第5話 『はい』と『いいえ』と未知の力と
クロトは煙の向こうに襲撃者の姿を見る。
大きさは3メートル程だろうか。明らかに人間ではないフォルムが二足歩行している様は熊を彷彿とさせるが、鬣のようなものが生えた頭部はどちらかというとライオンのようだ。人間とライオンを合体させたような姿、と言えば近いだろうか。
店の半分を吹き飛ばしたと思しき爪はその巨体を考慮しても尚不釣り合いな程巨大で、人の背丈ほどはある。爪というより大振りの刀剣類のような印象を受ける。
そして極めつけはその体色。
一切混じりっ気のない純黒は、どこかこの世のものとは思えない雰囲気を醸し出していた。
そんな獣のぎょろりとした眼が真っすぐにクロトを見据える。
クロトと獣の視線が中空で交差する中、真っ先に動いたのはラビとルナハートだった。
「クロト!琥珀ちゃんを連れて逃げろ!ラビは私の援護!」
ルナハートは先ほどまでの少女のような振る舞いからは想像もつかない程の鋭い眼光を湛えながら、ラビに指示を飛ばす。
ラビはその指示を認識した瞬間に懐から拳銃のような物体を取り出す。
「
そう叫ぶと彼女の手の周囲に七色の光の玉が現れる。
赤、橙、黄、緑、藍、青、紫。
ちょうど虹の色と同じそれらは、彼女の右手の周囲を規則正しく回り続ける。
「『銃撃』《ショット》!」
号令を出すようにそう叫ぶと光の玉は彼女の手から離れ巨大化し、目の前の黒い獣目掛けて一斉に飛んで行き、お行儀よく玄関の方から襲撃してきたそれを、七つの光弾は爆発とともに外に押し出す。
その爆音によって我に返ったのだろう、クロトもようやく自分に下された指示を脳で理解する。
「琥珀ちゃん、こっち!」
クロトは琥珀の手を引き怪物とは逆方向、店の裏口へ駆け出す。
「ちょ、ちょっと!?ラビさんやルナさんはいいんですか!?」
「…恥ずかしい話だけど、あのままあそこにいてもあの二人の邪魔になるだけだ」
「なーに。後でクロトには片づけっていう大事な役割があるわよ」
クロトの言葉を聞いて軽口を叩きながら、怪物の方へ歩み寄る。
口調こそ先ほどと変わらないように聞こえるが、身に纏う空気は鋭く剣呑なものになっている。
「巻き込まないとも限らないわ。アンタは頑丈だから多少は大丈夫だろうけど、琥珀ちゃんは怪我しちゃうかもだからね。早く行きなさい」
「…はい。お嬢もお気をつけて」
「あら、心配してくれているのかしら。嬉しいわね」
クロトはルナハートにそう言うと、琥珀と共に裏口へ向かう。
「さて」
ルナハートは店の外に吹き飛ばされた怪物に向き直る。
「随分はっちゃけてくれたわね。お金は持ってなさそうだから…とりあえず弁償分、殴らせてもらおうかしら」
「ここまで来れば…」
店からしばらく離れ、大通りに出たところで、二人は足を止める。
店の方向から時折大きな音が聞こえてくる。
どうやら先ほどの怪物との戦いはまだ続いているようだ。
野次馬もいるようで、彼らの騒ぐ声が時折聞こえてくる。
「ラ、ラビさんとルナさんってお強いんですね…」
とにかく走って逃げたせいか琥珀の息はまだ荒れている。
「そうだな…、まぁこの世界ってああいう変わった能力を持った人が少なくはないんだけど、あの二人より強い人って少ないんじゃないかな」
「さ、流石異世界…。じゃなくって、さっきのあの化け物なんですけど…」
琥珀が言おうとしたことをクロトも察したのか、自分の腕輪に視線を落とす。
「あぁ…、似てた、よな。俺たちの“コレ”と…」
方や腕輪とリング、方や店を半分吹き飛ばす力を持った怪物。
似ても似つかないものであったが、あの獣の不吉な黒色を見ると無関係と思わずにはいられなかった。
世界からぽっかりと、そこだけが抜け落ちて何もないような黒。
―俺の記憶とも、何か関係が?
そんなことを考えていると、先ほどの戦闘の恐怖が遅れてやって来たのか目の前の琥珀が震えていることに気が付く。
考えてみれば当たり前だろう。
恐らくは今まで平和に暮らしてきたであろう少女が、いきなり訳の分からない化け物に襲われたのだ。
怖がるな、という方が無理がある。
「琥珀ちゃん、大丈夫か?」
「だ、大丈夫、です。ちょっとさっきの感覚を思い出しただけで」
「俺も感じたよ。思い出すだけで吐き気がするけど…。とにかく安心してくれ。いざとなったら俺が出るよ」
「クロトさんもルナさん達みたいに能力が?」
「いや、特には無いけど…。でも安心してくれ!こう見えても体はかなり頑丈なんだ。こないだなんかラビに三階から突き落とされても平気だったんだからな!」
琥珀を安心させようと明るくふるまうクロト。
彼女も胸を張るクロトを見て安心したのか、クスクスと可笑しそうに笑う。
「ふふ。じゃあ、何かあったら頼っちゃいますね」
「あぁ、任せてくれ」
そんな風なやり取りをしていると、いつのまにか店の方から聞こえてくる音も無くなっていた。
怒りのルナハートが早々に蹴りをつけたのだろうか。
確かにあの獣には正体不明の凄味があったが、この『スクランブル』でも指折りの異能を持つルナハートに敵うとも思えない。
「…静かになったみたいだな。琥珀ちゃん、あんなことを言っておいてなんだが少しだけここで待っててくれないか。店の方を見てくるよ」
「だ、大丈夫ですかね…」
「何かあればすぐに戻るよ」
そう言って店に向かって歩き出すクロト。
「―――――――!!!!!!!!」
そして。
頭上から聞こえる名状しがたい咆哮。
無傷の獣が回転しながら漆黒の刃を振り下ろす。
それに気づいた時にはもう遅く。
最悪は、目前に迫っていた。
「させるわけ…ないでしょうが!!!!」
刹那、凄まじい速度で飛んできたルナハートが琥珀を、ラビがクロトを抱きかかえ間一髪救い出す。
空振りした巨大な爪は石畳の路面に深い爪痕を残す。
「ラビ!?」
「えぇ。さっき振り…、なんて軽口叩いてる暇はないわね」
笑みを浮かべるラビだったが、先ほどクロトをかばったときに避けきれなかったのだろう、脇腹からは大量の出血をしている。
「その傷…!」
「アンタの所為じゃないわ…。いいからお嬢様と琥珀ちゃんと一緒に離れなさい」
「…そんなこと出来るわけないだろうが。むしろお前が逃げろ」
負傷したラビを庇うように前に出る。
「アンタね…」
「とにかくだ、お前とお嬢がピンチになった以上は俺は絶対に逃げない。琥珀ちゃんはお前が安全なところまで避難させてくれ」
でも、とラビが反論しようとした瞬間。
「■■■■■■■!!!!!!」
獣が再度、これまでよりも一際大きく、そして不吉に咆哮する。
瞬間、クロトと琥珀を先ほどの感覚が襲う。
脊髄を凍り付かせられるような、あの感覚。
そして、彼らの周りにいつの間にか現れた黒い粒子が漂う。
「何だよ、これ…」
それが何なのか、どこから来たのかは分からない。
ただ分かることは、これがロクでもない事態を引き起こすということ―――。
「■■■■■■■!!!!!!」
更なる咆哮。
それが号令であるかのように、粒子が一斉に動き出す。
完璧に統率された兵士のようなそれらは、見る見るうちにクロトたちの周りに集まり、束ねられ、組み合わさり、物体なにかになる。
そして先ほどの咆哮から数秒もしないうちに、無数の粒子はクロトたちを閉じ込める『檻』を作り上げた。
「なに、これ…!」
予想外の事態に驚きを隠せないラビ。さらにこの状況で退路をふさがれたという事実が重く圧し掛かる。
先ほどまでは敵の攻撃を避け続けることで敵に有効打を与えることが出来ないままでも立ち回ることができた。
しかし、動ける範囲が限定され尚且つ琥珀らを庇いながらとなればジリ貧になるのは明らか。
同じく事態を察したルナハートが破壊を試みるも、獣と同じ色のそれはいくら攻撃しようと傷一つ付く様子がない。
―――追い詰められた。
圧倒的不利な状況に追い込まれたラビが下を向いたその時、クロトがこう囁く。
「俺が囮になる。その間にお嬢と一緒に攻撃してくれ」
「囮って…!」
クロトの提案に思わず絶句するラビ。
「アンタ何言ってるか分かってるの!?大体アンタを真っ先に狙うとは限らないでしょ!?」
「いや。恐らく、アイツの狙いは俺だ」
「何でそんなことが…」
「アイツはお前とお嬢を殺すことなく真っ先にこっちに来たんだ。しかも狙ってきたのは琥珀ちゃんの方じゃなく俺だ。アイツの狙いが俺である可能性は十分にある」
「だからって…」
「…俺にだって何かさせて欲しいんだよ。こっちに来てからずっと、お前たちには何か貰ってばっかりだ」
守られっぱなしじゃカッコ悪いしな、と言って獣に向かって一歩進むクロト。
「さぁ、来いよ化け物。選手交代だ」
まるでクロトが出てくるのを待っていたかのように、獣も一歩足を進める。
そして。
「――――――!!!!!!!!」
叫び声と共に相手は一足飛びにクロトに接近し、その爪を横なぎに振り回す。
「っ、うおぉぉぉぉぉっ!!!!」
横っ飛びで間一髪躱すクロト。
「ラビ、早く!そんなに長くは続かないぞ!」
「~~っっ!!!お嬢様!」
ルナハートもクロトの意図を汲んだのか、琥珀を出来るだけ遠ざけてから戦闘体制に入る。
「――――――!!!」
そんな彼女たちには目もくれずクロトに攻撃を繰り出す獣。
一度当たれば致命傷は免れないであろう攻撃をクロトは紙一重で躱していく。
(囮になるとは言ったけど…攻撃の隙を作るなんてできるのか!?)
クロトは全てを回避しなければならないが、相手は一発、多くても二発当てれば勝ちなのだ。
その差は天と地程に大きい。
実際、クロトの回避も徐々に危うくなっていった。
しかし、クロトの目にはまだ光があった。
「ヤバイっ…!」
そんな時、戦いの衝撃で壊れた石畳の破片に足を取られ、攻撃を回避したクロトの体制が大きく崩れる。
「――――――!!」
その瞬間、ここぞとばかりに大きく腕を振り上げ爪を振り下ろさんとする黒い獣。
だが。
「ヤバイ…と思った?」
クロトが口角を釣り上げて不敵に笑い瞬時に体制を戻し、凶刃を振り上げ無防備となった敵の懐に飛び込む。
このままお互いに同じ行動を続ければ、いつか自分が詰まされる。
そう思ったクロトは、わざと『異なる行動』を選択させるために体制を崩してみせたのだ。
「そして一か八か!」
両手で片脚を抱え、全力で持ち上げる。
突然飛び込んできた目の前の獲物に驚いたのか、怪物はされるがままに脚を持ち上げられ後ろに仰け反る。
「お嬢!今です!」
クロトはそこから全力で横っ飛びをし、ルナハートの攻撃のラインから離脱する。
「上出来…!」
クロトが回避し続けた時間分力を溜めた渾身の一撃が、黒い獣を襲う。
が、しかし。
「――――――!!!!!!!!!!」
「流石に…冗談でしょう…?」
無傷で吼える獣に青ざめるラビ。
ルナハート渾身の一撃で傷一つ付けられないなんて、馬鹿げている。
勝てない。
檻の中の全員の脳に、そんな考えが過ぎったとき。
(おーい!ラビちゃん、こっちだこっち!)
声を潜めてクロト達を呼ぶ声が聞こえる。
見ると、いつの間にか掘られた穴からマクヘールとレオルが顔を出している。
「マクヘールさん!?」
「なんかヤバそうなことになってたからよ、レオルも呼んで助けに来たぜ!」
「こんなやつ相手にするだけ損だ!逃げますぜ!!」
ほら、とマクヘール達がまず琥珀を外に逃がそうとする。
「しめた!ラビ!一時撤退よ、最大出力でとにかくアイツを近づけないようにして!」
「はい!お嬢様!!」
そう言ってラビが七色の光弾を束ね、ビームのようにして発射しこちらに向かってきた獣を押し返す。
「ぐっ…!なんの…!!」
力を込めれば込めるほど、先の攻撃による傷がズキズキと痛む。
苦痛にラビの顔が一瞬歪むが、負けてたまるかと目の前の獣を睨みつける。
「ラビ!もう十分だ、早く行くぞ!!」
クロトがラビに駆け寄り、逃げるように促す。
それを聞いたラビは十分距離をとったことを確認し、光線の照射を止め一気に駆け出す。
「――――――!!!」
しかし、その瞬間獣が爪で路面を攻撃し、その破片を砲弾のように目の前の獲物に向かって飛ばす。
「きゃぁっ!」
様々な大きさの破片がラビを背後から追撃する。
いくつかの鋭利なものは足や背中、先ほどの傷口に刺さり信じられない激痛に襲われる。
「――――――!!!」
名状しがたい叫び声と共にラビに向かって弾丸のように突っ込んでいく。
不味い―。
ラビは襲い来るであろう痛みに耐えるため、目を強く瞑る。
肉を切る音、石畳に大量の液体が滴り落ちる音が聞こえる。
「…え?」
ラビはゆっくりと目を開ける。
いつまで経っても痛みが襲ってこない。
そして目を開けた先には。
クロトがラビを庇うように獣の爪をその身に受けていた。
肩から袈裟に切り裂かれたクロトは、力無く膝から崩れ落ちる。
赤黒い液体が路面に広がっていく。
その大きさと反比例するようにクロトの体からは熱が失われていく。
「クロト!」
ラビは思わずクロトに駆け寄り、抱きかかえる。
獣は標的を始末したからか、先ほどまでとは打って変わってピクリとも動かない。
「しっかり!私の声聞こえる!?」
「あー…、まぁ、な…」
口から血を溢れさせながら笑って見せるクロト。
しかし、呼吸はどんどん弱々しいものとなり顔色も生者のそれとはかけ離れていく。
「そりゃ、まぁ…、お前に、死んでほし、く、ないしなぁ…」
「だからって…、こんなこと!」
「――――――!!!」
黒い獣は標的が生きていることが分かると、今度こそとどめを刺すために再度叫び声をあげる。
それを聞き、クロトは全身の力を振り絞って立ち上がり再びラビを庇おうとする。
そして、黒い刃が一瞬で迫り。
そして止まった。
「なん、だよ。これ…」
獣だけではなく。
ラビも。
ルナハートも。
マクヘールもレオルも琥珀も。
何もかも、止まった。
自分の不規則な呼吸音しか聞こえない程の静寂。
そんな中で、誰かの声が響く。
「こういう時はやっぱりさ。『力が欲しいか』って聞くべきなんだろうねぇ」
どこか気の抜けた声。
女のものとも男のものともつかない声。
「で、どう?欲しい?」
「欲しい…って、アンタどこの誰なんだよ!!」
頭の中に大量の疑問符を浮かべながら声を張り上げるクロト。
心無しか先程の攻撃による苦痛も和らいでいるようだ。
「大体どこの誰とも知らないやつが…」
「おいおい勘違いするなよ」
声はそんなクロトの質問をピシャリと遮る。
君は今私と話しているんじゃない。選択肢を選んでいるのさ。君にできるのは『はい』『いいえ』の返事だけさ」
有無を言わせようとしない声の雰囲気に、思わず息を呑む。
「だから僕は君に何も説明しないし、ありがた~い助言もない。ただの選択肢のウインドウだと思ってくれ。…さぁ、決めたかな?じゃあもう一度聞くぜ。セーブ、ロードで選び直しなんか出来ると思うなよ?」
『力が欲しいか?』
・・・
・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
『はい』
『いいえ』
・・・
・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
「答えは…、答えは『はい』だ!!!みんなを助けられる力を、アイツを倒せるだけの力を寄越せ!!」
クロトがそう答えた瞬間、彼の腕輪が黒い輝きを放つ。
「オーケーオーケー、ならば差し上げよう。使い方は…、君なら知っているはずさ」
「じゃあ、頑張ってくれよ。クロトちゃん」
徐々に時間が動き始める。
ゆっくりと、ゆっくりと。
その間にクロトは先ほどの出来事が幻覚ではないと確信する。
腕輪に熱が、力が、光が集まる。
使い方を瞬時に理解する。
いや、『思い出す』感覚に近い。
しかしこれが自分の記憶に関係があるのかどうか、そんなことは頭にない。
ただ、今は。
目の前の『コイツ』を倒すためだけに―――!
「おおぉぉぉぉぉっっ!!!!!!」
雄たけびと共に拳を振るう。
その時、先ほど獣が檻を作ったとき同様に黒い粒子がクロトの拳を覆う。
そして時が完全に動き出すと同時に、粒子によってコーティングされた拳が獣の爪と激突する。
「――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!」
金属のような音とともに獣の爪が真っ二つに折れ、明後日の方向へ飛んでいく。
思わぬ反撃に飛びのく獣。
「さぁ、とっとと終わらせるぞ…!」
クロトが手を伸ばすと、何もない空中にまたもや粒子が集まり真っ黒な剣を作り上げられた。
クロトはそれを手にするや否や、獣に切りかかる。
「―――――!!!」
驚愕するかのような叫び声をあげ、クロトの猛攻を正面から食らう。
一発。
二発。
三発。
黒いオーラを纏った剣は、爆音とともに凄まじいダメージを与え獣の体を一発ごとに削り取る。
「―――――!!!」
獣が腕を振ると、それまでクロトたちが囚われていた檻は粒子になり消えてなくなる。
踵を返し逃走を図ろうとする獣。
その姿をクロトは見逃さなかった。
「覚悟決めろよ…!!」
剣のオーラがこれまで以上に大きくなる。
「でぇりゃあぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
気合と共に剣を振り下ろす。
その瞬間、剣から放たれた黒い衝撃波は完全に背を向けた獣に襲い掛かる。
「――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!」
叫び声と共に背中を大きく削り取られた獣は、先ほど自分が切り裂いたクロトのように膝から崩れる。
そして、檻が消えた時のように獣も粒子となって消えていく。
その粒子はクロトの腕輪に吸い込まれるように消えていき、全ての粒子がクロトの腕輪に消えたとき、先ほどまで暴れまわっていた獣の姿は欠片すら残っていなかった。
残されたのは激しく消耗し肩で息をするクロトに、先ほどまでの両社の攻防を唖然としたまま見ていたラビたち。
やがてクロトも力尽きたのか、気を失って地面に倒れ伏す。
その時、腕輪もクロトの腕からずり落ちる。
地面とぶつかった腕輪の音が、やけにはっきりと街に鳴り響いた。
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