03ちんしこ・オン・ザ・ラン

第12話 ちんしこ・オン・ザ・ラン01

 足跡をたどれ。

 俺の足跡をたどれ。


 生まれてからの、これまでを諳んじろ。



 俺のこれまでの、足跡をたどれ。




 果たしていったい、どこでどう間違った!






 生まれてからのこれまでで、俺はどこでどう間違った!






 十五年と少し前、市内の総合病院で、俺は産声を上げた。

 体重は三千グラムに足りないくらいで、ごく平凡な、どこにでもいる男児だった。


 すくすくと育ち、両親に愛され、愛情の数だけ成長した。



 どこにでもある中流家庭の、どこにでもいる父母のもとの、どこにでもいる少年になった。




 間違いなどどこにも無くて、何人にも侵されない自由を謳歌するはずで――。




 なにが起こったのかを考える。

 目の前の光景を詳しく検分する。


 なにが起こったのかを考える。



 俺の自由を、俺の権利を、誰が侵したのかを考える。



 思いもかけない出来事は、降って湧いたというそうだ。

 だがしかし俺の場合は、降って湧いたというのには少し違った。


 洋式便器の中から這いあがってきたというのか、むしろはじめから、そこにちょこんとあった。



 いつものようにキスでもするように、彼女を俺が見下ろすと、はじめからそこにちょこんとあった。




 なにが起こったのかなんて、どうしてこんなことがなんて、俺にはちっともわからなかった。






 俺の自由を、俺の権利を、誰が侵したのか、俺にはちっともわからなかった。






 ただ、事実がそこにある。

 ただ、事実がそこにある。


 夢まぼろしでなく、事実がそこにある。



 歴然とした現実として、小さく折りたたまれて、そこにある。




 ややかすんだレモン色の、芳醇な香りを立ち昇らせて、それは主張するように、主張しないように、そこにあった。






 洋式便器の中から這いあがってきたというのか、むしろはじめから、そこにちょこんとあった。






 なんの変哲もない、トイレット・ペーパーである。

 ただしかし、それだけで俺の頭に、スレッジ・ハンマーを振り下ろされた気分である。


 なんの変哲もない、折りたたまれた、トイレット・ペーパーである。



 ただしかし、それだけで俺の頭に、ターメル・スレッジの特大のホームランのように、がつんと衝撃が走る。




 ややかすんだレモン色の、芳醇な香りを立ち昇らせて、それは主張するように、主張しないように、そこにあった。






 ――誰かが俺を見ているッ!






 足跡をたどれ。

 俺の足跡をたどれ。


 生まれてからの、これまでを諳んじろ。



 俺のこれまでの、足跡をたどれ。




 果たしていったい、どこでどう間違った!






 生まれてからのこれまでで、俺はどこでどう間違った!





 十五年と少し前、市内の総合病院で、俺は産声を上げた。

 体重は三千グラムに足りないくらいで、ごく平凡な、どこにでもいる男児だった。


 すくすくと育ち、両親に愛され、愛情の数だけ成長した。



 どこにでもある中流家庭の、どこにでもいる父母のもとの、どこにでもいる少年になった。




 そうだ、俺はどこにでもある中流家庭の、どこにでもいる父母のもとの、どこにでもいる少年で、なにも間違っちゃいないのだ。




 女子トイレの個室の中。

 狭間のような聖域の中。


 輝くみたいな白磁の、美しい洋式便器のその前。



 なにひとつ間違っちゃない、清廉潔白なこの俺の前に立ちはだかる、見るも語るも無残な現実。




 ――誰かが俺を見ているッ!






 ――誰かが確かに、この俺を見ているッ!






 さあ、これから俺はどうする――?


 逃げるのか、戦うのか、それでどうする――?



 さあ、これから俺はどうする――?



 男子禁制の女子トイレで、立ち尽くすみたいにして、俺は――。






 ひとつわかるのは、ちんしこマンにとってこいつは、確実に生きるか死ぬかという、由々しき問題だということだ。

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