第164話逃げられた!

 僕は意気消沈したフローゼ姫を伴い馬車へと戻りました。

 馬車の中には子狐さん、エリッサちゃん、フェルブスターさんがいてフェルブスターさんは良くご無事で……と号泣しながらエリッサちゃんに跪いていました。


「フェルブスターもういいのですよ。元はと言えばわたくしがいけなかったのですから」

「いえ、お嬢様の事だけでは無いのです。旦那様の行方が、わたくしが付いて行けばこんな事には――」


 子爵様が行方不明という話は監禁した騎士達から聞いていましたが、それを身内、子爵家の筆頭執事から告げられるのはまた意味合いが違った様で……。


「お父様は本当にここにはいらっしゃらないんですのね」


 言葉を漏らすと俯いてしまいました。

 そこに僕が割って入ります。


「子爵様と騎士団長は多分、僕達が落ちた穴に入ったと思いますよ」


 エリッサちゃんは、ハッとした面持ちで顔を上げると、


「それでは――」

「はい。僕達が落ちた場所。ルフランの大地に行ったと思いますよ」


 僕達と同じ判断をしたのならば今頃はエルフの領地か、それとも砂漠の国か、はたまた最悪は魔族の領地ですね。

 僕がそう告げるとエリッサちゃんは、珍しく眉間に皺をよせ掌で顔を覆い微かに吐息を漏らしました。

 まぁ、運よくエルフに拾われる事を願うしかありませんね。

 人嫌いのエルフがそう簡単に騎士団長と子爵様を受け入れるとは思えませんが。

 取り敢えず城にいる敵兵は全て無力化したのでそれを報告します。

 後はミカちゃんが合流するのを待つばかりですね。

 フローゼ姫はそんな僕達の様子を、ただジッと見つめています。

 どうせまだ自分を責めているんでしょうけれど、お門違いですね。遅かれ早かれ貴族派が皇国と繋がっていた事で戦争は起きていますから。皇国との戦で何千、何万人が死んだか知りませんけど、死んだ人を弔う気持ちがあるなら残された王女が敵を撃つのが一番だと思いますけどね。

 奴隷にされた貴族達もそれを願っている筈です。

 僕達が馬車でミカちゃんを待っていると、街の方からミカちゃんと子爵城の警備責任者のウォルターさんが歩いてくるのが見えました。

 僕が手を振ると、ミカちゃんもそれに気づき手を振り返してくれます。

 門を渡り終えると周囲を見回し――。


「子猫ちゃん、またやったのかにゃ?」


 悲しそうな面持ちを僕に向けます。

 確かに最初は僕がやりましたが、後半はエリッサちゃんです。

 でも僕の魔法で絶命した人の方が多かったですからね。

 大人しく頭を下げごめんなさいをします。

 ミカちゃんは嘆息すると、


「仕方ないにゃ。でもやり過ぎは注意にゃ!」


 ふふ、何だかんだ言っても許してくれるから大好きです。

 それで警備責任者のウォルターさんがここに戻って来ているという事は、ミカちゃんの方も終わったのかな?


「ミカちゃんの方はどうでした?」

「私の方は後半面倒な事になったにゃ。でも足元を凍らせた後は、監禁されていた兵士さんに任せたから大丈夫にゃ」


 ミカちゃんの話では、監禁されていた兵士さん達を助け出して解放した後で、氷で閉じ込めた敵の兵士達が窓を突き破って飛び出して来たのだとか。

 その兵達の足元を凍らせた所に、近くの民家から住民達が手助けに来てくれて足が凍っている兵達の意識を刈り取り拘束したと教えてくれました。

 サースドレイン子爵は住民にも兵達にも好かれていましたからね。

 僕達がこの街に来た時の雰囲気から貴族派の兵達が好まれていなかったのは何となく気づいていましたが……。形勢が逆転すると同時に反抗作戦に参加するとは思いませんでしたね。

 侮れませんね――子爵領民は。


「それでウォルターさんはどうして?」

「おいおい、英雄殿は言うようになったなぁ。俺は子爵城の警備責任者だぜ。幸い監禁されていた街の警備担当達が解放された事で、敵の残党もひっ捕らえた後だったしな。俺は俺の職務に戻るだけさ」


 ウォルターさんとそんな話をしていると、続々と街の方から人々がやって来るのが見えました。

 人々は馬車の所までやってくると――。


「英雄殿、此度もサースドレインの街を守ってくれて本当にありがとう。ここからの後片付けは私達がやりますんで、お嬢様と英雄様達は城で寛いでいてください」


 見た事はありますが、名前も知らない兵士さんから労いの言葉を貰います。

 でもまだ終わりじゃないんですよね……。

 逃走したハンドレイクの行方も分からないし、外には穴に監禁した元騎士団の連中だっていますから。


「ウォルターさん、敵の大将が逃げ出したんですが途中で見なかったですか?」

「あぁ、見たぜ。共も連れずに単騎で駆けて行った奴が多分そうだろうな。街の兵達が間に合えば門で捕らえたと思うが――そこからは見てないな」

「じゃぁ街の外に逃げられた可能性も?」

「その可能性の方が高いんじゃないか? ミカ殿に助けられた兵が、街の門まで辿り着いても直ぐに門を自由に出来た訳じゃないからな。各門に少なくとも10人は敵の兵がいただろ?」


 そういえば僕達が門を通って来た時に、通行の少ない門なのに10人位は兵がいましたね。それと同じ数の兵がいれば既に逃げられたと考えた方がいいですね。

 問題はハンドレイクの向かった方向ですが……。旧オードレイク側に逃げたのなら皇国、僕達が来た西側に逃げたのなら王都ですか。さてどちらでしょうね。


「ふん。ハンドレイクならば真っ先に皇国に逃げただろうな」


 僕達の会話を聞いていたのか、フローゼ姫が馬車から降りて会話に参加してきました。先程まで顔色が悪かったのですが、大分赤みが戻っていますね。


「ハンドレイクってどんな奴なんです?」

「ふっ、小賢しいくらいに策を練りその癖、剣の腕はハイネ騎士団長や妾よりは劣るが騎士の中ではずば抜けた強さを持っている男だな」

「考えようによっては厄介な相手と言う訳ですか……」

「形成が不利と思えば逃げの一手を迷わず選ぶ。貴族派のグースドレイク侯爵の口利きで3年前に第2騎士団の団長になったのだ。今になって思えばその頃から念入りに企ててきたのだろうな。貴族派は」


 僕からすれば普通の騎士と何ら変わりはないですけどね。

 どれだけ権謀術数に優れていても力の無い人に負ける気がしません。

 それとも僕達を倒す手立てがあるんでしょうかね?

 今回逃げられたものは仕方ありません。なる様になりますよ……。

 となると、次は監禁した元騎士団をどうするのかですね。

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