第52話 勝利の後に
ジュスランは、絶望的なこの状況を立て直す。生き残った兵たちをまとめ、撤退する道筋を示す。この時には、ルドヒキ軍もマックラス将軍の指示で撤退を開始していた。だが、グルガナ軍との大きな違いは、撤退に躊躇して、その時を失ってしまっていたことである。
ルドヒキにとって運が悪かったのは、包囲をしていたのが、アースレイン軍の南側だったことである。まともに亜人の攻撃を受けた。負けず嫌いのマックラスは、すぐに撤退せずに、反撃命令を出した。だが、亜人の個々の戦闘力と勢いを見誤っていたのだ。一気に軍は崩れて、立て直すことができないほど崩壊していた。この後、ようやく撤退の命令を出したのだが、時すでに遅しである。
グルガナ軍が撤退するのを、マックラスにとっては不本意なのだが、ルドヒキ軍がその殿を務める形になった。すべてのアースレインの攻撃を受けて、もはや散り散りに逃げ惑うしかなかった。
マックラスは、少数の護衛と逃げようとするが、アースレインの騎兵隊の女将軍に、後ろから一撃の元に首を吹き飛ばされる。ルドヒキの名将も、ここが最後の戦場となった。
「グルガナ軍は敗走しました」
裕太はそう報告を受けていた。フィルナは、その横で、少し残念そうな顔をする。
「どうしたフィルナ、勝利できたのに少し浮かない顔だね」
「欲を言うと、グルガナ軍はもう少し叩いておきたかった」
「それほど脅威なんだ」
「グルガナのジュスラン大将軍は、辺境大連合の中では一、二を争う名将だよ。この戦いでは、多少の油断があり、力を発揮できなかったようだけど、次も同じように戦えるとは限らないからね」
「それでも、今回の戦いで、君はその名将の上をいった。やっぱり軍師に迎えてよかったよ」
「僕を褒めても何も出ないよ。こんな男か女か、エルフか人間かわからない存在に、惚れられても嬉しくないだろう。褒めるなら他の将軍や兵を褒めてやってくれ」
「ハハッ、君に惚れられても嫌ではないが、もちろん他の者も褒めるよ」
辺境大連合の侵攻を防ぎ、この戦いの勝利の後、辺境の亜人たちすべての種族が、アースレインに従属することになった。裕太の力を認め、自分たちにとってそれが有益だと判断したのもあるが、やはり、先日のパーティーでのもてなしが、決定打と言えた。
こうして、辺境東部でアースレインに従属していない国は二つとなった。ルシムア王国とビュルディ王国なのだが、この二つの国は、ある選択を迫られていた。
「このままではアースレインか、辺境大連合に捻り潰されるぞ。どちらかにつかなければ、我々に未来は無い」
ルムシアの王である、ジュゼと、ビュルディの王、ルソは旧友で、今後の両国の動きを相談していた。
「そうだな、それでは勝つ方につくことにしよう」
ルソのその言葉にジュゼがこう答える。
「ならば辺境大連合か?」
「先の戦いで、辺境大連合は敗れたでは無いか」
「しかし、グルガナ軍は健在だし、辺境大連合には他にも強い国はあるぞ」
「それでも俺はアースレインが勝つと読んだ」
ルソは、幼い頃から自国に住んでいた、フィルラと呼ばれる賢者に師事して、その博識を高めた。武芸も天賦の才があり、並の将軍を凌駕するほど達者であった。ジュゼは知性に乏しかったが、その武芸は天才的で、体格にも恵まれ、ルソより高い戦闘力を持っていた。ジュゼは、ルソを全面的に信頼しており、彼の選択を無条件で受け入れた。
二人の王は、王家という枠にこだわっていなかった為に、簡単にそれを捨てる選択をした。無意味に強い国と戦い、兵や国民に負担をかけるほどの方が、彼らにとっては愚策と思えたのだ。
◇
「エイメル様! ルムシア王国のジュゼ王とビュルディ王国のルソ王がお見えになりました」
「え・・誰それ」
エイメルの呟きに、ゼダーダンが答える。
「両国とも、辺境東部の国です。我、アースレイン以外で唯一残っている他国です」
「なるほど・・ならば会わないといけないな」
すぐに二人とも謁見室へと通された。裕太の前にやってきた二人の王は、アースレイン王の前に跪く。王が王の前で跪くのは異様な光景ではあった。
「どうした。ルソ王、そしてジュゼ王。なぜ俺に跪くのだ」
「我ら二人は、王を辞めることにしました」
ルソ王がそう言うと、ゼダーダンは驚いている。だが、俺はそれほど驚きはしなかった。なぜなら、王なんてものは、役割の一つに過ぎないと思っていたからである。その役割を辞めるのに、そんなに驚くことはない。
「そうか、ならばこれからどうするのだ?」
ルソ王がそれに答える。
「できれば、我ら二人を、アースレインにてお雇いくださいませぬか」
「よし、わかった。では何の役職を望むのだ」
「役職に望みはありませんが、我が国とこの者の国、その両国の兵と国民を、宜しくお願いします」
「もちろん、今の俺の家臣たちと同じように扱うことを約束する。だけど、その管理は君たち自身で行えば良い」
「それは・・・」
ルソが裕太の言葉に驚いていると、アースレイン王から勅命が降る
「ルムシア王国をルムシア領と改め、その領主をジュゼに任命する。ビュルディ王国をビュルディ領と改め、その領主をルソに任命する」
二人は一兵卒からの出直しも考えていたが、まさか領主となるとは考えてもいなかった。
「我らに領主を任せて良いのですか?」
「両国とも平和で安定している国と聞いている。そんな良い国を維持していた王を信頼できないなんてことはないからな。ならば慣れている国を預けるのは当然の選択だと思うがどうだろう」
アースレインを選択したことは間違っていないと、これを聞いて二人は確信していた。
これで、辺境東部はアースレイン王国によって、統一された。辺境の三分の一を、裕太はその勢力圏内に治めたのだ。裕太は、もはや小国とは言えないほどの力を持ったと言える。この先、辺境大連合やジュルディア帝国と戦う為に、さらに力を蓄える必要があるが、その成長スピードは驚異的と言えた。
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