美貌の新メンバー④

 翌日、俺たちはアン=ジェニーの館に向かった。

 例のごとくサロンで待たされた俺たちだったが、この日は来客のためではなく、プライベートな理由らしかった。詳細は語られなかったが、アン=ジェニーも女性だ。詮索などはしない。


「ピクシーを気に入ってくれるといいけどな。若いキレイなコがチームに入るってんで、アン=ジェニーが意地悪しなきゃいいけど」


 ソファに偉そうにふんぞり返って座るビスタが、タバコの煙でも吐くように言った。


「おまえはアン=ジェニーを何だと思ってんだよ。そういう性悪じゃねーから」


 初対面のピクシーが誤情報で必要以上に委縮する必要はない。俺はビスタの頭を小突きながら言った。


「怖い人なの?」


 ソファには座らず、サロンの壁に並んだ絵画を順番に眺めていたピクシーは、最後の一枚を見終わったところで振り向いて言った。過剰に緊張しているような様子はなかった。


「怖いっていうか、まぁ、厳しい人だな。ま、なぜ厳しいかっていうと、俺たちが不甲斐ないからなんだが」


 俺は冗談のつもりで言い始めて、言い終わるころに哀しくなった。

 そのあと、少しばかりアン=ジェニーのことについて語っているところで、俺たちはようやく執務室に呼ばれた。


「ごきげんよう。みなさん」


 執務机に向かったままのアン=ジェニーが、あの吸血鬼の魔眼に等しい容赦ない青い目で俺たちを見る。俺たちは礼儀正しく頭を下げた。


「今日は、新たに我らのチームに加わってくれるメンバーを紹介しにやってまいりました」


 アランはそう言って、ピクシーに前に出るようにうながした。さすがのピクシーもアン=ジェニーの視線には少し緊張したようで、少々、固い面持ちで一歩前に出て一礼した。


「はじめまして。ピクシー・ヌーベルバーグです」


 ピクシーが名乗ると、アン=ジェニーはおもむろに立ち上がって、執務机の脇を回り、ピクシーの前へやってきた。


「よろしく、ピクシー。アン=ジェニー・ジェニックです」


 2人は目を合わせて握手を交わした。値踏みするような目を向けるアン=ジェニー。だがピクシーも目を離さなかった。

 ピクシーはやっぱり気が強い。おそらく雇い主に初対面でなめられないように強気な態度を見せているのだろう。それは睨み合いとほとんど紙一重で、はたで見ている俺たちの方が緊張した。


「あなたは私に似てますね」


 アン=ジェニーは握手を解きながら唐突に言った。ピクシーは意外そうにきょとんとしている。


「気が強く、向上心があって、野心的。そして聡明でなにより美しい女性です」


 自分に似ているという前置きがあった以上、ピクシーへの評価は自分への評価ということになる。アン=ジェニーの自信家ぶりは芸術の域に達していた。


「似てるかな。ピクシーの方がよっぽど可愛げあると思うけどな。若いし」


 ビスタが俺の耳元に顔を寄せてきて、ぼそぼそと言った。


「似ていて欲しくないな。アン=ジェニーとクリソツの女が同じシューターとしてチームにいるなんて、俺、いやだぜ? 落ち着いてヴィズが撮れる気しねーよ」


 俺とビスタがぼそぼそとやりあっていると、アン=ジェニーがちらりと視線をこちらによこした。一瞬の視線の動きだけで、やかましいから黙ってろとほのめかすアン=ジェニーの眼力は称賛に値する。

 これに似た女がチームにいるのか。俺は深く考えないようにした。


「ありがとうございます。アランさんのチームのシューターとして精一杯がんばりますので、どうぞよろしくお願い致します」


 ピクシーは誉め言葉と受け取って一礼した。すると突然、アン=ジェニーの表情が曇った。


「シューター? どういうことでしょう、アラン。あなたはマネージャーを募集しているのではなかったのですか?」

「ええ、そうなんですけどね。偶然にもそこで非常に優秀なシューターが応募してくれたものですから、我々は2人のシューターを抱えることにしたのです」


 飄々ひょうひょうと答えるアランに、アン=ジェニーはいぶかしげな表情を浮かべた。


「マネージャーはどうするつもりなのですか? まさか……」


 と、そこでアランが言葉をさえぎった。


「ご心配なく。チームメンバーを5人にして、あなたの許可なく活動資金を割り増ししようというつもりはありません。これからはレックがマネージャーを兼任してくれることになってるんです」


 アランが視線をちらりと俺に向けた。アン=ジェニーの視線がそれにつられて俺の方を向く。俺は肩をすくませて、小さくだけ礼をした。


「今までチームマネジメントなんてやったことないでしょう。大丈夫なのですか?」


 眉尻を下げたアン=ジェニーの表情は、俺を心配しているというよりも、俺たちの頭蓋に収まった脳みその動作不良を疑っている様子だった。俺はうそでもにっこりと笑った。


「これからはシューターとマネージャーで今までの2倍がんばるってことです。俺は今まで迷惑をかけっぱなしだったんで。これからはあなたの援助に報いることができるように、一層の努力をします」


 アン=ジェニーは俺の完璧に殊勝な態度と言動に、一瞬、面食らったような表情をしたが、一応、納得したようなうなずきを見せてくれた。しかし、表情にはまだどこか懐疑的なものが残っていた。


「わかりました。よいでしょう。では、今度こそ次のハンティングでよい成果が上がって来ることを期待しています。ピクシーには契約についてお話がありますので少しばかりお時間いただきます。お茶でも飲みながらゆっくりお話しをしましょう。みなさんは帰っていただいて結構です」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます