第57話子猫ちゃんとミカちゃんの潜入作戦
すっかり日も暮れ、辺りは闇の世界に支配されています。
騎士団長とフローゼ姫の軍は、弓矢が届かない場所まで下がり野営の準備に入っています。
「ミカ殿、せっかく兵達が作ったのだ。晩御飯を済ませてから忍び込んだらどうだ」
騎士団長からそう声を掛けられますが、
「お腹一杯になったら眠くなるにゃ。このままで行くにゃ」
そう言って断わります。今回の捕縛にあたって、私物は持って来ていないので、僕達は身軽です。
「そうか。気をつけてな」
「うむ、ミカ殿達とはこれからも付きあって行きたいからな。死ぬなよ」
騎士団長とフローゼ姫からそんな激励を貰いますが、僕達が死ぬ訳がありません。結界に守られているのですから。
僕がミカちゃんに手を向けて結界魔法を掛けてあげると、最初に声をあげたのはミカちゃんでは無く、騎士団長でした。
「うぉ、何だそりゃ。そんなもんありかよ」
「これは、まさか――結界なのか?」
「子猫ちゃん、いつも有難うにゃ!」
「みゃぁ~!」
二人ほど目を見開いて驚いていますが、ミカちゃんはいつもの様に、微笑みながら僕にお礼を言ってきます。
「子猫ちゃんは、私の先生にゃ。これ位は普通にゃ」
そうミカちゃんが自慢気に告げます。すると――。
「これで普通って……まさかもっと上位の魔法が使えるとか?」
「生前にエルドーラ殿でさえ研究はしていたが、最後まで結界魔法は使えなかったのだぞ?」
魔法談義で手の内を晒す人はいませんよ。僕は、時間だよとミカちゃんに催促します。
「みゃぁ~」
「子猫ちゃん、わかったにゃ。魔法の話は内緒にゃ。そろそろ乗り込むにゃ」
二人に手を振り、僕達は街壁の門の内側に聳え立つ櫓からは死角になりそうな場所へと移動します。
ミカちゃんが新しい魔法を覚えた記憶は僕にはありません。いったいどういう事なんでしょう。そう思っていると――。
「子猫ちゃんは、私の肩に乗るにゃ」
「みゃぁ~」
ミカちゃんはしゃがみ込み優しく僕を抱きあげると、自分の肩に僕をそっと置きます。
僕はしっかりミカちゃんの服に捕まりました。
「準備はいいかにゃ、行くにゃ」
「みゃぁ~」
ミカちゃんが腰を低く下げたと思ったら、勢い良くジャンプしました。
10mはありそうな壁を一度のジャンプで登ります。
左右を見渡し人の気配が無い事を確認すると壁の上を走り抜け、今度は一気に駆け下ります。
あれ、魔法を使う時は普通、光ります。でもミカちゃんのそれは光っていません。何でしょう……。
「街の中に入ったにゃ。一気に正面の門兵を倒すにゃ」
僕が不思議に思っていると、既に僕達は侵入に成功していて敵の兵を倒す作戦に移行しているようです。気にはなりますがそれは後ですね。
「みゃぁ~」
僕もミカちゃんに同意し、二人で暗闇を駆け出します。
流石に正門の内側は篝火がこつこつと焚かれています。敵が門の外側にいるのに警戒していない筈が無いですよね。
僕が先頭に立ち、一気に篝火の所で監視していた3人の兵に爪を飛ばします。
一人は首に、一人は腰に、一人は胸に突き刺さると、その勢いのまま切断していきます。
「にゃ、子猫ちゃんやり過ぎにゃ」
「みゃぁ~みゃぁ~」
僕は、この前サースドレインの街を守った時に聞いた、王に反旗を翻した兵の話をします。すると――。
「確かに私も聞いたにゃ。でも出来るだけ穏便にするにゃ」
「みゃぁ~」
出来るだけという事なので僕も従います。
異変を感じて衛兵の宿舎から大勢の人が出てきますが、僕は足元を潜り抜け足首を切りつけて行きます。まるっきり前回の再現です。
ミカちゃんは掌を敵兵に向けると、雨が振り出したのかと思う位、敵兵がずぶ濡れになり次の瞬間――皆一様に凍り付き黒く変色しだしました。
あれ、穏便ですよね――。
足首を切られた兵は悲鳴を、凍った兵は既に亡くなっています。
「みゃぁ~!」
「にゃは、ちょっと力が入りすぎたにゃ……」
僕が穏便に、でしょうと聞いたら――そういう事らしいです。
次々に倒していくと、もう正門の内側には立っている兵は一人もいません。
ミカちゃんは正門の閂を外し外側に開いていきます。
街の住人で騒ぎを聞きつけ、窓越しに見ている人が居ますが、兵じゃないので放って置いても平気でしょう。
次の門を攻略しに行こうとすると、ヒュン、と暗闇から何かが飛んできます。
それはミカちゃんの胸を狙った様で、当ると思われましたが――手前で結界に弾かれ、停止すると真下に落ちました。
僕はミカちゃんを狙った弓兵がいた場所に向け爪を飛ばします。
民家の2回に隠れていて矢を放った様で、装備をつけた兵が地面に落ちてきました。頭から落ちた為に首が変な方向に曲がっています。
邪魔されましたが、当初の予定通りに次の門へと駆け出します。
その頃になると、門が半分開いた事を認めた騎士団長とフローゼ姫の指揮の元、王都軍が続々と正門から中に入ってきています。
背中越しに、王都軍の勇ましい掛声を聞きながら残りの門へと急ぎます。
正門が慌しい雰囲気に包まれているのは他の門を固めていた兵達にも伝わっている様で、僕達が到着すると既に準備は出来ており、槍を構えていました。
これだと足元を潜る前に止められそうです。
僕は威嚇の為に騎士団長を倒した魔法を選択します。
兵達が焚いた篝火よりも明るい火の石が次々と兵達へと降り注ぐと――ミカちゃんが手を出す前に、皆炎に包まれて死んでしまいました。
あれ……騎士団長は死ななかったですよ。
「子猫ちゃん、エグイにゃ。騎士団長さんだから避けられたにゃ。普通の人は死んじゃうにゃ」
どうやらその様です。
僕の経験もまだまだですね。
「みゃぁ~!」
ミカちゃんに、ごめんなさい。をした僕達は次の門へと向かいます。
次の門では、ミカちゃんが最初にブリザードを使って倒したので僕の出番はありません。
次はいよいよ伯爵城ですね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます