空っぽと勇者とヒーローと

三食 団子

ぼうけんのしょ 38923

第1話 最終決戦と終わりとハッピーエンドと

 世界の終りのような光景だった。

どこまでも続く黒い大地と、同じ色の空。

世界が塗りつぶされたような、いや、世界からなにもかもが根こそぎにされてしまったような。

世界が終わったような光景だった。


 そんな何もない世界に、剣戟の音色が響き渡る。

一人は、大地と同じ黒い腕輪を付けた少年。

一人は、空と同じ黒いドレスを纏った少女。

少年の手には漆黒の剣、少女の手にはぬばたまの剣。

黒一色のキャンバスと化した世界に、彼らの剣の軌跡が一瞬の彩を加える。

一閃。一閃。一閃。一閃。

黒い世界にそれ以上の黒が閃く。

お互いの剣をお互いが最適な角度で受け流す。

目にもとまらぬ攻撃に、最適解を返し続ける打ち合い。

その戦いは永遠に、世界が終わった後までも続くようだった。

少女は口端を吊り上げ、夜に浮かぶ三日月のような笑顔を浮かべる。

少年の眼光は爤々と輝き真っすぐにその首を見据え、命を刈り取ろうとする。

そっくりな色の二人が織りなす舞は、壊れた世界の中であってもどこか美しく。

だがそんな時間も遂に終わりを迎える。


 打ち合いを始めて、どれくらい経ったのだろうか。

それはたった数分の出来事かもしれないし、数世紀に及ぶものだったかもしれない。

ともかく、常に最速の最善を選び続ける戦いは少年の放った一撃によってその均衡が崩された。

少年の、本来悪手とも呼ぶべき一瞬の「溜め」。

少女はそれによって一瞬、いや、それよりも更に僅かなズレを生じさせられた。


しまった。


笑みが消える。

その溜めから放たれる一撃はこれまでよりも疾く。

少女は流し損なう。

それまでの剣よりも数段強力なそれを流すことなく受けた少女の体制は、僅かに一瞬死に体となる。

少年はそれを見逃す愚は犯さなかった。


まるで彼女が受け損なうことを、世界の始まりから知っていたかのように。

全く同時に、一歩踏み込んだ。

踏み込みを利用した一撃は先ほどのものよりも更に疾く。

黒い世界に一閃すら残すことなく、少女の頸に走った。

一を超えた、限りなく零に近い閃き。

限界を超え、圧縮された時間の中で少年はその手の中に確かに肉を、骨を、命を絶つ感覚を得た。


黒い、一筋の流星は確かに彼女の

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