バトル・ウィズ・ザ・ビルディング。

 間違いなくこの建物だ、とリオは確信していた。

 路地裏を抜けた先にある、比較的状態の良い3階建ての建物。

 建物の入り口付近の地面には、ナイフでこう彫られていた。

 『かかってこい化け物』。


「……言われるまでもない」


 リオは炎を発動させたまま、建物に近づく。

 待ち伏せているということはそれなりの準備を終えている筈だが、そんなものは不死者のリオには関係のないことであった。

 どんなものを仕掛けて来ようとも、死なない。何度でも立ち上がる。勝てないはずはない。

 何より、あの少女を――。


「……」


 リオは、首を横に振って正気に戻ろうとした。

 違う。彼女は――天城救羽は、あの子、、、とは違う。

 見ず知らずの少女に、ここまで感情移入をする方がおかしい。

 ちなみに似た少女に感情移入するということは、彼にとっては替えが効くということを意味はしていない。

 似た少女に感情移入してしまうほど、記憶の中のある少女を愛していた、、、、、のだ。


「……ここまでだ」


 リオは我に返り、標的の殲滅を図ろうとする。

 1階にある出入り口の扉を蹴り破った。

 その先に待ち受けていたのは、見知らぬ人が5人ほど。リオは舌打ちをする。


「またか……!」


 ドアを蹴破ったリオを見つけるや否や、1階のリーダーであろう女が声を上げた。


「奴を殺すぞ!」


 瞬間、残りの4人の男がそれぞれ鉈を持って攻め込んできた。

 1人がリオの目の前に迫り、首を掻き切るように鉈を一文字に薙いだ。だがリオはそれを避け、『浄火』を当てようとする。


「死――」


 だがリオの動きは、頭に食らった衝撃で中断される。鉈を持って突進した男が隠し持っていた銃で、リオの頭を撃ち抜いたのだ。

 リオが怯んでできた隙に男は鉈を縦に振り、リオの体に大きな傷を入れて、ほぼ同時に後退した。


「っ――!!」


 すぐに再生はするが、いきなり二撃も食らわせられた。リオは人間に圧されていた。

 負けはしないのだが。


「クソが……」


 リオは入り口付近から建物内に入り、殺しを図る。

 鉈をもつ男達も、臨戦態勢に再び入る。

 瞬間、リオは駆けた。同時に男達は散る。これは先程路地裏で行った戦闘とは、まるで異なる動きだった。

 このままでは1人しか煉獄に導けない。それでも構わないとしたリオは、『浄火』を当てようとする。

 だがこれは、リオがとってはいけない行動だった。1人に向かって一直線に向かうということは、動きが非常に読みやすいということであり。

 撃つ側、、、にとっては、非常にやりやすい。

 狙い通り、この1階の壁の奥――建物の外壁とこの広い部屋の壁との間に空間があった――に潜むスナイパー、、、、、が、リオの頭を撃ち抜いた。


「っ!?」


 開いた風穴はすぐに塞がるが、この状況はかなりマズい。

 まだ1人も葬っていない。要するに苦戦していた。


「……上手いな」


 まるで、先の路地裏での戦闘から学習しているかのようだ。

 あの戦闘では敵がある程度密集していたから、一瞬で片が付いたのだ。だがこうもバラバラに動かれる、かつ部屋内にスナイパーが隠れているとなると、リオにとってはこの上なくやりづらい。

 しかも、近接したところで銃で撃たれる可能性がある。近づけばいいのだが、再生までに一瞬隙が出来るためその間に距離を取られる。これでは鼬ごっこ同然だ。

 完全に翻弄されている――掌の上で踊らされている。


「……っ」


 この状況を打開するには一体どうすればいい?

 考えて立ち止まっていると、スナイパーから弾を喰らってしまう。それも複数人いるのだろう、時間差であちこちから1発ずつ撃たれる。そして場所を移動しているのか、決して同じ場所から発射されてはいない。

 リオが銃弾を避けるべく動く。だがむやみに動くと、今度は鉈を持った男の内の1人だけが攻め入る。それに応戦していると、スナイパーから狙い撃ちにされる。堂々巡りだ。

 距離の取り方も上手いから、『浄火』を当てることすらままならない。

 万事休すか。

 銃弾をなるべく避け、鉈の男とも応戦しながら。

 血を流し、肉を砕かれ、しかし全てを元通りにしながら。

 リオは考える。

 スナイパーからの集中砲火。鉈男との連携。何もしていないように見えるリーダー格の女。1階の空間はそれほど狭くはなく、しかし広すぎることもない。銃弾。鉈。避ける。当たる。不死身。死なない。負けるはずのない戦い。人間。消耗。武器も、体力も。


「……ああ」


 リオは、何かの答えに到達した。そして苦笑した。

 こんな回答しか出ないのかと自分に失笑した、というのが正確だが。


だから嫌なんだ、、、、、、、――この体は」


 リオは自らの出した解答に沿い、立ち止まった、、、、、、

 そこから動くことは、暫くなかった。

 スナイパー達は、そんなリオの様子をまた暫く見ていたが、1分経っても動かないのを見ると、彼に向けて集中砲火を始めた。

 銃弾が、腕を、脚を、腹を、背を、首を、頭を、脳を、内臓を、骨を、血管を、貫いていく。貫かれる度に、鮮血がほとばしり、肉片が飛び散る。そして全てが一瞬で再生する。寸分の狂いも無く。

 スナイパーは、ここまでやれば死ぬだろう、という希望的観測から弾を減らしていく。だが弾数が減っていく中で、スナイパー達は気付く。

 倒れない。一体何発撃ったというのか、分からなくなるほど撃ったのに。

 一体何者なんだ此奴は。

 再生能力が異常だからか?それにしたって、「異常」以上だ。はっきり言って、頭がおかしい。理解ができない。

 何故、死なない?

 そう考え始めると、スナイパー達は一斉に、射撃を止めてしまった。弾切れだ。

 そのチャンスをリオは待っていた。その瞬間に動き始め、まずは1人の男に近づく。男は仰天しながらも発砲するが、リオはそれを軽々と避ける。

 銃弾を避けたことにまた仰天していると、鉈で応戦する間もなく男は炎に焼かれた。

 鉈持ちの男は残り3人。スナイパーは、1階にいるのはあと4人。リーダー格が1人。スナイパーは弾を切らしている。

 これならば楽勝だと言わんばかりに離れたところにいる鉈持ちの男の1人を瞬間で捉え、そして煉獄に焼いた。残り2人。

 装填を終えたスナイパーは、再びリオに向かって正確無比な射撃をして頭を撃ち抜くが、残り数が少ないために無駄には撃てない。というより、撃っても殆ど意味がないようとこの時点で既に思っていた。

 するとリオは、残り2人の男を無視し、先程の射撃の向きから計算する。スナイパーの潜伏場所を特定して向かい、右手でそのまま壁を破砕した。


「――いたぞ」


 果たしてスナイパーはその向こう側におり、壁の破片で顔を切られると共に、身を焼かれた。そのまま壁の向こう側を壊しては探索した。壁の向こう側から発砲音が聞こえたが、リオはお構いなしに『浄火』を当てる。スナイパーは全員葬られた。

 再び壁を壊して残りを片付けようとするリオ。残るは男2人と女1人。もう敵に勝ち目はなかった。

 だが女は不敵な笑みを浮かべる。


「――ふふっ」


 その笑みに合わせるかのように、なんと上の階から全員が降りて来た。総勢20人ほどの人間が、全員。


「なっ――!」


 リオは面喰った。それは大勢の人間が降りて来たからなのだが、リオが驚いたのはそれどころではなかった。

 全員。気配を察知し得るこの建物内にいる人間が全員、1階に集結したのだ。

 これははっきり言って異常である。普通は、上の階にボスが待ち受け、そこまでに従者が邪魔をする、というものである。つまり、ボスに辿り着くまでに、相手の体力を減らしておこう、という意図を実現しようとしているのだ。だが、仮に諸段階で大量に送るとしても、何人かはボスの護衛のために残るだろう。

 だが、全員が降りて来た――これではまるで、ボスを守る気がないかのようではないか。


「……おい、女」


 リオは、リーダー格の女に尋ねる。


「どういうつもりだ」

「どういうつもりもないね――とっとと死ね!」


 女のまわりに現れた20人程の人間が、一斉にリオに襲い掛かる。


「……お前らの相手をしている暇はない」


 男は、刀身の長い刃でリオを切り裂こうとする。リオはそれを避け、男を殺そうとする。瞬間、横から射撃がリオを襲う。


「邪魔――だ!」


 リオはその銃弾を片手でキャッチし、目の前の男の脳天を撃ち抜く。リオはその男から刀を奪い取り、それを左手で構える。


「――殺せるものなら殺してみろ、人間風情が」


 人間達の中に突っ込む。彼らの内数人がリオに向かって発砲したが、それを全て避けるか、避けきれないものは刀で斬り伏せる。

 するとその背後をとった人間が、刀でリオの背中を斬りつけようとする。だがリオは前を向いたまま右手で刀身を掴み、そのまま刃を砕いた。その間にも飛んでくる銃弾をリオは刀で確実に処理し、更に前へ進む。

 人間たちは動揺していた。

 これが、魔人。


「――そんなものか」


 魔人リオは、人間たちの持つ銃を腕ごと斬りおとした。鮮血が吹き出る。


「ならばすぐにでも終わらせよう」


 腕を落とされた射撃者たちは『浄火』に触れられて焼却された。その背後から刀で襲い掛かる人間たちがいたが、後ろを振り向き、刀で3閃。

 それだけで、襲撃者の刀は全て真っ二つに割れた。と思うとリオは既に彼らに『浄火』を触れさせ、煉獄へ導いていた。それから初めの方で刀身を砕かれた丸腰の男のところへそのまま向かい、彼も焼いた。

 ものの30秒足らずで、半分以上が死んだ。


「……死ぬことが多いから普通の戦い、、、、、が苦手でな」


 リオは言いながら、残り少ない生き残り達に振り向いた。


「だから殺すのに手間はかかるが、まあ許せ」


 振り向きながら、そう言って『浄火』を女を囲む人間たち全員に当てた。全員が悶え狂う。

 残りはリーダー格の女1人だけになった。


「……お前の依頼主――とでも言えばいいのか?刃先はどこだ」


 リオは『浄火』を女の顔近くまで寄せて、そう尋ねた。

 女はその状況で、笑ってこう答えた。


「あっはははははははは!魔人さん、、、、よォ――」


 そして、火を灯す右手のある腕を掴み、言った。


「あまり人間を舐めるなよ?」


 ちなみに答えてやるよ、と言って女は刃先の居場所を告げた。


「1つは、目の前、つまりだ」

「……は?」

「2つ目は」


 女は、凍り付いたリオを差し置いて続ける。


「建物の外、少し離れたところにいる。本体だなこいつが。んで3つ目は――」

「……何、言っているんだ」


 至極正しい反応を示すリオだが、女は無視する。


「この辺りをうろついているよ――女を殺すためにな」

「おい、いい加減に――!」

「……お前、本当に何も分かっていないんだな――魔人ってのも案外完璧じゃねえな」


 と言うや否や、女は掴んだリオの腕を自身へ引き寄せ、自らを焼いた。


「ほんの少しお別れだ、すぐ、俺の本体に会えるよ――『往名いにな』を知らない魔人さん」


 楽しかったぜ、、、、、、――女の体は焼かれた。瞬間、女は正しく身を焼く業火に発狂した。


「……」


 何なんだこいつは。

 『往名』とは何だ。

 いくつも刃先がいるとは何だ。

 楽しかったぜ、、、、、、――それはまさしく刃先の言いそうなセリフだが、何故この女が言う。

 どういうことだ。

 リオは完全に混乱していたが、その混乱さえも吹き飛ばす出来事が起きた。

 轟音が、1階のあちこちから鳴り響く。瞬間、この建物が壮絶な音を立て始めた。

 崩壊寸前の音だ。


「……爆弾か!」


 その認識は正しく、予め準備段階で1階の主要な柱や2、3階に爆弾を仕掛け、崩落するように刃先たちが予め仕掛けておいたのだ。

 リオがそう気づいた時には既に遅く、焼かれた人間のなれの果てである灰と共に、瓦礫の下に埋もれ、身体の全てを圧迫され、へし折られ、潰された。

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