、吐血した。このまま放っておいても、医者も無ければ、医者に行けるとしてもそれだけの金のない刃先は、もう長くはないだろう。

 刃先はやはりここにおいても分かってはいなかった。

 リオが不死身である、という事実を。


「刃物で死なねえ、銃弾で死なねえ、多分爆弾でも――ッ、だから、再生のスピードが異常に速くて、死ぬ前に全て戻っちまうんじゃないか、って思ってたんだけどよ」


 だからこそ、建物を凶器にした、、、、、、、、。大量に降り注ぎ続ける瓦礫ならば全てを押しつぶし、再生される前に肉体を破壊しきるであろう――そう踏んだのだ。

 だが甘かった――いや、無知過ぎたのだ。


「残念だったな、刃先権平」


 リオは右の親指で自分の体を指しながら、しかし嫌そうな顔でこう言った。


「俺は、不死身、、、なんだよ」

「……あぁ?」


 刃先はここで明かされた衝撃の事実に、仰天した。正しい反応だった。


「何だと……?今何て言った?」

「俺は死ねない、、、、んだ」


 瞬間、リオは刃先の眼前まで詰め、そのまま左拳で鼻っ柱を折りながら殴りつけた。


「ガッ――!?」


 刃先は対処できるはずもなく、地面に叩きつけられた。

 追い打ちにリオは、そのまま仰向けに倒れる刃先の肋骨の折れた辺りを踏みつける。


「がああああああああああっ!!!」

「何度も言わせるんじゃねえよ」


 イラついた声で、リオは吐き捨てた。

 不死身の体――それは彼にとっては、呪われた体でしかないのだ。好きでこうなったわけでもなければ、好きで死ぬ前の痛みを味わっているのではない。

 こんなものがなければ、俺は死に続けることはなかったんだ。

 多分、彼女だって――。

 だがそんなことは今は思い出している暇ではない、とリオは刃先に向き合う。

 すると彼は。


「――クククッ!」


 血塗れの顔で、リオに向けて笑ってみせた。

 正直、背筋が凍った。この笑みは一体何だ、という訳の分からなさから来る、純粋な恐怖だった。


「おいおいおいおい、それでに勝ったつもりかよ……甘いねッ、グハッ……!」


 血を吐くが、仰向けに寝ているからそれは全て自らの顔に返ってくる。その血は更に刃先の顔を染めた。


「どういう意味だ――と言っても、大体お前のことは察しがついた」

「ほう、では答え合わせと行こうか?俺は、何者だと思う?」


 その答えを楽しみにしている風に、刃先は笑む。

 リオにしてみればここで殺しても良かったが、やはり異常であったこの男の詳細は知っておかねばならない、という半分義務、半分好奇心から、答えを口にする。


「お前はまず、異能使い、、、、だな?」

「ああ、そうさ。それで?」


 興味を持った刃先に促されて、リオは続ける。


「その異能は、恐らく、自分の魂――或いは意識や人格を他人に、何らかの手段で植え付ける、、、、、ものだろう。その手段は分からないが、恐らく、直接目を見るか、身体に触れるか何かだろう」

「……」


 刃先は、黙ってリオの言葉を待つ。


「だから、お前の通って来た道や、お前のいた場所に限り、意識を植え付けられた奴がいた。意識を植え付けられると、元あった意識――人格とでも言えばいいのか?これは消えてなくなる、、、、、、、。現に、俺は元あった意識や人格を見ていない」


 リオの答えはこれで終わりだった。

 採点官――刃先権平は、その解答に点数を与えた。


「――だーめだ、それじゃ、40点が良いとこだぜ」


 その顔はどこか楽しげだった。

 純粋に、魔人との対話を楽しんでいるようにしか見えない。が、その奥にはまだ何かを隠し持っている気もする。リオはその印象を受けたが、発表された点数に愕然とした。

 40点?

 半分も正解していないということか?


「いや、大まかなところは合っているよ――ッ!ゲホッ……、だがねえ、お前の正体を教えてくれたから、ついでに言ってやると、大前提、、、異能の手法、、、、、に、――ガハッ、大いに問題がある」

「……どういうことだ」

「さあね、お前で考え直せ」


 刃先は、大量の血を吐いた。そろそろ限界だった。


「さあ、て……そろそろ俺も、限界が近いな……もう俺は殺す手段もない。不死身じゃあ、尚更だ……ッ!……とっとと殺せ……」

「……潔いな」

「ハッ、この期に及んで勝てるほど、世界は……甘くはねえ」

「それもそうだな」


 リオは、右手に宿る煉獄の炎を、刃先に当てようとする。


「だが」


 と、刃先はリオを制する。

 いや、挑発、、しようとした。


「2つくらい、死に際の言葉ダイイングメッセージを残してやる、よ……」


 1つ目。

 それを聞いた時、リオの頭は怒りに染まった。

 それは。


「俺の分身が、依頼主を殺しに行っている……もう殺されているかもなあ?」

「――ッ!!テメエ!!!」

「時間稼ぎ楽しかったぜ、魔人さんよォ!!ガハッ、ゲホッ!!!」


 あの異能に関する答え合わせを含む質疑応答は、紛れもなく、刃先の時間稼ぎだった。

 崩落前リオが女に対して向けた、あの質問――刃先の居場所を尋ねた質問で、確かに彼女はこう言ったのだ。女自身、離れた所に1人。

 そして他にもいる、、、、、。彼らは、救羽を殺しにリオの店に向かっていたのだ。

 リオはとっとと刃先を殺そうとしたが、その前に刃先は2つ目のメッセージを告げた。


ヒント、、、として言い残してやる――次は殺す」


 リオは、冷酷にこの言葉を返すだけだった。


「殺せるものなら殺してみろ。――煉獄に焼かれて死ね」


 先の言葉を最期に、刃先権平は紅蓮の炎に焼かれた。絶叫を上げている。後は死にゆくだけだ。そこに、例外はない。

 生死を確認せぬまま、リオは早急に店に戻る。

 路地裏を通るのでは間に合わない。建物を飛び移りながら、最短距離で進む。

 建物から飛び、別の建物に着地する。しっかりと足をつけ、そのエネルギーを利用して走り出す。そしてその助走を用いて、しっかりと地を踏みしめ、また別の建物へ。

 眼下には、血が流れ、鉄が飛び交い、命が潰える場面が流れていた。ナイフで首を斬り、銃で心臓を貫く。腕が跳ね飛ばされ、脚が爆散する。

 そうして、死屍累々が出来上がっていく。

 いつもの『無人地帯』の光景だった。

 そんな死の量産される場面を見ていると、リオの頭の中に最悪の事態が頭をよぎる。

 ――もし彼女が死んでいたら。無残に殺されていたら。

 その時俺は、正気を保っていられるだろうか?

 リオの頭の中に、とある少女、、、、、の死のイメージが、フラッシュバックする。

 彼女の周りには何者かに殺された男女が10人程。全員、見るも無残な殺され方をしていた。何かの怨恨を持った者に殺されたかのようだった。腕が千切られ、腹に穴が開き、ある者の口には別の者の臓物が詰め込まれている。辺り一面、血で真っ赤。

 その中央で少女は、首を斬られて死んでいて、しかもその顔には笑顔があった。斬首された顔とは思えない程、誰かを想う、穏やかな笑み。

 ――生きて、、、

 悲痛な声が、頭の中で響く。


「……ッ」


 リオは嘔吐しかけたが、それをこらえて只管ひたすら店へ向かって跳躍し続ける。

 救羽の無事を祈りながら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます