弐席目 結


 その後、宗悦は早速、地蔵の胎内から金塊を取り出しました。

「まさか、こんなものが原因だったとは……」

 そう呟きながら、金塊を包み直し、厳重に保管いたしました。そして、金塊のあった場所には、代わりに清らかなお経の書かれた紙片を納め、地蔵を完成させたんでございます。

 こうして地蔵の怪異は一件落着を迎え、宗悦の長屋にも平穏が戻ってまいりました。夜は静かに更け、宗悦は久方ぶりに安らかな眠りにつくことができたそうであります。

 しかし、金塊の厄介は、まだ残っておりましてな。宗悦は金塊をどうすべきか、信三郎とみなもに相談いたしました。

「こりゃあ、おかみに届け出るしかねぇだろうな。下手な真似すりゃ、おめぇが捕まっちまう」

 信三郎は、これまた面倒なことになったとばかりに、頭を掻いたんでございます。

「でも、面白そうだね。どうやって届けるの?」

 みなもは、金塊よりもその手続きの方に興味があるようでしてな。

 結局、信三郎とみなもが付き添い、宗悦は金塊を奉行所へ届け出ることにいたしました。もちろん、その道中も、みなもの「お蕎麦」のおねだり攻撃は止まず、信三郎の財布は、またもや軽くなったという話でございます。

 軽くなったといえば、宗悦の心持ちもそうでして、今では心穏やかに仏像を彫り続け、その腕はますます評判になったという話でして、それからは宗悦は二度と怪異を疑わず、仏師としての技に打ち込むようになったそうでございます。もはや、彼の地蔵から不気味な音が響くことはございません。



 それにしても、みなもの「窮理」は、時として人の心をも見透かすようでございます。金塊の件もすっかりお見通しだったとは。流石は「品川宿の変わりモン」、そして、「からくり少女」の名に相応しい働きでございました。

 ……ま、本人はただ好き勝手に好奇心を満たすためだけに動いてたんだと思いますが。

 信三郎にしてみりゃあ、またしてもみなもの「おなかすいた」に付き合わされ、懐具合は寂しくなったんでしょうが、そのおかげでまた一つ、世の怪異の「からくり」を目の当たりにした訳でございまして。

 この日の夜、信三郎はみなもに訊いてみたそうでございます。

「なぁ、みなも。お前はなんで、そんなに『からくり』を暴きたがるんだい?」

 みなもは、縁側で月を見上げながら、ポツリと答えたそうでございます。

「だって、『知りたい』から」

「……フッ、そうか」

 信三郎は、その言葉に、どこか遠い目をして夜空を見上げたとか。

 今日もまた、江戸の八百八町では、人の情が織りなす様々な「からくり」が生まれていることでしょう。そして、それを解き明かす「品川の変わりモン」と、それに巻き込まれる「ぐうたら侍」の物語は、これからも続いていくのでございます。


 ……何? サゲが弱いってぇ? こまけーこたぁいいんだよ! ……おぉっと、今日のところはこれまで。さぁ、帰って蕎麦食って寝よ。

 ――おあとがよろしいようで。

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からくり少女みなも! 大地 鷲 @eaglearth

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