第44話 嵐の前の騒がしさ
城の中庭を解放して、パーティー会場を設置していた。そこへ招待されたお客さんが、どんどん入場してくる。家臣の多くが来てくれていて、普段はあまり接することのない、地方の内政官なども集まっていた。
そこへ亜人の第一陣である集団が現れる。会場が多少、ざわついたが、俺が出迎えると、歓迎する雰囲気へと場の空気が変わる。
「ケンタウルスとリザードマンの長ですね、今日はわざわざ遠い所から来てくれて、ありがとう」
そう出迎えると、リザードマンの長は目をパチクリさせて驚いている。ケンタウルスの長も、人間が亜人を迎える異常さに、挨拶が出てこなかった。
その後も、やってくる亜人の長たちを、裕太は自ら迎える。最初は亜人たちも、初めての人間のパーティーに、警戒していたのだが、歓迎されていると感じると、自然とその場を楽しむ余裕が出てきた。
ビュッフェスタイルの料理の提供も、亜人の長をはじめ、家臣たちにも好評で、みんな好きな料理を好きなだけ皿に取ると、笑顔でそれを食していた。
お酒もあらゆる種類を用意していた。前の世界では高校生で、お酒の美味しさを知らない裕太だが、こういう席では酒は必需品だとの知識はあったので、なるべく多くの種類を用意させたのだ。
このパーティーを見て、フィルナは軽い衝撃を受けていた。自然に、人間の中に亜人が溶け込んでいて、違和感を感じさせないほど、対等にそこに存在していたからである。このような光景を見ることができるとは・・フィルナは、裕太に仕えたことが、夢への道であるという予感を、確信へと変えていた。
「エイメル王。この度は、このような席を用意していただき、ありがとうございます」
そう声をかけてきたのはエルフのクェンズ長老であった。
「楽しんでいってもらえれば幸いです」
「この料理の提供方法は、人間の祭り事では普通なのですか、エルフの世界では、珍しいものなので、驚いております」
「そうですね、人間の社会でも、あまりないと聞いています」
「ほほう。ではエイメル王がお考えになったのですね、それはすごい」
「まあ・・はははっ」
なんとも説明しにくいので苦笑いでごまかした。
「エイメル! 酒飲んでるか。私が注いでやるから飲めよ」
そう絡んできたのは酔ったアズキであった。
「いや、俺は酒は飲めないから」
「何! 私の酒は飲めないだと!」
「いや、誰の酒も飲めないって」
そう言ってもアズキは納得していない。俺にグラスを持たすと、そこに無理やり酒を注ぐ。そしてグイグイと俺の口にそのグラスを持っていく。
「ダメだって!」
「いいから、少しだけでも飲んでみろ」
「もう・・わかったから、少しだけだぞ」
そう言って俺は、アズキの注いだ酒を少しだけ口に含む。美味しいとは感じないが、なんとか飲めるようである。しかし、未成年でお酒を飲んでしまった。前の世界だったらこれで最低でも停学であろう。
「おっ、飲めるじゃねえかこの野郎。ほら、もっと飲んで」
「そんな飲めないって・・」
そう抵抗していると、アズキの妹のラスキーが、俺を助けにやってきた。
「お姉ちゃん。エイメル様が困ってるでしょ。本当、酒癖が悪いんだから」
「おう、我が妹よ、お前もどんどん飲みなさい」
そう言ってくるアズキの頬を、ラスキーはぎゅっとつねる。
「いてててっ、痛いって妹よ」
アズキは、そのままの状態でラスキーに連行されていく。
アリューゼはテーブルで弟妹たちと食事を楽しんでいた。たくさんの料理の中から、自分の好きなものをいくらでも取って食べれるこの場に、弟妹たちは、はしゃぎ喜んでいる。
「ほら、よく噛んで食べないとダメだぞ」
「これ、美味しいです。姉上も食べていますか」
「ああ、美味しくいただいてるよ」
そんな光景を微笑ましく見ていると、それに気がついたアリューゼが声をかけてきた。
「これはエイメル様、お恥ずかしいところをお見せしています」
「いや、微笑ましくて、嬉しくなるよ。思いっきり楽しんでくれ」
「はい。ありがとうございます」
パーティーも中盤に入り、用意した大道芸や音楽団などがその芸を披露し始める。みんな料理を食べながらそれを見て楽しみ、どんどん盛り上がりを見せていった。そして、パーティーは最大のメインイベントを迎えようとしていた。
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