第211話岩山での再会

「それでは、私は死んだのか――」


 全ての事情をミカちゃんが話し終えると、子爵様は体を震わせながら頭を掻き抱きます。


「そうにゃ。それがあったから魔族を拘束出来たとも言えるにゃ」

「そ、それで今エリッサは……」

「私達がこの山間に来る時にはまだ意識は戻っていなかったにゃ」


 自身の愛娘が父親を失った悲しみから魔力を暴走させ、その結果魔族を拘束出来たと聞き及び子爵様は苦悶な面持ちを浮かべます。

 そして――。


「まずは命を救ってもらい感謝する。今すぐにでもエリッサの元へ駆け付けたいのだがいいだろうか?」

「勿論にゃ」


 流石に3人が寝たきりでは馬車内が狭くキリングさんが乗れなくなりますが、ミカちゃんも、子爵様も目を覚ましたのなら前の座席にキリングさんのお父さんを寝かせても、後ろの座席に3人で座る事は出来ます。

 再び子爵様は肩をささえられながら馬車へ戻ります。

 僕達も馬車に向かい、全員が馬車に乗り込んだタイミングで馬車に重力操作の魔法を掛け、騎乗兵に右手を掲げて指示すると、来た時と同様にフワッとした浮遊感の後、一気に大空へとワイバーンは舞い上がりました。


 僕達を乗せた馬車は順調に飛行し岩山へたどり着いたのは丸1日経った午後の事でした。

 馬車を運ぶワイバーンがゆっくりと降下し始めると、その周囲にはガンバラ王国軍、フローゼ姫、エリッサちゃんが集まってきていました。

 そして馬車が完全に地上へ降り立つと、最初に感極まった子爵様が大きく扉を開けて飛び降ります。

 すると――。


「お父様、お久しぶりですわ!」


 亡くなったと聞かされたとは思えない程、あっけない挨拶に僕もミカちゃんも首を捻ります。僕達からエリッサちゃんの話を聞いていた子爵様も同様で、馬車から飛び出し抱き着かんとして駆け寄りましたが、その挨拶を耳にすると自制してしまいました。


「あぁ、エリッサも元気そうで何よりだ」


 もっと色々話したい様子ですが、ここは子爵領ではありません。

 他の人たちの視線を浴び気まずくなったのか、ゴホンと咳払いをすると当たり障りのない返事を返していました。

 ミカちゃんがフローゼ姫に視線を投げこれはどういう事なのか尋ねると、周囲や本人には聞こえない様に小声で――。


「エリッサ譲は洗脳された時の記憶が無いのだ」


 成程、洗脳された時に知らされた子爵様の死が記憶から抜け落ちているのなら、先程のあっけない程自制が利いた挨拶も納得できます。


「お父様、こちらですわ」


 それでも久しぶりの再会を嬉しく思わない筈は無く――人目を避ける様に僕達の馬車へと子爵様の手を引き引っ張っていきました。

 きっとこれから再会までに積もり積もった話でもするのでしょう。

 僕達はそれを邪魔すること無く、その場に留まります。

 続いてキリングさんに肩を支えられ降りてきた将軍さんを認めると周囲から、わーっと歓声が上がります。

 王子が一歩前に出て出迎えます。

 王子の前まで来るとキリングさんと将軍は片膝立ちの体勢を取り畏まります。

そして――。


「トベルスキー王子、誠に申し訳ありません。陛下を守る事が出来ませんでした」


 最初に将軍が沈痛な面持ちを浮かべ王子に謝罪します。

 馬車に国王の姿が無かった事で、諦めが入っていたのか王子はただ無言で頷きます。

 これ絶対泣くのを堪えていますよね!

 王子の背後に控えているガンバラ王国軍の皆には見えないですが、真正面から見ている僕とミカちゃんには王子が唇を噛み締めているのが良く見えます。

 次に王子がキリングさんに視線を落とすと、それを受けてキリングさんから今回の報告がなされます。


「私達が現場に到着し陛下の遺体を確認いたしました所――」


 しばしキリングさんが言い淀み口を閉じてしまいます。キリングさんの気持ちを察したのか王子は震える声で先を促します。


「よい。申してみよ」


 それを受けキリングさんが嘘偽りない国王の無残な最期を語ります。

 実際には既に魔族によって殺されていましたから、その後の動物たちによってもたらされた損壊に苦痛は伴いませんが。

 一部始終の話を聞き終わると王子は――。


「そうか。贅沢をしてきた報いがこんな結果を生む事になったのだな」


 ぽつりと言葉を漏らし俯きます。

 王子の背後にいる兵達は魔族に襲撃された生き残りの捜索に僕とミカちゃん達が出かけたと知らされていました。

 国王が既に殺されていたと聞くと一気にざわつきます。

 当然ですね。

 国の最高責任者が殺されたのですから。

 ゲームであれば王を取られればそれは負けを意味します。

 そんな兵達には構わずに王子が将軍へ視線を向けると言葉をかけます。


「アロンド・キリング将軍。貴殿が生きていてくれた事は我が王国にとっては幸いだった。今後は私の為に尽くして欲しい。よいか?」

「もったいなきお言葉。しかしながら良いのでしょうか? 私は陛下を守る事が出来なかった愚鈍でございますぞ」

「相手は魔族だったのだ。将軍の価値を下げる事にはならないよ」

「ありがたき幸せ。この命に代えましても務めを果たして見せましょう」

「うむ。頼む」


 へぇ。王子ってこんな人でしたっけ?

 以前はもっと子供だった様な――。

 僕達が魔法をたくさん覚えた様に、王子も人としては成長しているんですね。

 王子は振り返ると、いまだざわついている兵士達に言葉を授けます。


「皆の者よく聞け! 父であるリゲルスキー・ガンバラ陛下は聞いた通り魔族の手に掛かり崩御された。父の跡はこのトベルスキー・ガンバラが後を継ぐ。ここからの戦いは陛下の弔い合戦となろう。皆もそのつもりで励んでくれ」


 王子はこれからの戦いで戦果を残した者に出世の機会を授ける事を約束します。

 でもいいんでしょうかね?

 王子は継承権第2位ではありますが、第1位ではありません。

 第1位の王妃様に何の相談も無く決めてしまって……。

 まぁ、僕の知った事ではありませんけどね。

 王子の言葉を受けて兵達の士気が若干あがります。

 相手が魔族とわかっていますから若干なのも仕方がありません。これが普通の人間相手であればまだしも、相手は人外の化け物です。

 それでも出世に目がくらむ人は少なからずいるようで、闘志を滾らせた瞳をしている者もいました。

 さて、後はハイネ騎士団長達ですね。

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