第127話歴史ある街

 王都へと帰還していく兵達と並行するように、王城目指し馬車に揺られます。

 王は容態の回復に努め一足先に馬車で帰った為、謝罪は王都で行いますと合流した王子から聞きました。


 半日休んだ所で失った血が回復するとは思えませんが……。


 王からの言伝を伝えに来た背の高い騎士はガンバラ王国の騎士団長で、今も僕達を先導する様に目の前を騎馬にまたがり歩いています。

 僕達はというと、王子を迎えに来た時に、執事のお爺さんが乗って来た馬車に王子と共に乗り込みました。


 馬車が追い抜く兵達の表情は、全員無事に争いを避ける事が出来て安堵の面持ちを浮かべています。好き好んで戦闘に参加したい訳では無いようですね。

 今回はワイバーン部隊も上空からの監視が主目的だった事で、幸い1人の死者すら出していません。


 このガンバラ王国は数百年前、種族別に戦争が起こる前時代からの国家で、魔族を従えた魔王が現存していた頃に多大な被害を被った国でもあるそうです。


 そんな国が今も獣人差別を止めない事に疑問が生じますが……。


 その辺りの理由も魔王と関連している様な口ぶりですが、詳しくは説明してくれませんでした。恐らくですが、この王子には教えていないだけで重鎮や貴族などは知っているのではないかと僕は思います。


 何故って?


 馬車の中で話をしながらずっとフローゼ姫を見つめている、色惚け王子ですよ!

 誰が古くから伝わる史実を教えようというのですか。

 まぁそんな事は置いておき、ガンバラ王国はこの大陸でも人族の国家では2番目に大きな国家だと自慢していました。一番はと尋ねると――自国の帝を神として崇めるならば種族を問わず受け入れているエルストラン皇国だそうです。

 ちなみにアンドレア国の事を聞いてみたら――そんな国は知らないと、にべもなく返されました。その時に浮かべたフローゼ姫の苦虫を噛み潰した表情を、この王子に見せたかったですね!


 少なくともこれでフローゼ姫の印象は最悪のものになった筈です。


 そんな王子の自慢話や、軽口、小話をうんざりした面持ちで聞きながら僕達を乗せた馬車は、王都の近くまでやってきました。


「あれがこの国の王都だよ!」


 王子が指を指示した方向を眺めると――僕達がこれまで見た事も無い程、巨大な市壁が聳え立ち角が見えない位、縦横に伸びていました。


「うわぁ~壁が長くて端が見えないにゃ」

「この様な巨大な壁を築いたら、一体何年掛かるのでしょう?」

「妾もこれ程のものは初めて見たぞ」

「アーン」


 皆が感心していますが、こんな壁僕の魔法に掛かれば一瞬で消し飛びますよ!


 でも実際にこれを見た人は驚くのでしょうね。

 縦横数Kmにおよび、高さが20mはあり初めて見た人は砦か何かと勘違いしてしまう様な巨大な建造物が伸びていました。正門と思しき門は判別が出来ず――東西南北に第1の門から第3門まで。計12門の門構えとなっていて、そのいずれにも門の両端に来訪した者を見下ろす様な、大きな竜の石像が鎮座しています。


「どうだい驚いただろう! これが我が王国が数百年掛けて築いた巨大都市だよ」


 皆が呆気に取られていると、また自慢気に王子が語ります。

 何が、我が王国なんでしょうね。

 王子が築いた訳じゃ無いでしょうに。先逹の功績を自分が行ったかの様に自慢してもあなたの評価は変わりませんよ!


 河童王子が!


 僕の視線は王子が被っている尖がり帽に釘付けですが、皆は観光気分でその威容を眺めています。

 しばらく馬車を走らせると、先頭を駆けていた騎士団長が歩みを緩め馬車の窓に声を投げかけてきました。


「私は西2門に先ぶれとして行ってきますので、このままでそちらにお越しください」


 王子が了承すると騎士団長が騎乗している騎馬は、速度を上げ市壁へと向かってどんどん小さくなっていきました。

 僕達を乗せた馬車は、早すぎずかといって遅すぎない速度で進んでいます。

 流石に王都手前の道は綺麗に整地がされていて多少速度を上げても大きくは揺れませんが、それでもサスペンションが付いて居る訳ではありません。僕達の中に乗り物酔いをする者は居ないですが、それを慮った配慮なのでしょうか……。


 意外と王子が馬車に酔うのかもしれません。

 ――いや、そうに違いありません。


 間も無くして騎士団長が駆けて行った方向に、巨大な門が見えてきました。

 門の両側には来訪してきた者を威嚇する様な大きな竜が2体鎮座していて、やってくる者を選別しているかの様に睨みをきかせています。


「――ほぅ」

「こ、これは――」

「大きな竜さんが2体もいるにゃ!」

「ア、アーン」


 流石に市壁で慣れたとはいえ、市壁より更に巨大な竜の石像に皆の瞳は大きく見開かれます。


 大きければ強いって訳では無いですよ!

 きっと戦えば今の僕なら――勝てるかもしれませんしね!


 竜の足元には先ぶれとして先行した騎士団長が馬から降りて待っていました。


「手続きは先に済ませました。馬車はこのまま王城へ――」


 先ぶれで何をしているのかと思えば、入門の手続きに時間を取られないように気を利かせてくれた様です。自慢ばかりの王子とは全然違い出来た人ですね。

 僕達を乗せた馬車は門で止まる事なく、真っ直ぐにアーチ状のトンネルを潜ります。門に到着した時には日陰はありませんでしたが、ひんやりとしたトンネルを抜けると日陰で、その陰は大きく街の中まで伸びていました。

 そういえば日は既に西に傾いていましたね。

 それにしても毎日西日が当たる時間に日陰が出来るのでは、この周辺の住民は大変ですね。そう思っていると――壁の周囲は主に力仕事がメインの職人街となっている為に、汗を搔く職人達にはむしろ喜ばれているのだとか……。騎士団長が教えてくれました。街の住民が置かれている状況も把握されているとは、さすがですね!

 やはり河童とは――以下略。


 影を抜け出て漸く地面が石畳みで出来ている事に気づきました。きちんと繋ぎ目を削って合わせているようで気づきませんでしたが、ここまで気配りが出来るのも大国ゆえなのでしょうね。


 街並みは基礎は石で、壁や屋根は木造建築で作られています。

 どこかの侯爵の街と大きく違う点は、広い敷地を使用している分、家と家の間隔が広い事でしょうか。これなら火災が起きても消火も楽そうです。

 しばらくの間、街並みが続き――飽きてきた頃に目の前に聳える巨大な尖塔が見えてきました。王子の話では王城はこの街の中心にあり、4つの尖塔には常に見張りが立ち街民の監視を行っていると教えてくれます。

 街民を監視してどうするんでしょうね……謀反や反乱が起きる程、王子の父は愚王なのですか? 異常気象や、火災、他国からの侵略を監視しているのではと思いましたが、言っても無駄なので敢えて口には出しません。


 僕は賢い子猫ちゃんですからね!


 木造だった建築物は全て石を積み上げた豪華な建築物に変わります。貴族街でしょうかね。それを過ぎると、広い湖が見えてきて、その中央には数百年掛けて建造したと思える程、威厳のある巨大なお城とそれを結ぶ長い石造りの橋が見えてきました。


 やっと到着しますね。

 それにしてもこの物語で初ですよ、こんなに街の紹介をしたのは……。

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