第192話いつの間に――。

 竜の魔石を回収した後、部隊が受けた被害の大きさを知ります。

 少年と戦っている時には既に地面に退避していましたが、皆バラバラに着陸した為に集合には時間が掛かってしまいました。


「部隊が受けた被害は甚大です。半数以上のワイバーンと騎士の姿が確認出来ない事を考えれば――」

「ははっ、戦略的には壊滅に近いな」


 トベルスキー王子が集めた情報をフローゼ姫に話すと、彼女は乾いた笑いを漏らし部隊が壊滅した事を告げます。

 まさかたった一度の攻撃で上空にいたワイバーンが壊滅していたとは予想外でした。

 僕達を乗せた馬車はエリッサちゃんが咄嗟に魔法を放ってくれた事で無事でしたが、守るものが無かった他の馬車は呆気なくあの猛威に飲み込まれました。

 僕達は整列し亡くなった者達に黙祷を捧げると部隊を編成しなおします。


「次の街でも待ち伏せされていないとは限らない。素直に街道沿いを飛ぶのは諦めて街を避けてみてはどうだろうか?」


 フローゼ姫が皇国の首都に辿り着く迄に出来るだけ兵の損失を減らそうと画策しそう提案しますが、これにはワイバーン部隊の隊長が難色を示しました。


「お言葉ですが、我等はこの地の地理に詳しくはありません。万一にでも首都の方向を見失えば王が率いる本隊に遅れを取りかねません」

「そなたの言っている事も理解は出来るが、本隊と合流する前に全滅しては元もこうも無いのだぞ?」


 安全策を取るフローゼ姫に対し、無謀にも街道を目安に最短の道を進もうと提案するワイバーン部隊の隊長。

 道に迷って首都に辿り着くのが遅れる愚を犯したくない気持ちはわかりますが、最初の街でこれだけの戦力が配置してあれば普通は次の街ではそれ以上の敵がいると予想するのは難しくはありません。

 それとも他に何か理由でもあるんでしょうか?


「あなた着陸した時に金髪に赤眼の少年を見ませんでしたか?」

「――は?」

「河童はどうです?」

「猫殿は相変わらず無礼だね。見たに決まっているだろう。君たちが着陸した時に左程離れていない場所にいたんだから」

「それじゃ何故そこの隊長さんだけ見ていないんです?」


 どうやら僕の予想は当たっていますね。

 本当に死んでも効果が残るとか、アンドレア国の民達に掛けられた洗脳? 意識の書き換えも難航しそうですね。

 僕はワイバーン部隊の隊長さんの背後に回るとジャンプして回し蹴りで首筋を刈ります。


「いったい何を!」

「ど、どうしたのだ?」

「なんですの?」

「そういう事かにゃ」


 ミカちゃん以外からは突然の暴挙に驚かれ非難の視線を浴びますが、魔族から一度は洗脳を掛けられたミカちゃんには分かったようですね。

 意識を失った隊長さんの顔を尻尾で引っ叩いて無理やり起こします。

 そして最初に質問した内容を再度してみると――。


「この街道をまっすぐ進むなんてそんな無謀な事は出来ません。次の街は避けて通るべきです」


 そんな答えが返ってきました。

 魔族の洗脳がどの程度なのかはっきりとはわかっていませんが、自分の味方を敵と誤認させ、ある目的を遂行させる為にその場所に向かう様に洗脳を施せるようですね。

 しかもあくまで不自然にならないように……。

 これならガンバラ王国の間者が嘘の情報を本国に送っていたのも頷けます。

 本人は正しい行いをしていると思い込んでいるのですから。

 次の街は通らないで迂回する事に決まりですね。


「今のは――」


 王子が突然意思を変えた隊長の様子を信じられないものでも見た様に言葉を漏らします。


「見たままですよ。魔族の洗脳を受けて街に向かう様に誘導されていたんです。おそらく河童の国が放った間者が嘘の情報を国に送っていたのもこれと似たような洗脳を受けた結果だと思いますよ」


 僕が説明すると話を聞いていた皆は難しい表情を浮かべてしまいました。

 当然ですね。

 本人には僕達と敵対する意思はなくとも、考え方が変えられているとなると――何を信じていいのか分からなくなります。

 今は他の人で洗脳にかかった者が居ないか調べている時間はありません。

 いつもと様子がおかしい、または考え方が変わった人がいれば逐一報告してもらうしかありませんね。

 僕達はフローゼ姫の発案通りに街道を右にそれて、高い木々が生い茂る森の上空を飛んでいく事にしました。

 左側にはかすかに街道が伸びているのが見えますが、こちらから見て何となくあるのかな、といった風にしか見えないので恐らく敵がいても僕達を認めるのは困難でしょう。

 当初200匹いたワイバーンを90匹にまで減らし、部隊の再編を終えた僕達は首都を目指します。

 僕達が乗る馬車は穴だらけでしたが、ミカちゃんの修復魔法で壊れる以前の状態に戻してもらいました。

ワイバーンが上空に飛び上がると僕は皆に語り掛けます。


「皇国側に竜が味方しているとなるとこちらも手を抜いてはいられないですね。僕が持っていた魔石をすべて出します。勿論、さっき倒した竜の魔石もです。これを使って戦力強化をしましょう!」


 以前から話していた内容なのでみんなの反応は悪くはありませんが、味方のワイバーンから魔石を回収出来なかったのは痛いですね。あれがあればどれだけの戦力を補強出来た事か……竜が放つブレスは僕の消滅魔法とその効果が酷似している様で魔石も消し飛んでしまいましたから使用する事は出来ません。

 僕は砂漠の街までに稼いだ魔石と猿の魔石、そして竜の魔石を首にかけているポーチから取り出しました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る