第35話 人のちんしこを笑うな07

 表彰台に上がったのは誰か。

 わかるのは、少なくとも俺じゃないってことだ。


 一番手でゴール・テープを切って、観客の声援に応えて、国旗を棚引かせるなんて、そんな栄誉はまっぴらだ。



 表彰台に上がったのは誰か。




 わかるのは、少なくとも俺たちじゃないってことだ。






 俺も彼女も、勝ちとか負けとか、そういうことには興味がなくて、日陰だってどうでもよくて、ふたりであることが重要だった。






 俺はちんしこマンなのだ。

 彼女はブッかけレディなのだ。


 俺たちは俺たちなのだ。



 それ以上に大切なことが、果たしてどこにあるもんか。




 俺たちは俺たちで、日陰でこそこそブッかけあって、それ以上に必要なものはなんだ。




 最終コーナーを曲がり、走者はメーンストレートに戻ってきた。

 ゴールにはテープが張られ、どちらが先にテープを切るのかと、スタンドの観客はデッドヒートを見守った。


 一進一退の攻防で、抜きつ抜かれつ、最後の瞬間はやって来るのだ。



 長い長いレースを終えて、最終コーナーを曲がり、走者はメーンストレートに戻ってきた。




 忘れちゃならないのは、俺がちんしこマンだという、その事実だ。




 俺たちの歯車は、けんかしつつも回り続ける。

 噛み合っているとは言えず、不協和音を上げながら、それでもなんとかかんとか、整合性を保っている。


 俺たちの歯車は、けんかしつつも回り続ける。



 ぎちぎちと、軋んだような音を上げ、いくつかの噛み合いを飛ばし、それでもなんとかかんとか、整合性を保っている。




 俺たちの歯車は、けんかしつつも、それでもまわり続ける。






 忘れてはならないのは、俺が、俺の名前が、ちんしこマンだという、その事実である。






 情事がひとつ、ひっそりと終わった。

 俺たちは結局、一言も言葉は交わさなかった。


 俺たちは結局、指の一本たりとも触れ合わなかった。



 ただザーメンをブッかけて、ただおしっこをブッかけて、それだけだった。




 ちんしこマンとブッかけレディには、原始的な意思疎通方法なんて、ちっとも必要がなかった。




 あとは、そっと女子トイレを出る。

 俺は右に行き、彼女は左に行く。


 俺はおしっこ臭くなって、彼女はザーメン臭くなる。



 何食わぬ顔で同窓と混じり、登校し、通常の一日を過ごす。




 ちんしこマンとブッかけレディには、ふさわしいようなそうでもないような、俺たちの在り方は、新しい人類のような、それとも生まれたての人類のような、なにがなんだかわかんないや。






 ともかく俺は、俺たちは、ブッかけてブッかけられて、においたつ臭い仲で、唯一無二なのでどうでもいいや。






 さあ、終わりまで駆け抜けようじゃないか。

 長ったらしい、こんなふざけたやりあいを、いつまでも続けていてはいかんのだ。


 さあ、終わりまで駆け抜けようじゃないか。



 文庫本一冊にも及ぶような、それ以上にもなるような、自分語りなんて飽きられるだけだ。




 さっさと顛末を片付けて、あとの将来はご想像にお任せして、これにてどろんといこうじゃないか。




 最終コーナーを曲がり、走者はメーンストレートに戻ってきた。

 ゴールにはテープが張られ、どちらが先にテープを切るのかと、スタンドの観客はデッドヒートを見守った。

 一進一退の攻防で、抜きつ抜かれつ、最後の瞬間はやって来るのだ。


 長い長いレースを終えて、最終コーナーを曲がり、走者はメーンストレートに戻ってきた。



 忘れちゃならないのは、俺がちんしこマンだという、その事実だ。 




 どんな現実に直面したとして、俺は俺がちんしこマンだということを、絶対に忘れてはならんのだ。






 たったひとつの真実さえ、後生大事に抱えていれば、すべきことがなんなのかなんて、遠眼鏡で海を見たみたいに、わかりきっているのは当然だ。






 ハロー・ロッケンロール、俺の名前はちんしこマン。

 ユー・アー・グレート、俺の名前はちんしこマン。


 いいかい、ちんしここそが人生だ。



 そうさ、しこしこぴゅっぴゅこそが人生だ。




 アイ・アム・グレート、俺の名前はちんしこマン。






俺が、この俺こそが、ちんしこマンだ――!






 アー・ユー・レディ、準備はいいかい?

 くだらなくも素晴らしい、愛の賛歌を聞く気はあるかい?

 アー・ユー・ゲット・レディ、覚悟はいいかい?

 呆れるような憧れるような、泥沼の喜劇を見る気はあるかい?


 観劇者もろくろくいないのに、こんなとこまで付き合っておいて、興味ないぜなんてそんなこと、無いって俺は分かっているぜ。



 どうせあんたが拒否をしたって、こっちは勝手に事を進めるんだから、どっちにしてもどうでもいいさ。




 アー・ユー・レディ、準備はいいかい?

 アー・ユー・ゲット・レディ、覚悟はいいかい?


 くだらなくも素晴らしい、愛の賛歌を聞く気はあるかい?



 呆れるような憧れるような、泥沼の喜劇を見る気はあるかい?




 さあ、あとは指輪の交換だけだ。

 さあ、あとは誓いのキスをするだけだ。


 最終コーナーを曲がり、走者はメーンストレートに戻ってきた。



 一進一退の攻防で、抜きつ抜かれつ、最後の瞬間はやって来るのだ。




 長い長いレースを終えて、最終コーナーを曲がり、走者はメーンストレートに戻ってきた。





 表彰台に上がったのは、わかるのは、少なくとも俺たちじゃないってことだけで――。



 こっそりキスを交換するのに、俺たちみたいな立ち位置は、ちょうどいいななんて思うだろ?

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