雑魚狩り


「今日の講義は・・・休もう。また。3度目だけど。」


“あの大学”に入ることが人生のほとんどだった僕は、“この大学”に入学した後、ひたすら堕落している。

正直、大学に通う理由もよく分からない。

「親が望んでいたから大学を目指した」としか言いようがない。


そんな僕の堕落に拍車をかけているのがこのMMORPG。

様々な人間がネットで繋がるRPGゲームだ。


これの中毒性は危険なレベルだ。ハマると1日が一瞬で消費される。

ゲームをやらない時間さえもゲームのことで頭が支配される。

もはや、意識のある時間は全てこのゲームに捧げていると言っていい。


今だって、ボスが湧くからここを離れるわけにいかない。

これに比べたら大学の講義なんて細事だ。



僕はこのゲームと相性が良かったみたいで、初めて1年弱で「廃人」と呼ばれる

プレイヤー達と肩を並べるようになった。


「廃人」とは、日常生活に支障が出るくらいゲームにのめり込んでいるプレイヤーのこと。

その大体は、ゲーム内で屈指の強さを誇る。


MMORPGにおいて、プレイ時間のアドバンテージは絶大だ。

日常生活を犠牲にするほどプレイすれば、それだけゲームの世界では頂点に近づく。

だから廃人には、ニートだったり、大学を捨てた学生が多い。

僕もそうだ。


「あ・・・ボス湧いた。」



カチャカチャカチャ



「なんだよ。また競合プレイヤーか。邪魔だなぁ。」



時間毎に現れるボスモンスターはレアアイテムを落とすから、廃人ほど見逃さない。

いつ寝てるのかも分からないくらい、常に張り付いているプレイヤーもいる。

伝説によれば、トイレに行く時間も惜しんで自室で用を足すプレイヤーまでいるらしい。


傍からすれば、そこまでして一つのゲームにのめり込み、人生を費やす意味が分からないだろう。

僕だって、もしこれがオフラインのコンシューマーゲームだったらすぐに飽きていると思う。




しかし、これはオンラインゲーム。MMORPGだ。

MMORPGならではの“面白さ”がある。


このゲームを面白くしているのは、間違いなく、「大勢のプレイヤーが同時参加している」ことだ。


例えば、ある目的のためにプレイヤー達が集まり、ギルドと呼ばれる組織が結成されたりもする。

と言うことは、当然ながらギルド間で抗争になることもあるし、内部で権力争いが起こることもある。

新しいボスが実装されたら、サーバー内で誰が最初に倒すか競われる。

レアアイテムを所持していることもステータスだ。

強いプレイヤーは羨望され、妬まれるし、弱ければゴミのように扱われる。


決して、美しい世界ではない。

美しくはないが、現実世界にも似たこの俗っぽさが無ければ、MMORPGにここまでハマることはない。



これらに共通する本質は、「評価」だ。

他者からの評価。


自分一人でゲームをしていても、それを評価するのは自分だけ。

多くのプレイヤーと繋がり、競うからこそ、他者と比較され、評価を得ることができる。


多分、人間はそれが好きな生き物なんだと思う。

そうでなければ、この世にこれだけ「ランキング」なんてものは無いんじゃないだろうか。


そういった人間の欲求を上手く突いたのが、このMMORPG・・・なんだと思う。


ゲームならば、現実世界で評価されない人間にもチャンスはある。

だから、僕は日々努力している。

評価されるため。比較されて優位に立つため。




・・・。




「・・・評価ね。」


たまに、冷静になってしまう。


これが恐ろしい。

冷静になりそうだったら、一生懸命思考を止めるようにしている。


ゲーム内ではこんなに屈強な僕も、ゲームという鎧を脱げば、何もできない貧弱な大学生。

単位を落としまくりの。

評価なんて、誰からもされない。


もしこれから僕が評価されるとしたら、それこそ、名だたる大企業に就職する必要があるだろう。


しかし、いくらうちの大学とはいえ、そんな企業に就職しているのは上位層だけ。

とても彼らに勝てる気がしない。

僕はこのまま、ゲームの世界で朽ちていくのだろうか。




・・・。




「ゲーム内の雑魚プレイヤーになら、いくらでも勝てるのにな・・・。」



そう。いくらでも勝てる。


ゲーム内のプレイヤーもピンキリだ。

効率的なプレイや他者との連携で上位に上り詰めるプレイヤーもいれば、プレイ時間は長いのに大成しない雑魚プレイヤーもいる。


僕は断言するが、「評価」が存在しないMMORPGなんて、オフラインのコンシューマーゲームと変わらない。数ヶ月もやれば絶対に飽きる。


逆に言えば、こんなゲームに膨大な時間を費やしているような連中は、皆何かしらの評価を欲している。

雑魚プレイヤーであっても、それは同様だ。


そんな雑魚プレイヤーを観察していると不思議に思うことが沢山ある。

まず、大量の時間をゲームに費やし、どこからどう見ても評価を欲しがっているくせに、それを認めない。

その反動か、他者が評価を受けるのは気に食わないようだ。


また、よくゲームの仕様を批判したり、効率的なプレイを「卑怯」と断じる。

それは自由にすればいいが、ゲームの仕様を批判しても運営会社は変わらない。

僕なら、運営を批判する時間で効率的なプレイをするし、どんな仕様も最大限活かす。


こういった発想の違いから、雑魚プレイヤーと強豪プレイヤーの差は加速度的に開いていく。



出来損ないの僕にすら劣る雑魚達。

彼らと比較すれば、僕ですら“優等生”だ。



まぁ、彼らを存在から否定しているのではない。

むしろ、MMORPGに底辺層の存在は必要不可欠だ。底辺層からの口撃こそ、上位層の快感なのだから。


しかし不思議なことに、口撃を受けがちな上位層の中でも、僕は底辺層から人気を得ている。



・・・これは僕に備わった才能なんだろうか。

彼らのような驚くべき馬鹿達の心情を、僕は完全に把握できている。

彼らのチャット内容を見れば、どのような欲求を持ち、心がどこに傾き、何を言って欲しいのか、全部分かってしまう。





「・・・現実世界もそんな奴らばかりなら楽なんだけどな。」





・・・。






「・・・ん?」






・・・。







・・・。







「・・・そうか。」




確か、大学入学時に僕も勧誘されて・・・。




いたよな、うちの大学にも騙されてる奴が何人か。





アレ、僕にもできないかな。










これが1年前。

僕がマルチ商法を始めたきっかけだ。

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